表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

雇いたい男

プルプルと職場の固定電話が鳴った。

個人経営の不動産屋なので少数で切り盛りしていたが今は固定電話より人が少なく電話が鳴りっぱなしになる。

家庭の事情で退職したスタッフの代わりに雇ったバイトは今日も欠勤だった。


知り合いからの紹介だから期待していたがまともに出勤したのは最初の2日だけで後は病気と言っているが恐らく仮病だと察してはいる。

信じたい気持ちで今後について面談を行いたいと連絡したらメールで辞意を伝えられた。

もっと上手い方法があったのかもしれないが考えても答えは出なかった。


欠勤を繰り返すバイトについては行きつけの居酒屋でホールを回している女性店員に愚痴をこぼしてしまった事がある。

嫌な顔をせず聞いてくれて救われたのだがおかしな客に絡まれて一時暗い顔をしていた時期があった。

このまま彼女が辞めてしまうのではないかとヒヤヒヤしたが苦しめていた客がトラブルを起こして来店しなくなったら憑き物が落ちたように明るい顔をしていた。


ただ、問題が一つ。


彼女を苦しめていた客がうちの取り引き先だった。

来月から始める住み替えキャンペーンの広告を依頼していたが倒産するらしく連絡が取れない。

社長が脱税していた事が発覚した以外にも給与の未払問題などが色々起きているらしい。

纏まりかけていた仕事が振り出しに戻った。


キリキリと胃が痛む。


痛む胃のあたりを押さえながら電話に手を伸ばした時、視界が大きく揺れた。

膝から崩れるように倒れながら無機質な天井に向かってぽつりと願いがこぼれた。


「まともな人を雇いたい。」


遠ざかる意識の中取りこぼした受話器から誰かが呼びかけていた気がする…

意識を取り戻した時は病院のベッドだった。


取り引き先が社員用の住居契約で電話をかけたが様子がおかしいので慌てて事務所に来てくれて倒れていた私を見つけ救急車を呼んでくれたそうだ。


人の優しさが身に染みる。


診察と点滴を受け救急外来の医者からは胃潰瘍の診断をされた。

自宅に戻って構わないが暫く身体に負荷をかけないよう養生するよう言われたのだが仕事をしている社会人に無茶な話だ。

刺激物とアルコールは当面制限されてしまったので居酒屋に暫くは通えないだろう。


会計の順番を待つため外来会計待ちの順番札を引き長椅子の端に腰掛けた。

長椅子の反対側に退院会計待ち札をもつ青年と目が合った。

胸の辺りに保護用のコルセットを巻いているのでどこかを入院するような怪我でもしたのだろう。

何処かで出会った気がするが思い出せない気まずさを感じながら声をかけると交通事故で入院したと俯きながら青年は答えてくれた。


「交通事故にあって入院したら『出勤できないならクビ』と言われまして…」

「流石にそれは不当解雇では?何処で働いていたの?」


思わず呆れると告げられたのは倒産した広告会社で見覚えがあった理由が分かった。


「ウチで働いてみないか?」


思わずスカウトしてしまったが辞めたバイト娘よりは真面目に働いてくれる気がした。


_________________



何もない空間。

器用に親指と人差し指で皿のねぎ塩焼きうどんを摘んで口に運ぶ者がいる。


『人の縁は環のように巡るものじゃな。』


空になった皿を興味なさげに放ると静かに目を閉じた。


『人の子の願いは我にはよく分からぬ…。』


ポカンと一つ欠伸をすると荒御魂は眠りに落ちた。

神様はいつだってフルスイングなんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ