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第1話 異世界転生した引き篭りが美少女奴隷を買っていいですか?



 夢にまで見た美少女だった。


 澄み切った物問いたげな黒い瞳。形の良い唇。腰の下まで豊かに垂れた艶やかな黒髪。降り積もったばかりの雪のように白く輝く(はだ)。最小限だけ身体を覆う衣装の下ではち切れそうになっている(バスト)。今にも零れそうだ。スレンダーな腰。肉感的な丸みを帯びた(しり)から腿の(ライン)。まっすぐな脛。可愛い綺麗な足。


 ユリオは息を呑んだ。

 

 これだ。


 俺が欲しかったもの。


 どうしても欲しかった、何があろうと手に入れなければならないもの。前世では決して手に入らなかったもの。


 究極の美少女。売りに出されている奴隷だ。


 自分のものにすれば。なんでも、どんなことでも、好き放題……転生前の自分には決してできなかったことを、やりまくり……


 黒い欲望が突き上げてくる。いやとっくにその身は欲望の炎に包まれ焦がされていた。


 よし。


 躊躇う理由はない。迷いは無い。ただ目の前の美少女しか見えない。


 

 「買うぞ! 買うんだ! グッへへーン!」



 ◇



 「見渡すかぎり、全て俺のものだ。森も、農園も、領民も、家畜も、全部……俺の自由になるんだ。俺の財産だ。俺が受け継ぐんだ。大公爵だ。王国一の大公爵だ。いよいよだ。本当に俺が貴族の当主になるんだ。もう誰も、俺の邪魔をするものはいない」


 ユリオは、城壁の上に立っていた。自らの居城ルーベイ城である。城壁の中で、とりわけ高い楼閣の上。


 15歳の少年である。正式な名は、ユリオ=アルゲネス=パロ=ルーベイ。


 豊かな金髪を編んで垂らしている。碧い瞳。鮮やかな青いマントに、金糸の飾りのふわりとした長衣。大貴族の正装である。爽やかな風に揺れるマント。興奮したユリオの身体は火照っている。


 よく晴れた青空の下。高い楼閣からは、眼下に続く平野から遠くの山脈まで見渡せた。見えるのは。収穫期を待つ畑。そこで働く民。彼らの村。大きな森。そして、家畜の放牧地。農地、村、森、放牧地、平原。縦横に走る道。のんびり歩く旅人に商人の荷馬車。それらが入り組みながら、どこまでも、ずっと続く光景。


 ルーベイ大公爵領である。ヴァルレシア王国の筆頭貴族。最も豊かで巨大な領地と権勢を持つ。


 ユリヌは、大公爵家の跡取り息子として生まれた。生まれながらにして、誰もが羨む身分であった。7歳の時に母セシルを病気で失い、9歳の時、父クロードを失った。戦死だった。父は王国の筆頭貴族として対魔族戦役に出征し、名誉の戦死を遂げたのである。


 それからというもの、祖母ギオラが幼いユリオの後見人となり、ルーベイ大公爵家を采配した。家臣たちに守られて、ユリオは成長した。


 遂に15歳となった。ヴァルレシア王国では15歳が貴族の成人年齢であり、正式に当主となることができたのである。祖母の後見を離れ、全てを手にし、ルーベイ大公爵として思うがままに振る舞えるのである。


 ここまで養育してくれた祖母ギオラは。ユリオが15歳を迎えると、安心して、張りつめていた気が緩んだのか、ぽっくりと逝った。


 「ユリオ、よくぞここまで成長しました。お前はルーベイ大公爵の名に恥じぬ人間です。父クロードのように、立派な貴族となるのですよ。王国と領民のために尽くしなさい」


 ユリオにそう言い残していった。安らかな死であった。



 「よっしゃあああああっ!」



 祖母ギオラの死で悲嘆にくれる城の中、ユリヌは1人、自室でガッツポーズをしていた。


 「もう俺を止めるものはないぞ! 好きにしていいんだ! 欲望のままにしてやるんだ! クックック……俺の欲望……前世じゃ絶対できなかったことも……なんだってかんだって……誰にも何も言わせない! 大公爵は俺だ! 俺様だ! みんなに感謝してるぜ! 父、母、祖母、国王、家臣ども、領民……王国……この世界全部! ありがとう! 異世界最高! 俺の前にすばらしい絨毯(カーペット)を敷いてくれて! 喜んで踏んで行ってやる! みんな大好きだ! ギオラもいいタイミングで死んでくれた! 本当に俺のこと思ってくれてるんだな! 感謝だ。感謝しかない!」


 口元にだらしない笑みを浮かべ、ヨダレを垂らしていた。


 正式な当主襲名直前の祖母の急逝で何故か、不謹慎な喜びに浸るユリオ。今にも踊りだしそうだ。愛情たっぷり養育してくれた祖母の死で、なんでこんなにも罰当たりな行動を取れるのだろうか。


 これには事情があった。


 「ユリオ、あなたは必ず、父クロードのような貴族となるのですよ」


 祖母ギオラは厳格だった。ユリオをとことん愛していた。だからこそ、幼くして両親を失ったユリオの養育教育に、全てを捧げたのである。ユリオのすべてに目を光らせていた。


 ギオラの教育方針とは、「クロードのような貴族に!」そう、ユリオを自分の自慢の息子クロードと同じ人間に育てることであった。


 父クロードのような貴族。それは、愛するのはたった1人の女性、妻のセシルだけで、他の女には目もくれず浮気1つせず妻に操を立て、王国の戦争では先頭に立って戦い名誉の戦死を遂げ、貴族の鑑と称えられる、そんな男になれ、ということであった。クロードの死は王国中、いや他国でも賞賛され、その葬儀の日には王国中が涙したものである。それには、妻を亡くしたクロードの後妻の地位を狙っていた貴婦人たちの悔し涙も含まれていたが。


 「冗談じゃねええええっ!」


 ユリオは、押し付けられる理想の人物像を、断固拒否していた。


 「愛するのはただ1人の女性? はあ? おいおい。王国一の大貴族なんだぜ。国王よりも富があるんだ。それに権力も。女を何十人、いや、何百人だって囲って侍らせることができるのに、やりたい放題、それをたった1人だけで我慢しろだと? バッカじゃねーの! ありえねー、絶対にそんなのありえねー、もう、笑っちゃうぜ! それになんだ、名誉の戦死をしろ? なんだそりゃー。あのー、なにいってるんですか? 頭大丈夫ですか? 貴族ですよ。大貴族ですよ。楽しいことがいっぱいの。戦死? 名誉の? なにそれー、いやいや、ありえねーよ、せっかく大公爵の跡取りに生まれたのに、死んじまったら何にもならないじゃないか。そうでしょ? 目一杯楽しいことしなきゃ。生きている限り。自ら死にに行くなんて。バカ丸出し。それだけ。魔物(モンスター)相手に死ぬなんて。一体何のためにこっちに転生してきたんだ。俺は嫌だ。絶対に。ま、確かに、貴族には出征の義務があるけどさ。そんなの真面目にやる必要ない。戦場って言っても、危険な前線になんか出ないで、後方の帷幕(テント)で美女を抱いて、寝てりゃいいんだ。剣だ魔法だで血を流すなんて、恐ろしい。とんでもない。大公爵様が自ら剣なんか振いませんよ。そういうのは下っ端兵卒と頭のおかしい戦闘バカにやらせときゃそれでいいんだ。イカれた戦闘バカ貴族ってのはそれなりにいるからな。連中の仕事だ。俺は安全な後方にいる。そして危なくなったらスタコラ逃げる。みんなそうしてるんだ。それでいい。名誉の戦死? 阿呆のためにある言葉だ。あー、ヤダヤダ。俺は賢く生きるぞ。そして娯しくな。大公爵様なんだぞ!」


 「父クロードのような人間にはならない! 絶対に! 何があっても!」


 それが幼くして確立されたユリオの信念であった。


 とはいえ。


 後見人の祖母ギオラも、家臣たちも、王国の誇り、貴族の鑑であるクロードの崇拝で凝り固まっていた。まさか、みなの前で、「絶対に父のような人間にはなりません」などと言えるわけがなかった。


 ユリオはおとなしく、祖母の教育方針を受け入れた。言われる通りにしていた。ひたすら〝良い子〟として振る舞っていた。勉強に武芸、礼儀作法、大勢その道一流の家庭教師がつけられ、生活が管理された。厳格で、窮屈で、息詰まる毎日だった。


 「俺が15歳になって、正式に当主となったら」


 ひたすら厳しく監視され躾られの、うんざりする日々。ユリオは密かに誓っていた。


 「やってやるぞ。絶対やってやるんだ。悪徳外道鬼畜、なんでもござれ。ふふ、みてろよ。今は罰ゲームタイムだ。でも、これがあるから、余計に後のご褒美タイムが美味しくなるんだ。あはは、あはは……そうだ。俺は悪徳貴族、外道領主、鬼畜ご主人様としてこの世界に名を轟かせてやるんだ。父さん、母さん、ギオラ、あの世でしっかりと見守っていてくれよな。あはは、うへへ……ぐへへ……グッへヘーン!」


 悪徳外道鬼畜を極める! それが俺の夢! 絶対負けないぞ!


 「ユリオ様、貴族たる者の義務は神聖な法の守護こそ最も尊ぶべきもので……」


 老神官の家庭教師が熱心に神の道を講義するのを聞き流しながら、ユリオはヨダレを垂らしていた。


 

 ◇



 「ユリオ様、出立の準備ができました」


 家臣の声がした。


 「わかった」


 振り向く前に、ユリオはもう一度、城壁の楼閣の上から広大な領地を見渡す。


 「行くぞ。行ってくるぞ。ここに戻って来たときには、全て、完全に俺のものなのだ」


 思わずニンマリする。


 王都へ行くのだ。


 ルーベイ大公爵継承の当主お披露目式を華々しくを行うためである。


 国王自ら隣席する。王国の貴顕、外国の使者がみな参列する。ユリオ一世一代の晴れ舞台だ。

 

 どれほどこの日を待ち焦がれていたことが。


 誰憚ることなく振る舞える大公爵に、自分がなるのだ。


 そして、もう一つ。


 王都ですること。


 奴隷だ。


 美少女奴隷。


 美少女奴隷を買うのだ。


 正式に大公爵家当主となった暁に、まずやりたかったこと。どうしてもせねばならなかったこと。これまでひたすら我慢を重ねてきた。その鬱憤、積み上げた欲望を全部発散させるのだ。


 そのための美少女奴隷。


 ユリヌの頭は、まだ見ぬ美少女のことでいっぱいだった。



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