第3話 前世の記憶 〜引き篭もり厨二病のハーレムしたいの夢はかないますか?
ユリオには前世の記憶があった。
前世。それは21世紀の日本。高校2年生だった。高校生……というか。名前を忌木信太朗といった。忌木。この名字は珍しかったのでそれなりに興味を持たれた。が、好感をもたれることは無い。それだけだった。どちらかと言うと、嫌悪、侮蔑の対象だった。名字でイジられることも多かった。学校には通っていなかった。最初は通っていたが、だんだん苦痛になってきたのだ。それほどひどくいじめられたり、辛いことがあったと言うわけではない。ただ、どうしても、人に馴染めなかったのだ。みんなとうまく話せない。だんだん他の生徒の目線が怖くなってきた。いつも教室の隅で、オドオドしていた。教室の椅子に座っているだけで苦痛になってきた。嫌だった。全てが。
そんな忌木信太朗も。家でゲームアニメ漫画ラノベに浸っている時は、幸せだった。ここは自分の居場所だと思った。ここにしか自分の居場所はないと思った。これで全てよかった。
学校に行かなくなった。高校2年生の時だった。ただ、ゲームアニメ漫画ラノベに浸っていたかった。両親とも教師とも揉めた。でも、忌木信太朗の考えは変わらなかった。
「学校に俺の居場所はない。ここにはある」
忌木信太朗が好きだったのは、美少女恋愛ゲームだった。シュミレーションゲームの世界なら、自分が勝つことができた。そして当然ながら、年齢的には問題なエロゲーに嵌っていった。
シュミレーションの世界で、忌木信太朗は勝ち組だった。当然である。ゲームの世界なら、好みの美少女を奴隷にし、好き放題することができた。
奴隷。それは甘美な響きである。肉体と人格の全てを支配できるのである。現実世界ではオドオドした隅っこの少年忌木信太朗は夢中になった。現実を忘れた。
学校にいかず、引き篭りになってから3ヶ月目のことである。
珍しく、忌木信太朗は外出した。あてがあったわけではない。学校に行こうとしたわけではない。ただ、たまには外の空気を吸おうと思ったのだ。親にも外に出ろと散々言われていたし。
そこでトラックに轢かれたのだ。驚く暇もなかった。突然、大きな音がした。あれは何なんだったんだろう。ブレーキか。クラクションか。わからない。ともかく、身じろぎもできないまま、轢かれた。そして、死んだ。
忌木信太朗は、死んだ。パッとしない人生だった。誰がどう見ても。
だが、それで終わりではなかった。
目を開けるとーー
いや、ちょっと待って。目を開ける? なに、それ? 俺は確かにトラックに轢かれて死んだんじゃーー
転生したのだった。生まれ変わったのだ。
気づいたとき、忌木信太朗は、生まれたての赤ん坊、ゼロ歳児だった。
なんだこりゃ。
しかし、それが現実だった。
こういうアニメを見たことがある。いや、大好きだった。
うまくいってない高校生が引き篭りになって死んで異世界で転生してーー
自分もそうなったらいいな、と思っていた。
そうなったのだ。ありえないことだが。本当に。最初は受け止められなかった。でも、現実だった。受け止めざるを得なかった。
牛みたいに乳房の大きい女におっぱいを吸わされた。ドキドキした。でも、それは母のセシルではなかった。乳母だった、この世界では、大貴族の母親は自分で授乳しない。乳母がその役割を務めるのである。セシルはおっぱいこそ飲ませてくれなかったが、いつも優しく愛情たっぷりに抱いてくれた。
「ユリオ、あなたが私の赤ちゃんよ」
◇
忌木信太朗は、異世界ヴァルドでユリオとして人生を0歳児からやり直した。前世の記憶はしっかりあったが、体は幼児だった。とにかく、おとなしく周囲の言うままにしてるしかない。
だんだんと学習していった。異世界のこと。自分の立場。
ここは、21世紀の日本ではない。いや、地球でもない。
異世界、と言うやつだ。異世界転生したんだ。この住民は、この世界をヴァルドと呼んでいた。異世界ヴァルド。そこに転生したんだ。
それしか考えようがないので、受けいれることにした。受けいれるしかなかった。
ずっと意識は前世の高校2年生17歳のままだった。成長し、学習していった。どうやら、この異世界ヴァルドは。
剣と魔法の世界。そういうことらしい。前世のゲームとかで散々やったファンタジーの世界だ。
石油石炭ガスの火力の無い、中世ヨーロッパ。日本で言えば、戦国江戸といったところか。忌木信太朗も、それほど歴史の勉強をしていたわけではない。漠然としたイメージだった。中世。でも、魔法がある。
そして、わかったことが1つ。大事なこと。
自分の名前。
ユリオ=アルゲネス=パロ=ルーベイ。
王国の筆頭貴族。誰もが羨む身分。
「なんだこりゃ、転生ガチャ大当たりだ! 俺スゲエエエエ!」
ありえないくらいの幸運だった。
◇
「俺はついている。これ、夢じゃないよな」
そう言って何度もほっぺをつねりながら、ユリオは嬉々として異世界での第二の人生をやり直した。
素晴らしかった。いつも大勢の人間にかしずかれるのだ。何もかも周囲の人間がやってくれるのだ。周囲の言う通りにしていれば、それでよかった。
圧倒的な富と権勢。
「これから、これから、前世じゃゲームでしか体験できなかった美少女ハーレムとかも、現実に……」
デレデレグヘグヘとヨダレが垂れる。もっとも乳幼児期の頃はさすがになにもできない。意識はしっかり17歳だが。いつまでも未練タラタラ乳母のおっぱいに吸いついていて、乳離れの遅い子だとみなに呆れられた。
幼年期になってもハーレムとかは無理だが、これからのことを思うと、大満足だった。
ところがーー
7歳で、誰よりも優しく愛情たっぷり注いでくれた母セシルを病気で失ってから。
「うん、これ、なんかちょっとおかしくね?」
思うようになった。
なんだかバチバチの節制禁欲生活を、押し付けられたのである。父クロードの、そして、厳格で潔癖症な祖母ギオラの絶対方針である。
しかし、それももう終わりだ。
ユリオは、鏡を見て、うっとりとなる。
豊かな金髪。碧い瞳。整った顔立ち。前世の忌木信太朗とは、まるで別人だ。前世の基準でも、異世界でも、十分なイケメンである。
それだけではなかった。
肝心の下のモノは。
前世の17歳の時より、今15歳のモノが、
「2倍、3倍はある」
これはありえない自信となっていた。
「富、権勢、美貌、下のモノ、俺には全てがある。全てを手に入れるんだ」
明るい未来しかなかった。




