第5話 悪徳外道鬼畜はこっそりと 〜外聞は大事ですか?
王都の一角。高級市場区域に着いたユリオは、ハアハアと、息をしていた。
「落ち着け。落ち着くんだ。ここで全てをぶち壊しにしてはいけない」
必死に自分で言い聞かせる。目指す美少女奴隷まであと1歩だ……
まず、市場の手前の店に入って、目立たない服を買った。すぐ着替える。
「よし、いいぞ。俺は落ち着いている。冷静沈着だ。みんなを出し抜いて悪徳する男、それが俺だ」
念願の美少女奴隷を買う。
ルーベイ大公爵ユリオとして堂々と買うのではなく、こっそり買おうとしたのだ。
なぜ、そんなことをするのか。
潔癖症で口喧しい祖母ギオラは、有難いことに急逝した。だから、ユリオを止めるものは何もなかったはずだった。いや、たとえギオラが生きていたにせよ。当主は15歳となったユリオである。だから、
「俺は奴隷を買って好き放題する! 俺がそう決めたんだ。とにかくそうする! お前らつべこべ言うな! 俺は悪徳外道鬼畜が本性だああああっ!」
と言えば、一応それで通るのである。
しかし。
これまでずっと、「父クロードのように、ただ1人の女性を愛し、尽くせ」との教育大方針を表面上は受け入れ、〝良い子〟を演じてきたのである。
いきなり、「俺は15歳になった。俺が当主だ。お前ら俺に逆らうな! 言うことを聞け! 俺は思う存分やってやる! 俺は悪徳外道鬼畜が本性だ! お前ら、わかったかああああっ!」
と宣言したらどうなるだろうか。
家臣やルーベイ大公爵家の親族たちは、びっくり仰天するだろう。それだけで済むだろうか? いや、済まないだろう。
「ユリオ様、ご乱心ーっ!」
と連中に宣告されて、座敷牢にブチ込まれるかもしれない。
これまでひたすら〝父を模範とする良い子〟だったユリオの行状からすれば、そうなる可能性が高い。
誰もが羨む王国の筆頭貴族の地位。権謀術数の中心でもある。足の引っ張り合い、陥れは当然ある。ここぞとばかり当主の地位を追い落とされるかもしれない。
普段から悪徳してたのならとにかく、
「いきなり本性剥き出しで悪徳外道鬼畜全開は、まずいか」
ユリオは、考えたのである。
何事も手順と言うものが必要だ。大貴族たるもの、露骨に欲望剥き出しはちょっと。外聞というのも大事だ。
しかし溜めに溜め込んだ下半身の、いや、頭からつま先までこの身を支配するどす黒い欲望。滾る昏い歪んだ情欲の炎。もう我慢できない。何もしないわけにはいかない。
結局。
「まずは美少女奴隷を1人買う。それもこっそりと。みんなに知られないように。そして密かに愉しみ尽くす」
との結論に落ち着いた。
この考えに、ユリオは満足していた。俺はやっぱり賢い、天才だと1人悦に入っていた。
王国中で賞賛される優等生坊ちゃん。それが一夜にして豹変。さすがに気が引けたのである。表面上は〝良い子〟を演じながら、こっそり悪徳悦楽に耽る。
「うん。これだ。貴族らしくてなかなかよろしい。何も悪徳をみせびらかす必要はない。そうだよな。外道プレイとは、自分の娯しみのためにするものだ。表ではみんなに賞賛されながら、裏で美少女を恣に。ゾクゾクするなあ。それに今まで全然悪徳してないんだ。何もさせてもらえなかった。俺は、初心者マークなんだ。何事も練習が必要。練習して慣れてきたら、ぼちぼちオープンにしていこう。いいぞ。俺は他のバカどもとは違う。耐えることができる。我慢することができる。これまでしてきたんだ。散々とな。あはは、グヘ……そうだ、無邪気なエミナよ。俺の正体を知ったときのお前の顔が楽しみだ。一体どんな顔するんだろうなあ。あはは。イヒヒ、グへへ……グッへへーン!」
奴隷市場を前に。
ユリオはニヤケもヨダレも止まらないのであった。




