表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/67

夢紡ぎミストブレッドを紡いで その三

 翌日も、ミミの眠りは依然として深かった。ガランや村長夫妻も、ミミの穏やかすぎる寝顔と高熱という不可解な状態に、ただ首をかしげるばかりだ。

 

 ユウマは、ミミの傍らを離れないロッコが苦しそうにうめくのを見て、静かに考え込んでいた。


 ミミの夢とロッコの心は、どこかで繋がっている――そう思えてならなかった。言葉にするのは難しい。でも、ユウマは感じた。ロッコはミミと共鳴している。


 それもただの偶然じゃない。何か、深い力が働いている。これらの情報が、まるでバラバラのパズルのピースのようにユウマの頭の中に散らばっている。


(ロッコが呟いた『ミミ、白い、きり』……そして俺が見たあの白い空間……あれは本当に、ミミの夢の中だったのか?)


 バラバラだった記憶の破片が、頭の中で不穏な調べを奏で始める。あの白い空間で感じた既視感。霧のように曖昧で、けれど確かに存在していた何か。


「《感覚強化(視・聴)》。《臨戦態勢(常時)》」(MP:85→60)


 スキルを発動すると共に、世界の輪郭が鋭く研ぎ澄まされる。猫獣人としての野生の感覚に、スキルの力が重なり合い、普段は聞こえない微かな音までもが耳に届いた。

 

 ロッコの小さな胸の鼓動。その奥で渦巻く、名状しがたい感情の嵐。


 ロッコの意識は、まだミミの夢と繋がっているようだった。


 時折、ロッコの口からかすれた声で「さみしい」「こわい」といった言葉が漏れる。それは、ミミが夢の中で感じている感情なのだろうか。


「白い霧……夢……ミミの熱……」


 ユウマは声に出して情報を整理する。普通の病気ではないとガランは言った。


 熱が高いのに苦しんでいないというのも奇妙だ。肉体とは別の場所で、ミミの精神だけが何かに囚われているかのような状態。

 

 それが「夢」と関係しているとすれば、この不可解な現象を説明できるかもしれない。


 思考が、さらに深まっていく。


 もし、ミミが何らかの理由で「夢の世界」に閉じ込められているとしたら? そして、ロッコはその夢の世界と共鳴し、ユウマはロッコを通じてその夢の一部に触れることができるとしたら?


(あのギンコ・カゲユラとの戦いの時もそうだった。この世界には、まだ俺の知らないことがたくさんある。酵・粉・香・熱・形・魔という六つの属性があるように、この「夢」も何か関係があるのかもしれない……)


 ユウマは、パンの「六属性」という概念を思い出した。もし、夢の世界にも何らかの属性があるとしたら? そして、その属性がミミの熱や、あの白い霧と関係しているとしたら?


 ロッコが口にした「白い霧」。「夢」や「霧」にまつわる何か……。そして、ロッコがミミの感情を「記録」するように感じ取っていること。


 ユウマは、バラバラだった点の情報が、ゆっくりと線で結ばれていく感覚を覚えた。


 ミミの異変は、単なる病気ではない。もっと、この世界の根源的な謎、あるいは伝説のようなものに関わっている可能性が高い。


 そして、そのような「世界の謎」や「伝説」に詳しい人物が、リーカ村には一人だけいた。


「──ガランさん、お願いがあるんだ」


 ユウマは、隣で腕組みをしてミミの様子を見守っていたガランに声をかけた。


 彼は、医学的アプローチでは限界を感じていたのだろう、ユウマの言葉に真剣に耳を傾けた。


 ユウマは、ロッコが見た夢のこと、自身が触れた感覚のこと、そして謎を解く糸口を探したいことを正直に話した。


 ロッコは苦しそうにしている。これ以上、彼に負担をかけるわけにはいかない。


「なるほど……わかった。医学や薬学では手の届かぬことがある。早速、神殿図書館に行くとしよう」


 ガランは、ユウマの言葉とロッコの様子から、ただならぬ事態であると判断していた。そして、この異変の解決にはユウマの力が必要だと――長年の経験がそう告げていた。







 ロッコをミミの傍らに残し、ユウマはガランと共にミミたちの家を後にした。


 向かう先は、村の中心にそびえ立つ神殿。目的の場所は、歴史と世界の叡智を集めた図書館だ。


 神殿にいた神官のハンナへの挨拶もそこそこに、神殿の奥、薄暗い廊下の先にある、ほのかに光が漏れる場所へと向かう──これが図書館の入り口だ。


 中に入ると、年代物の紙とインクの匂いがユウマの鼻腔をくすぐる。


 背の高い本棚が幾重にも立ち並び、天井近くまでびっしりと書物が並んでいた。その光景は、まるで知識という名の巨人が静かに眠っているかのようだった。


 その本棚の間の小さな机に、一人の妖精が座っていた。


「あら、モフ君。今日は何をやらかしたの?」


 小柄で知的な雰囲気を纏った妖精、リビだ。彼女は、目の前の分厚い書物から顔を上げ、ユウマをじっと見つめる。


 その瞳には、常に好奇心と知識への探求心が宿っていた。

 

 ユウマはリビの机へと近づいた。彼の胸には、ミミを救うための微かな希望と確信にも近い予感が芽生えていた。

次回は11/17(月) 12時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ