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58 嵐の前の一致団結 3

 昼休みになると、昨日もやってきたお客が再び華恋のもとに姿を現していた。


「あ、よっしー。よかった、元気になったんだね」

「ユーゴ! 先生に脅迫されたんだって?」

「わあ。声がひどいよ。まだ休んだ方が良かったんじゃない?」


 もう平気だぜー、という返事にほっとした様子で、祐午は試験対策についての相談を始めた。

 良彦は可愛い顔をうーんと傾けて、少し考えているようだ。


「じゃあ、ユーゴの家でやるか。ミメイ、悪いけどねーちゃんのこと、頼んでもいいかな?」

「もちろん。近所だし、帰りに送るくらい全然問題ないよ」


 華恋が快諾したおかげで、二人の麗しい男子たちは嬉しそうな笑顔を見せている。

 これで、自分も一人静かに試験勉強に打ち込める――。

 そう思った華恋のもとに、更なるお客が現れた。


「ビューティ!」

 桐絵を引っ張りながら、よう子が乱入してくる。

「あら、よっしー、もういいの?」

「バッチリ」


 老婆のような声で微笑む姿に目を大きく開いて驚いた顔をしたが、よう子はすぐにいつもの澄ました表情で華恋に近づいてきた。


「ねえビューティ、あなたの家でみんなで勉強会しましょ」

「え? なんでまた……」


 よう子の家は、散らかっていて勉強どころではない。

 桐絵の家では、誘惑になる本がズラズラ並んでいて部長が集中しない。

 祐午の家では、桐絵が緊張して集中できない。

 祐午は良彦に教わることにした。

 じゃあ良彦が毎日通ってるんだから、華恋の家でいいじゃないか。


 そういうシミュレートを重ねて、こんな結論が出たらしい。


「ビューティの家は広いから、中学生が四人来たって平気でしょ?」

「え? ええ、うーん、まあ、そうかもしれませんけどね」

「祐午と桐絵のためよ。赤点取ったらどうなることか。二人がもし補習なんてことになったら、間違いなく私たちにもとばっちりがくるわ」


 あの演劇の修羅のことを考えると、それはありえるかもしれない、いや、間違いない展開だった。

 とばっちりどころか、むしろ部活に参加したメンバーが矢面に立つ羽目になるだろう。


 前向きに考えた方がよいだろうと判断したが、この計画の気になる点を、華恋はそっと声を抑えて確認していく。


「部長は? 平気なんですか、祐午君と一緒で」

「祐午の家っていうのがいけないのよ。お母さんもいるっていうのが一番のネックらしいわ」

 だいぶ想像が行き過ぎているのではないだろうか。純情な部長の妄想になんとなく照れてしまう。

「じゃあちょっと、家に帰ったら確認してみるんで」

「大丈夫だろ、ミメイん家なら。快く受け入れてくれるよ」

 勝手に会話に入ってきた挙句答える良彦にチラリと視線をやると、ニコニコの笑顔で携帯電話を渡してきた。

「携帯なんか持ってたんだ」

「まあな。緊急用に一応!」


 姉のことを思えば、確かに良彦には必要なものなのだろう。

 いますぐかけろを急かされて、仕方なくこっそり廊下で連絡を入れると、もちろん母の返事は快いOKで、なぜか今日から、美女井家に光瀬中学演劇部特別試験対策室が設置されることになった。



「これで全員だったっけ、華恋」

 帰宅するなり中学生で埋まっているリビングを見て、修は苦笑いしながら娘にこう問いかけた。

「いや、もう一人、副部長は来てないんだ」

「こんばんは、お邪魔してます」

「こんばんは、お世話になります」

 祐午とよう子が朗らかに家主に挨拶し、桐絵もちょこんと頭を下げる。

「レオちゃんも呼べばよかったかしら?」

「いやいや、レオさんが来たらさすがに狭くなっちゃうよ」


 成績のよろしい小粒コンビは余裕の表情で笑い合っている。

 そして一生懸命教科書と向き合う祐午のもとに、正子が一人分だけお茶を入れて持ってきたりする。


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう。サマンサちゃんだったっけ」

「マーサですっ」

 イケメンオンリーのサービスを始めた小学生に、優季が笑顔でするどくツッコんでいく。


「マーサちゃん、それはちょっと、あからさますぎ。まるで中年のような図太さを感じるなー」


 まだ一〇歳の美少女はその一言に慌てて、他の全員分の飲み物を用意し始めた。

 

 大きなテーブルをみんなで囲んで、華恋は隣でペラペラ話す良彦の言葉に耳を傾けていた。

 この問題は絶対出る。この問題が怪しい。これは出ないから覚えなくていい。

 まるで勝手な決めつけのような指導を、素直なイケメンはうんうん頷いて聞き入れている。


「そういう勉強の方法ってある?」

「仕方ないだろ、ユーゴは全教科危ないんだから。パーフェクトは狙わない。切るところは切る、やるところはやる。今回は赤点防止に重点を置いてんだから、これでいいの」


 それにしたって、自信満々すぎやしないだろうか。

 よう子も勘がスゴイと褒めてはいたが、そこまで全面的に信頼して大丈夫なのだろうか、不安は尽きない。


「大丈夫? 祐午君」

「うん。大丈夫」


 返事をするどころではないようだ。これが生返事の見本ですよ、と言っていいくらいの適当な返事をしながら祐午はペンを走らせ続けている。

 その向かいでは、こちらも必死で桐絵が数学の教科書と格闘していた。よう子の厳しい指導に眉間に皺を寄せながら、数式をノートに書き写している。


「いいねえ。青春って感じだ」

「ホントですね」

 食卓でお茶を飲みながら、修と優季が微笑む。

 そして夕食のカレーが出来上がって、全員で食べるとこの日の演劇部の集中講座は終了した。


 みんなが帰ったら、最後は一人でつかの間の集中の時間。

 うさん臭いと思いつつ、華恋も良彦のピックアップをメモしていた。

 ひとつ信じてやってみるか。そう考えて、メモにとってある部分を集中的に覚えていく。



 演劇部のお勉強会はしっかり試験前日まで続いて、美女井家は連日大騒ぎだった。

 母は塾でも開いたのかと近所の奥様に確認されてしまったらしい。

 即席集中講座はこの日で終了。明日からはそれぞれが全力を尽くして、最悪の結果(赤点)だけは避けなくてはならない。


「どう、ユーゴ。自信はついた?」

「わからないけど……。でも、頑張ったから。きっと前よりはいいと思うんだ」

「前より良いじゃダメだろ。赤点はなしだぜ」


 祐午は少し困った顔で、自信がなさそうに俯いている。

 先輩らしく振舞おうと決めたのか、桐絵が拳を作って、力強く話しかけた。


「武川君、大丈夫よ。頑張ったもの」

「部長……」

「台本なら覚えられるんでしょう? 台本だと思って、教科書をよく読みなおしておくといいわ」

「いやあ、教科書は教科書ですよ」

 素直な一言に、良彦が肩をバシバシ叩く。まだ喉の調子はいまひとつなようで、へんてこな裏声交じりでつっこみを入れている。

「ユーゴ、そこは嘘でもはいわかりました部長! って言わないと」

「嘘はつけないよ」

「俳優なのに?」

「よっしー、俳優が嘘をついたらダメなんだよ。芝居以外で嘘ついたら、誰からも信じてもらえなくなっちゃうでしょう?」


 そこから急に、祐午は活き活きと俳優とはどうあるべきかを語りだした。

 この一週間で詰め込んだ勉強の成果が、セリフと一緒にそこらじゅうに撒かれてしまわないか心配になるほどの饒舌ぶりだ。


「祐午君、本当にお芝居が好きなんだね」

 なんとか脱線を止めようと華恋がこう切り出すと、祐午はにっこり笑って頷いた。

「じゃあやっぱり、試験頑張らないと。お芝居の為に補習は避けないとね。一週間みっちりやったんだし、自信を持って挑戦しよう」

「……そうだね。ありがとうビューティ」


 こんな会話を交わした直後に、華恋はすぐそばからおかしなオーラを感じていた。


 部長だ。恋の炎を青く変化させて、嫉妬混じりの視線をこちらに送っている。

 それに気づかないフリをして、お茶用意してくる、と華恋は立ち上がった。

 ジェラシー丸出しなんて、号田一人で充分だなんて思いながら。

 しかしそこで、イケメンが気を利かせて立ち上がってしまう。


「僕も手伝うよ」

「いや! いいよ祐午君は! 藤田っ、こっち来い!」


 なんとか阻止しようと小型犬を呼び寄せたら、今度は祐午がシュンとしてしまった。

 フォローするとなるとまた面倒な展開になってしまうだろう。

 しかたないのでイケメンにはシュンとしておいてもらおうと諦め、良彦と一緒にお茶を用意していく。


「なあなあミメイ」

 しゃがれ声でのヒソヒソ話は正直、聞き取りにくい。少し顔を近づけて、良彦の話に耳を傾ける。

「なに?」

「あれ、送っておいたんだ。Z-BOYグランプリのオーディション」

「本当に送ったの?」

「だってあれだけ芝居やりたいんだから。送るしかないだろ?」

「確かにね」

 

 二人で笑い合っていることによう子からツッコミが入って、良彦が「内緒!」と答える。

 なーにが内緒だよ、なんて思いながら、華恋は仲間たちの元にお盆を抱えて戻った。

 

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