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27 GOD・A<ヘアサロン・ゴッダ>への誘い 2

「へえ、ゴーちゃんにカットしてもらうの? いいじゃないビューティ」

「よう子さんまでそんなこと言って」


 明るい反応をする先輩に軽く苦情を言うと、よう子はウフフと笑いながらくるりと回った。


「なに言ってるの。ビューティのそのアイアンヘアーが、みどりの黒髪になるのよ?」

「え? 緑ってサイバーな感じじゃない? 校則は大丈夫だっけ」

 

 完全にテンプレな祐午のボケは放っておいて、全員好き勝手言いやがってと華恋は頬を膨らませた。


「お前、ほっぺたぷーが最高に似合わねえな!」

「うるさいよ藤田は!」

「美女井さん、藤田君! 声が大きいわよ!」


 桐絵は原稿用紙に向かってペンを猛ダッシュさせながら、いつものように注意を飛ばしてくる。


「時ノ浦駅ってどこかわからないし、行けないよ」

「あら、じゃあ私が一緒に行きましょうか?」


 よう子は美しい顔でにっこりと微笑んでいる。

 大きな瞳がキラリと輝いて、美人の放つオーラに、華恋は気圧されてしまう。


「よう子さんと?」

「私もゴーちゃんとはそれなりの仲だから対処法はわかってるし、車で送るわよ。まかせておいて」

「いやあ……」

「大丈夫。シャンプーもカットもトリートメントも、必要なものは全部タダでやらせるわ!」


 赤い唇の右側がクイっとあがる。

 これ以上ない頼もしい言葉と笑顔だった。


「よかったなミメイ。俺が行くとゴーさんの様子がおかしくなるから、よう子さんと行ったらいいよ。これで安心だな」

「安心かあ? あんな変態にカットって……。しかもモグリなんでしょ?」

「腕はプロ以上って言っただろ? 神の遣わしたヘアカットの申し子なんだぜ」


 免許がないのにカットして逮捕されたりしないのかという祐午の問いに、おうちで子供の髪を切ったお母さんが捕まるのか? と良彦は笑顔で答えた。

 確かにそうかもしれない。ただ、場所がヘアサロンなだけで。


 よう子と礼音はまじめに文化祭用の企画書を二人で手早く作り上げて、辻出教諭の元へ提出してくると部室を出て行った。

 桐絵は延々と原稿用紙に文字を書き続けまくっており、良彦はヒマそうに雑誌をパラパラとめくっている。


「あ、これか。ユーゴが受けたいやつって」

 開いた雑誌のページには、「Z-BOYグランプリ」の記事が掲載されている。

「ああ、うん。これを受けたいんだよね」

「なんかいいことあんの? これって」

「女の子向けの有名なオーディションは多いんだけど、男向けのはそんなにないんだよね。これは特に有名なやつで、これで賞を取ると特撮番組に出演して人気が出る人が多いんだ」

「特撮なんか興味あるの?」

「うん。僕も小さい頃は好きだったから、出られたら嬉しいよ」


 最近の特撮ヒーローは若いイケメンが主人公をやっていて、子供はおろかその母のハートもがっちり掴むことができる。

 このグランプリを狙うのはなかなか野心があってよいのではないだろうかと華恋は思う。


「祐午君ならいけるんじゃないの? 来年なら応募できるのかな」

「なんだ、来年って」

「十四歳からなんだよね、応募できるのは」

 残念そうに微笑む祐午の隣で、良彦は首を傾げている。

「年齢不問って書いてあるけど?」

「えっ?」

 華恋と祐午の声がぴったりと合う。

「そうなの? よかったじゃん祐午君」

「えっ、じゃあフモンって何歳のこと?」

「アホか!」

 また華恋が思いっきり突っ込むと、桐絵が勢いよく立ち上がった。

「美女井さん!」

「すいません!」

 このやり取りに良彦がゲラゲラと笑って、そちらも桐絵に思いっきり注意を受けた。

 

「不問は問わないって意味だから、何歳でもいいのよ」

 桐絵に説明を受ける祐午は、少しバツが悪そうな様子だ。

「役者を目指すのならちゃんと勉強した方がいいわよ、武川君」

「そうですね。僕、台本だったらすぐに覚えられるんですけど」


 自分だって赤点取ってる先輩にそう答えると、祐午は恥ずかしそうに少し笑って、華恋と良彦の方を振り返った。


「じゃあ応募したらいいじゃんか、ユーゴ」

「うん……」

 返事に元気はない。

「どうかしたの?」

 華恋の問いに返事はなかった。ほんのり寂しそうに微笑んだだけだ。

「締め切り迫るって書いてあるし、送るなら早くしないとな」

 そんな会話をしていると部室のドアが開き、よう子と礼音が戻ってきた。

「OKですって。早速準備しないとね」



「場所はこの部室でやるとして、ちょっと殺風景だからキレイにしないと」

「舞台セットの大道具とかを背景に写真撮ったらいいんじゃないですか」

「まあビューティ、あなたってなんてスマートなの? 伊達に顔が四角くないのね!」

「関係ねえし」

 次々と出されていく意見を右に左に見送って、部長がじっとりとした目をして呟いた。

「私はなにをしたらいいのかしら?」

「桐絵はまず台本を書き上げないとね」


 十二月にやる舞台用の脚本はまだできあがっていない。

 文学の神がもたらしたアイディアは、どうやらクリスマスとは無縁のものだったようだ。


「写真を撮って、その場でプリントして渡したらいいんじゃないかな」

「まあよっしー、あなたもスマートだわ。さすがスピリット」

「やめてよよう子さん」


 部長と副部長は無言だったが、ようやく部活らしい活動が始まっていた。

 衣装に着替え、小道具を選んで、軽くメイクをほどこして写真を撮影、すぐにプリントして渡す。

 変人揃いの部活にしては、中学校のイベントらしい内容にまとまっていた。


 演劇部の広い部室には背景用の大道具を含め、過去に使われた大量の衣装と小道具があった。

 それらを吟味して、使えそうなものを選別していこうという話でこの日の部活動は終わった。


 この日から演劇部はすっかり文化祭モードに入って、当日どんな流れにするのか、なにを使うのかが連日、まるでまともなクラブのように真剣に話し合われていった。

 衣装もあんまり多すぎては収集がつかないと、男女各十点程度に絞られる。

 メイクもやりすぎては時間がかかるし学校内でのことなので軽く済ませるようにするとか、小道具に使えそうなものがダンボールの中から発掘されては礼音が完成度の低さに顔をしかめたりとか、桐絵の脚本はまったく完成する様子がないなんて感じで日々が続いていった。


 そして土曜日。

 学校は休みで、華恋は朝九時に学校の前でよう子と待ち合わせをしていた。

 朝からご飯を食べにやってきた藤田ブラザーズに笑顔で見送られて、家を出る。


 校門は閉まっていて、いつものにぎやかさがない学校の前に一人。

 財布には母からもらった五千円札が入っている。

 五万円は払えないが、持ち合わせがないならいいと言っていたし大丈夫だろう。


「ビューティー!」

 ちょうど九時に大きな声が右側から聞こえてきて、華恋が目を向けると、やたらと大きなサングラスをしたよう子が手を振っているのが見えた。


 部活の先輩が乗っているのはド派手な真っ赤なオープンカー。

 予想外の登場に、さすがの華恋もちょっぴり驚かされてしまった。

 

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