第4話 主君が家臣の娘に〝要求〟するのはアリですか?
「ユリオ様!」
ユリオ=忌木信太朗は、はっとした。
王都へ向かう馬車の中である。
美少女の夢を見ながら、ヨダレを垂らしていた。今も反抗的な体育会系美少女奴隷を鞭でひっぱたいて言うことをきかせる夢を見ていた最中であった。口元のヨダレを慌てて拭く。
「もう、王都です」
そういう目の前の少女は。
エミナ。14歳の少女である。執事頭ヴァイシュの娘。栗色の髪を揺らし、明るい瞳。小柄だが引き締まった体。なかなかの美少女である。もちろん、4人乗り馬車の中にいるのは、それだけではない。
「ユリオ様、いよいよですな」
エミナの脇の法学の家庭教師トムセン。初老の眼鏡の男。
ああ、と息をつくユリオ。
いよいよ、王都か。
それにしても。
目の前でニコニコとしているエミナ。可愛い。美少女といっていい。歳は14歳。ユリオの一歳歳下だ。露出度を極力抑えた服を着ている。でも、胸の膨らみは、はっきりとわかる。
一足先に王都に向かうユリオに、エミナとトムセンもついてきたのだ。大貴族というのは、何事も1人というのは許されないのだ。
「でも、よりによって」
エミナとは、子供の頃から一緒だった。仲が良かった。本当に可愛らしい子だ。
しかし、ある年齢を過ぎてからーー
「父クロードのように、ただ1人の女性を愛し、尽くせ」
との、祖母の方針で、エミナも鉄のパンツを穿かされることになった。ユリオの周辺の少女、女性が皆そうである。
エミナも父の執事頭ヴァイシュに厳しく躾られ、絶対に〝間違い〟のない娘になった。祖母ギオラ付きの侍女をしていたが、今は、ユリオの侍女である。だからといって、何かできるわけではない。
今も。
ユリオは、目の前でニコニコとするエミナのようやく芽生え発育し始めた胸を恨めしそうに見つめるばかり。
「本当なら、エミナが俺の初めての相手にふさわしいのに」
大貴族のボンボンの初めての相手は、だいたい家臣使用人の娘である。しかし絶対に〝間違い〟のないはずのエミナに、家庭教師のトムセンまでついてきてやがる。
俺に嵌められた枷だ。
ユリオは、運命を呪う。
◇
「いよいよですね、ユリオ様が、大公爵として王国を支えるんですね。先代のクロード様のように」
エミナが、うっとりとした口調で言う。
やなこった、とユリオは内心。
エミナは、俺のことが大好きだ。主君ユリオに絶大なる敬愛を捧げている。が、結局、俺に〝名誉の戦死〟とか望んでいやがるのか。ありえねー。俺をギオラの教育方針に唯々諾々と従う子供だと思っているのか。とんでもないことだ。誰がそんなことするか。
エミナ。可愛らしい少女。明るい瞳。14歳ながら胸もぷっくりとしてきて。
「俺がご主人様だからな。きっとお前も手に入れてやる。鉄のパンツ? だと? ふん、そんなの、俺が剥がしてやるからな」
独りごつユリオであった。
「いよいよ、王都です」
エミナの声が弾む。
ヴァルレシア王国の王都エスタミダル。巨大な城壁に囲まれた、城塞都市だ。中世ヨーロッパのようだ。もっとも、ユリオ=忌木信太朗は中世ヨーロッパのことなどよく知らないので、違うかもしれないが。ともあれ外観は、中世ヨーロッパのイメージそのままだ。
馬車は城門をくぐる。ルーベイ大公爵の身分証があれば、馬車を降りる必要はない。そのまま、通れるのだ。
王都の邸宅へ向かう。
ルーベイ大公爵のような大貴族は、地方の領地の居城のほかに、王都にも自分の邸宅を持っている。それが普通だった。
王都のルーベイ大公爵邸に着き、ほっと息を吐くユリオ。
「お茶をお淹れしますね。あ、お風呂はどうされますか?」
さっそくかいがいしく働こうとするエミナ。とにかくよく気が利き、よく働く少女なのだ。ご主人様の下半身の欲望には、まるで無頓着だが。ユリオにどす黒い下半身の欲求があるなんて、とても信じることはできないだろう。
「いや、いい」
と、ユリオ。敬愛でいっぱいの侍女エミナの瞳に、優しく微笑む。
「こっちですることがいっぱいある。まずは、王都の空気を、いっぱいに吸ってこようかな。ちょっと1人で出てくる」
「いけませんな、坊っちゃま、いえ、若様」
法学者家庭教師トムセンが言う。エミナも、目を丸くしている。
「この大事な時に、お一人で外出とは。なりません。みなが到着するまで、お待ち下さい」
「おいおい」
ユリオは苦笑する。
「俺が一足先に来たのは、何のためだ? まず、非公式に友人たちに挨拶して回る、堅苦しい儀礼なしに内々祝ってもらう、そういうことだ。ちゃんとヴァイシュにも、言ってあるぞ。問題ないだろ?」
「そういうことでしたら、誰か供をお付けします。1人でのお出かけとか、それはあり得ませぬ」
「ユリオ様! 私が一緒に参ります!」
エミナが顔を上気させて叫ぶ。
これは正論だった。大貴族が1人で外をブラブラするなど、ありえないことだった。
しまった、とユリオ。
今日は、絶対に1人で外出せねばならない。
供? 執事頭ヴァイシュの娘エミナ? ありえない。どれほど俺を敬愛してようとだ。
なんとしてでも。1人で行かねばならない。
これははっきりと決めておいたことだ。
ユリオは、さあらぬ体で言う。
「いや、ちょっと、屋敷の外の空気を吸うだけだよ。たまには1人で空気を吸いたいんだ。俺も色々と頭の整理をしたいし。何しろこれから大忙しになるからな。本当に1人にさせて欲しいんだ。すぐ戻ってくる。ここは王都だ。危険があるわけない。な、いいだろ。もう子供じゃないんだぜ。ルーベイ大公爵だ。このくらい好きにさせてくれ」
「はあ……」
「屋敷からそんなに離れない。この辺でブラブラするだけだ。だから、誰もついてこないでくれ」
「はあ……本当に、遠くへ行かないでくださいね? もしお友達をご訪問なら、ちゃんと供を用意しますから」
「ユリオ様、私はいつでもお供します!」
「うん、ありがとう。いつも頼りにしてるぞ。お前たちのこと。エミナ、供が必要な時は、お前に頼む」
怪訝な顔のトムセンとエミナに、ユリオは、にっこりと微笑む。
そして。あれこれ言われないうちに、王都ルーベイ邸を出た。
さっさと歩く。後に誰もついてこないのを確認すると、走り出した。
「やったぜ。第一段階成功。いや、最後の関門突破というとこかな。姫を抱くには、何重もの扉を突破しなけりゃいけない。前世でガキの頃、そんな絵本読んだな。もっとも〝姫を抱く〟ってのがどんなことか、ガキの頃はわからなかったけど。今ははっきりとわかる。姫ってのはただ綺麗で鑑賞してればいいものじゃないんだ。もっとすごいことを……いや、それしか考えてないんだ……グヘヘ、グヘ……とにかく、もう。ああ……」
ヨダレを垂らしながら、ユリオは1人、夢中になって走っていた。
目指すは奴隷市場である。




