表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/67

夢紡ぎミストブレッドを紡いで その十九


 意識が浮上する。遠くでふわふわした声が聞こえるような気がしたが、すぐにそれは周囲の喧騒にかき消された。


 ゆっくりとまぶたを開くと、広場の空気がふっと揺れた。どうやら村の広場に寝かされているらしい。ぐるりと囲む村人たちの顔には、心配と安堵が混ざっていた。


「「モフさまぁ~!!」」


 次の瞬間、小さな二つの影が勢いよく駆け寄り、ユウマに飛びついてきた。ミミとロッコだ。深層夢の中で見た、どこか大人びた雰囲気は消え、いつもの無邪気な笑顔がそこにあった。


「よかったぁ、モフさま、おかえり!」


「しんぱい~したんだよ~」


 二人は小さな腕でユウマをぎゅっと抱きしめ、その温かさに彼も深い安堵感を覚えた。


「大丈夫かのう?」


「ユウマちゃん!」

 

 薬師のガランとミーナも駆け寄り、ユウマの体を優しく撫でた。ガランの手と、ミーナの温かい眼差しに、猫獣人は現実世界に帰って来られた実感が湧いてきた。


「一体、何があったんだ?」


 村長のセイルが少し離れた場所から声をかけた。ユウマはゆっくりと起き上がり、周囲の顔を見渡しながら答えた。


「……うん。夢の中の世界にいたんだ。あの古文書に書かれていた詩文は……やっぱり、パンの材料のことで合ってたよ」


 そう言いながら、ユウマはそっと自分の掌を開いた。そこには、確かに二つの輝きが宿っていた。


 一つは、透明に近い乳白色の球体、クイズの試練で入手した『眠語の記録種』。もう一つは、ふわふわの白銀の繭に包まれ淡く光り、ウィスプリアの真名を解明して得た『言霊の繭核』。


 それらは、まるで星屑が集まったかのように強い光を放ち始めた。神秘的な光は、ユウマの小さな掌の上で力強い六角形を描き出していた。


「おお……」


 村人たちは、その神秘的な輝きに息を呑んだ。


 これまで見たことのない、純粋な美しさを持つ光だった。


「この素材で作ったパンは、とっても美味しくなるらしいんだ。だから、一緒に作ってほしいんだ。……約束したから」


 ユウマの言葉に、村人たちは顔を見合わせた。「約束? 誰と?」という疑問が、彼らの表情に浮かんでいた。


 しかしパン屋の娘ティナは、ユウマの言葉を聞くや否や、「フンス!」と鼻息を荒くし、両手をグーにして意気込んだ。


「もちろん! こんな凄そうな材料を使ったら、どんな美味しいパンができるか、楽しみね! 腕が鳴るわ!」


 その様子を少し離れた場所から、神官のハンナがいつもの気だるそうな表情で見守っていた。そして、欠伸混じりの声で言った。


「あーしは先に神殿に戻ってますよぉ。なんか、準備とか色々ある気がしやがるんで」


 そう言って、ハンナはゆっくりと神殿の方へと歩き出した。彼女が持ってきていた祝詞が書かれた書類や祈りの道具を抱えて。


 皆が今後のことを話し始める中、ユウマは急に強い疲労感に襲われた。全身が鉛のように重く、まぶたが何度も閉じそうになる。


 額にはじんわりと脂汗が滲み、まるで体の芯から半透明の魂が「にゃー」と抜け出ていくかのような脱力感に襲われる。


 ステータスを確認してみる。


『疲労度:30/10』


(……は、はい? ゲージがオーバーフローしてるんですが……数字以上に疲れを感じる……早く家に帰りたい……)


「おや、これは……。ユウマ、顔色が優れないのう」


 ガランがユウマの様子に気づき、心配そうに声をかけた。ユウマは自分の身に起きている異変を理解していた。


 これは、あの不名誉な称号『働きすぎた者』の影響に加え、『深層夢』での冒険と超常の存在と対峙したことにより、自信の限界など優に超えてしまったためだろう。


(……あー、確かギンコと戦闘したときと同じ、あの芯から来る疲労感と似てるなー……しんどいー……きついー……にゃー)


「……大丈夫……ちょっと、眠いだけ……」


 掠れた声でそう答えるユウマを見て、ガランは労るように優しい笑顔を浮かべた。


「また無茶したようじゃな。明日また、元気になってから仕切り直すとしよう。帰るぞ」


 ミーナも心配そうにユウマの背中を撫でた。


「そうね、今日はゆっくり休みなさい」


 ガランの背中に身を預けると、ユウマの意識は急速に遠のいていった。体を揺らすガランの足音が遠い子守唄のように聞こえる。ミーナとガランは、夢の冒険から帰ってきたばかりの、いつも頑張り過ぎる小さな体を気遣いながら、家路へと向かう。


 家に戻ると、ミーナは手際よく看病の準備を始めた。ユウマの好きなラベンダーのアロマを焚き、冷たい湿布をユウマの熱を持ったおでこに貼る。そして、消化に良いおかゆを丁寧に作り始めた。

 

 光が灯る部屋の中、ミーナは静かに疲労困憊の小さな猫の寝顔を見守っていた。その瞳には、優しさと、少しの心配が宿っていた。



「……帰ってきてくれて、よかったわ」


 そう小さく呟くと、ユウマの頭をひと撫でし、そっと毛布を直した。


【大切なお知らせ】

いつもお読みいただきありがとうございます!


本作は、現在更新中の香章のクライマックスをもって一度完結します。

完結は12/21(日)予定です。

それまでは、毎日12時更新に変更はありません。


書きながらずっと「もっと良くできたはずだ」と引っかかっていました。


作品を大幅に見直して、来春を目標に、土台から書き直したリブート版を出します。


最後まで、見届けてもらえたら嬉しいです。

香章のクライマックスもぜひご期待ください!!


詳細は作者「活動報告」からご確認くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ