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48 光瀬中学文化祭、スタート! 2

「桐絵に着せるなら、和服かしらねえ」


 よう子が衣装を漁りながら呟いている。

 確かにあの鋭い瞳に和装は似合うかもしれない。

 メガネとの相性も良さそうだと、華恋も考える。


「和服の衣装なんかあるんですか?」

「あるわよ。インチキ着物みたいなものがいくつか」


 写真撮影用の背景をセットしているおかげで、奥のスペースは狭い。

 小柄なよう子でも入りこめないようで、隙間を覗き込んで捜索をしているようだ。


「あった、あったわ、これ……」

 衣装をなんとか引っぱり出したらしく、着物が差し出され、そばにいた華恋が受け取った。

 よう子がよいしょと立ち上がって、くるりんと回る。


「さ、着替えましょ!」

 わかった、とすぐに了承したものの、桐絵の顔は強張っているように見えた。

 それでも親友に引っ張られてついたての奥へ行き、文句を言われながらも着替えを済ませたようだ。


 恥ずかしそうに姿を現した桐絵に、華恋は感心して声をあげた。

「わあ、似合いますね、部長」

 黒地に華やかな模様の入った和服がよく似合っていた。

 細く長い髪も、雰囲気を出すのに一役買っている。

「いいじゃんいいじゃん! さ、部長こっちこっち!」

 良彦が手を引っ張り、お次はメイクコーナー、と連れて行く。


 既にたくさんのメイク道具が並んでいるというのに、イメージが合うものがないのか、良彦は机の下に置かれた大きなボックスから更なるアイテムを取り出しているようだ。


「ちょっとクールな感じに仕上げたら、絶対似合う!」

「あの、藤田君」

「はい?」

 ニッコニコのメイク担当とは対照的に、桐絵はひきつった顔だ。

「あの、私……、初めてだから……」

「部長、恥ずかしがりすぎ」

 モジモジして顔を赤く染める様に、良彦も困惑したのか妙に照れた顔だ。

「メガネ外して」

「え……。それは、あの……」


 更に小さくなっていく親友に業を煮やしたのか、よう子が寄って来てメガネを奪い取った。


「桐絵、もうちょっとリラックスなさいな」

「でも」

「でももなにもない。キスするわけじゃないのよ。そんな反応されるとこっちの方が恥ずかしいわ」


 ようやく顔をあげたものの、桐絵の頬は相変わらず赤い。

 さすがの良彦も控え目にしようと決めたのか、口数をぐっと減らして作業にとりかかった。


 華恋に施したクリスマスガール仕様の「可愛らしさ」を追求したものとは違って、クールな、大人っぽい色が選ばれ、メイクアップが進められていく。

 すっかり真剣な顔になった良彦の横顔を、号田がニヤニヤと見つめている。

 その奥で礼音が様子を伺っていて、よう子は親友の初めての変身に微笑を浮かべていた。


「部長はキレイだから仕上がりが楽しみだね」

 華恋の隣で、祐午が呟く。

「そうだね」

 華恋はシンプルにこう答えた。

 イケメンがあんまり素直に誉め言葉を繰り出すと、恋の天使がイタズラしちゃうのではないか、なんて思いながら。


 やがてクールな知的美女が出来上がってメイクは終了、次は髪型をキメなくてはならない。

「どうしようかな。どういうのが似合うかな」

 フンフンと楽しそうな号田が髪に触れるたび、桐絵はいちいち強張った表情を浮かべている。

 しかし副顧問の方は鏡に映るイヤそうな様子はまったく気にすることなく、持参のウィッグを順番に頭にあてていった。

「これでボリュームアップしてみるか」

 返事はない。が、変態と名高い副顧問の先生はそんなのを気にする男ではない。

 鼻歌混じりでくるりと振り返り、大きな副部長に声をかけていく。


「飾りになるもの、なにかあるか?」

 その呼びかけに黙って礼音が動いた。奥にしまいこんでいたマイボックスをひっぱり出して、ごそごそと漁っている。

 その間に長いストレートのウィッグが仏頂面の部長の頭に装着され、ブラシで見事なまでに馴染まされていった。


「随分印象が変わるわよね」

「BGも髪型を変えたら、別人だと思われるかもしれないぞ」

 感心するよう子に、号田は余裕の大人な微笑みで答えた。


 確かに、衣装担当の先輩はヘアスタイルが特徴的でイメージが強すぎる。

 正子のように、クルクルのツインテールにしたら誰だかわからないかもしれない。

 ついでに、美人にはどんなヘアスタイルも似合うんだろうと華恋は思った。


「そうねえ、私もそろそろ変えてみようかしら……」

「いいね、よう子さん。思い切ってベリーショートとか?」 


 お客が来ないまま桐絵改造計画が進んでいく。

 頭のてっぺんにひとつお団子を作って、長い髪を半分後ろにまっすぐ垂らした、名前のわからない髪型が完成した。

 ビーズの輝きが可愛らしいコンコルドが副部長から差し出されて、号田はふっと笑っている。

「これはいい出来だな、不破が作ったのか?」


 青と紫で彩られたクチバシで髪を挟み込んだら、クールでちょっとミステリアスなメガネ美人が完成だ。


「いいじゃない、桐絵! ステキよ」

 よう子がくるりと回って親友の肩をポンと叩く。

「そうかしら……」

「部長、イケてる! 隠れ美人の本領発揮だな!」

 一四八センチの小粒コンビは、部長を挟んでキャッキャと騒いでいる。

「マジで宣伝行ってきてよ。部長だって気がついたら、みんな慌ててやってくるよ」


 良彦の誉め言葉に、桐絵は赤くなって眉間に皺を寄せている。

 確かに普段はメイクやらオシャレなんかとは縁遠いイメージなので、例えばクラスメイトが気がついたら驚くかもしれない。

 しかし、よっしゃまかせてオラ行って来る! というタイプでもない部長は恥ずかしいようで、モジモジしたまま動けない。


「じゃあ部長、一緒に行きましょうか? 僕はここにいなくても特に問題はないし、せっかく文化祭に参加したんだから誰か一人でも来て欲しいですよ」


 キメキメの祐午が紳士的ににっこりと笑いかける。

 グレーのオシャレスーツ君と、ミステリアスな知的着物美人。

 妙な組み合わせだが、多彩な変身ができるという宣伝になるかもしれない。


「わかった。行くわ」

 眉間の皺を一気に消して、部長が立ち上がる。

 演劇部一同は、おおっと声を上げてこれを歓迎した。


「その前に写真とっとこーぜ!」

 良彦が声をあげると、相手の了承は得ずにあっという間に号田がマイカメラを取り出してシャッターを切った。

 桐絵を一枚撮って、笑顔のスピリットもついでにパシャリ。まったく抜け目のない変態ぶりだ。

「ちょっとゴーさん、全員で撮ってよ」

 苦情を言いながら良彦が部員を全員集めて、桐絵の周りでポーズを決める。

 勢いで撮影をしたが、副顧問はすぐにこんな文句を言って中学生たちを笑わせた。

「俺が撮ったら俺が入れないじゃないか!」



「じゃあちょっと行ってきます」

 宣伝のために桐絵と祐午が出て行き、残った五人は顔を見合わせていた。

「ちゃんと客を連れてこられるかしらね?」

「あんな格好してたら、みんな気になるでしょ。ああ、でもなんか看板みたいなものを持ってもらえばよかったかな?」

 そんなプチ反省会をしていたら、すぐにドアが開いた。

「お客さんだよ!」

 祐午の眩しい笑顔と共に、どやどやと客が入ってくる。

 待望の外来第一号と思いきや、お客様は華恋がよく知っている顔だった。

「おねーちゃん! 来たよー!」


 中学校の部活動の専用ルームに初めて足を踏み入れた美少女小学生はキョロキョロと辺りを見渡して、嬉しそうに顔を紅潮させている。

 正子の後ろには華恋の両親と、杖でゆっくり歩く優季が一緒だ。

 よう子と良彦が笑顔で出迎えて、部室の空気は慌ただしくなっていく。


「よっしーのお姉さんと、……ビューティの妹さん?」

 祐午の表情は柔らかだが、腑に落ちないことがある様子だ。

 隣では、修と美奈子の美女井夫妻が号田に挨拶なんかをしている。

「華恋がいつもお世話になってます」

 それに変態講師はいえいえ、なんてかなりまともな応対だ。


「変身してみる?」

 キラキラのイケメンが中腰で話しかけてきて、正子の目がハート型になって輝いている。


「はい、あの、マーサです。よろしくお願いします」

「美女井マーサちゃん? もしかして、ハーフなの?」


 目の前に両親がいるだろがい、と言いたいところだが、まあいい。

 これが祐午のいいところなんだろう。かっこよくて気が優しいだけで十分天から二物を与えられているんだから、少しアホなくらいがきっとちょうどいい。


「正しくはマーサ美女井って言うのかな?」

 嬉しそうに振り返ってそんなことを言うイケメンに、華恋はこらえきれず、笑いながら答えた。

「ホントの名前は正子だよ」

「え? じゃあ、ミドルネームってやつ?」

 ここまで来ると、さすがに訂正する気力が沸かない。


 こんな経緯で、美女井・マーサ・正子がこの日二人目の変身チャレンジャーになった。

 

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