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芽吹き

作者: つるいも

小説というものを初めて書きました。

秋の文芸展2025

をきっかけに小説を書いてみようと思いました。

私は植物を育てるのが苦手だ。


小学校の夏休みの宿題でお馴染みの朝顔。プランターに種をまいて芽が出るところから観察が始まるが、私のだけ芽が出なかった。確か先生が芽が出た苗をくれた気がする。夏休み中は父が世話をしてくれていたから無事花が咲いて宿題が出来た。

次は中学生の理科の実験。大豆が芽を出す経過観察があった。湿らせたコットンの上に大豆を置いておくだけだ。簡単なものだったが、私のだけ豆が腐って芽が出なかった。遅くなってもいいから観察してね、と先生から新しい豆を貰って家で観察した。その時も父が世話をしてくれたから芽が出てなんとかなった。

そして再び訪れた試練。友人が誕生日プレゼントにミニひまわりキットをくれたのだ。窓辺にも置けるような小さなひまわりが咲くらしい。咲いたら教えてね、と期待の眼差しで言われてしまえばなにがなんでも咲かせねばと使命感に駆られた。私は今までの経験を踏まえて父に託した。さすが父だ。見事に可愛らしいひまわりが咲いたではないか。友人は喜んでくれた。試練を乗り越えホッとしたのもつかの間、花は枯れた。私が世話をしだして枯れてしまったのだ。友人に聞かれるたびに元気に咲いてると伝えた。心がチクリと痛むのは最初だけでその後はテンプレートのように嘘が口からするりと出てきた。


つまり、植物を育てるのが苦手なのだ。もはや植物が私を嫌っているのではないかと思うほどだ。手順通りにしているのに上手く育てられない。その話を高校の友人に話したことがあるが「思いやりが足りないのではないか」と言われた。植物に対して思いやり?高校生のお昼ご飯中のたわいもない話だったが私は妙にその言葉がいつまでも頭に残った。


そもそも思いやりなんて持ち合わせてないのかもしれない。家族にしろ友人にしろ自分の全てを晒すことは出来ない。誰にでも秘密はあるし考えを理解してもらえるとも思わない。所詮他人なのだ。優しい人だねと言われても、それは相手を傷つけたことで自分が傷つくのを避けているからであり、結局自分のことしか考えてないのだ。

そういう所を植物や動物は見抜いているのかもしれない。多分ペットでも飼ったらひまわりのように悲惨な最期を迎えさせてしまうのだろう。


大人になっても自分の中で思いやりの心はない。家族とも上手くやっているし、仕事でも周りと関係を築いている。むしろ人当たりが良く評判もいいほうだ。ただその一方で友人は減っていった。自分から連絡をしない上、休日は家でダラダラ過ごしたいので仕事を理由に誘いを断っていたらだんだん疎遠になっていった。


そんな家と仕事場の往復だけの人生を送っていた頃、突然懐かしい名前がスマホ画面に現れた。高校からメアドを変えていなかったからメールが届いたのだ。ナナという人間だ。彼女とは小学校で出会い、中学ではたまに廊下で見かけたら挨拶を交わす程度。その後高校は別で夢である看護師になったという話は人づてに聞いていた。

メールの内容はあまりにも現実離れな内容で何度も見返した。

ボランティアで海外に行くからその前に会えないか、という内容だ。




待ち合わせの駅の改札を出てその姿を探した。私は成人女性の平均身長より小さく、そんな私より小さいのですぐに目に止まった。最後に会った頃より髪は長く、自分より大きいのではないかというほどのバックパックを背負っていた。

近づいていくと顔は昔のままで目がクリクリして頬がぷっくりとした愛嬌のある笑顔がこちらを見た。

「久しぶり!レンだよね?」

「うんそうだよ。ほんと久しぶりだね。」

「とりあえずあそこのカフェにでも入って話そう!時間も限られてるからさ!」


カフェに入り机に2つの飲み物が並んだのを合図にナナは話し出した。

「この後すぐに出国するんだ。その前に会えて良かったよ。成人式で会えるかなと思ってたけどレン来なかったじゃん?連絡すれば良かったのにしなくてごめんね。仕事で精一杯だったんだ。あ、看護師なんだ。」

「看護師なのは知ってるよ。看護師って忙しいもんね。私も連絡しなくてごめんね。」

成人式に行かなかったのはそういう行事がそもそも嫌いだったのと、昔の友人に会うのに気が引けたからだ。少し気まずい気持ちを隠しながら話を逸らした。

「海外ってどこに行くの?旅行?」

「ううん。国〇なき医師団でアフリカ行くの。」

「アフリカ?!」

「昔話したことあるじゃん?国〇なき医師団の話。そしたらレンも医者になって国〇なき医師団入りたいって言ってたから、てっきり医者になるのかと思ってた。」

「あー、うん。医者にはならなかったよ。今はただの会社員。」


目の前のカフェオレと一緒に込み上げてきた小学校の頃の記憶を飲み込んだ。

そうだ、私は小学校高学年のとき医者になりたかったんだ。テレビで国〇なき医師団を知り、医者になって人を救いたいと強く思ったのだ。心がポカポカして瞬きも忘れてテレビを見つめていた。家族にも言わなかったけどナナにはその話をしたんだ。ナナも同じ夢を持ってると知った時は2人が強い糸で結ばれたような気がした。

彼女は夢を叶えようと今まで頑張ってきたんだ。私はそんな事すら忘れていたというのに。


その後の会話はあまり覚えてない。ナナを改札まで見送って頑張ってと送り出した気がする。もっと気の利いた事言えたら良かったのに上手く言葉が出てこなかった。




あれから家と仕事場の往復生活が続いている。ふとした時にナナのことを思い出す。今頃どこで何をしているのだろう。夢を叶え、キラキラとしていた彼女の後ろ姿が遠くに感じる。繋がった糸はまだあるのだろうか。とうの昔にちぎれてしまったのだろうか。それともまだ繋がっているのだろうか。自分から連絡をしてみればいいのに出来ない。今まで友人と繋がるために自ら動こうとしなかった自分が足を掴んで離してくれない。一歩が踏み出せない。


そんなモヤモヤしたまま仕事をしていたからなのか、激務に追われ限界が来たのか、ある朝私はベッドから起き上がれなくなった。仕事に行こうとしても体が動かないのだ。そんな日が3日続いて仕事場にも迷惑がかかってしまうと考え、ついに病院に行くことにした。診断結果は抑うつ状態。うつ病の1歩手前と言ったところか。やはりと思った。自分はこんなにも弱かったのか。死にたいと考えている自分に笑ってしまう。病気のせいだというがあまりにも無力だ。死んだら迷惑がかかってしまうと思うと死に方も選べない。生きることも死ぬことも出来ないそんな宙ぶらりんな状態が余計自分を追い込んでいく。


ベッドに寝そべりただ天井を見つめる。こんな時ナナならなんて言うだろう。うつ病になったなんて言ったらどんな顔するだろう。次会う時は黙っていよう。きっと心配してしまうだろうから。夢を追う彼女の邪魔はしたくない。

ふと、昔枯らしてしまった植物達が頭によぎった。朝顔も大豆もひまわりも、なぜ育たなかったのだろう。なぜ父は上手に育てられたのだろう。やり方は合ってた。ひまわりは特に注意していて父が世話するのを真似ながら一緒に世話をしていたのに。何がいけなかったのだろう。


突然涙が溢れてきた。悲しいのか嬉しいのかよく分からない感情。心臓がギュッと掴まれてるように苦しい。息が出来ない。枕に顔を埋めて涙がどんどん枕を湿らせていく。

救いを求めるように枕元のスマホを手に取り画面に「ナナ」の文字を出す。




『日本に帰ってきたら会おう』




その一文だけのメールを送信した。この地球のどこかにいる彼女に届くことを信じて。




友情、思いやり、繋がり。それらが芽吹いた瞬間だった。

最後までお読みくださりありがとうございます。


誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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― 新着の感想 ―
『芽吹き』読ませて頂きました! 初めて?の執筆とは思えないほど、キレイに纏まっていて とても読みやすかったです! 自分は思いやりとかないのかな、と薄々感じてはいたが見て見ぬふりなのか、目を逸らして…
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