夢紡ぎミストブレッドを紡いで その二
翌朝も、ミミの眠りは深い底に沈んだままだった。
その静かすぎる寝顔と高熱を帯びた肉体――このギャップが、見守る者たちの心を締めつける。
ミミの両親、ガラン、リラ。誰もが僅かな変化も見逃すまいと、彼女の傍らを離れない。
ユウマもまた、心が休まらなかった。ミミの手を握った時に感じた異質な波動が、頭の片隅に纏わりついて離れない。
(何とかして、ミミを助けてあげたい。でも俺には医学的な知識はない。わずかな戦闘能力も、この状況では何の役にも立たない……)
再びミミの手を握り、自分の肉球を額にそっと当ててみる。熱はまだ高い。その熱はまるで、彼女の体の内側で燃え盛る小さな炎のようだった。
(自分にできることは、本当に何もないのか……!)
◆
その日の午後──
ミミの傍らに座ったロッコは、姉の手を握ったまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
小さな寝息を立てる彼の顔は安堵しているようにも見えたが――ユウマはすぐに異変に気づく。
ロッコの体が微かに震えている。額にうっすらと汗が浮かんでいる。昨夜、ベッドでうなされていた時と同じだ。
「……んん……ミミ……」
寝言を呟くロッコの声は、昨夜よりもはっきりとしていて、切羽詰まったような響きがあった。
ユウマはそっと彼の顔を覗き込む。
まぶたは固く閉じられているが、まるで夢の中で何かを強く見つめているかのように、その表情は真剣だった。
(……ロッコが見てる夢? いや、それだけじゃない。ミミと……繋がってる? もしかして……)
ユウマはおもむろに、そっとロッコの頭に手を触れた。
その瞬間――
世界が白に染まった。
◆
視界いっぱいに広がるのは、ひたすら純粋な白。
音もなく――そして、匂いもない。
(匂いが……ない?)
ユウマの鋭敏な嗅覚が、初めて何も捉えられない空虚を感じる。まるで雲の中を漂っているかのような、現実感の希薄な空間。
(何だこれ……!? もしかして、ロッコが見てるミミの夢の中なのか!?)
驚きながらも、ユウマは猫獣人としての研ぎ澄まされた感覚だけを頼りに、その霧の中で微かな気配を探る。
なぜかスキルは発動できなかった――この空間では、現実のルールが通用しないのかもしれない。
すると、白く広がる霧の向こうに、小さな影が揺らめいているのが見えた。
──ミミだ。
しかし彼女の姿は輪郭が曖昧で、声もなく、まるで霧に溶けてしまいそうに頼りない。
その小さなシルエットから伝わってくるのは、強烈な寂しさと不安――そして、誰かを探し求めるような切ない想い。
(ミミ……こんなところに一人で……!)
「ミミ!」
ユウマが声をかけようとした、その時――
「んっ……うう……」
ロッコが小さくうめき、体をよじらせた。ユウマの意識は夢の世界から引き戻される。
現実のロッコはまだ眠り続けているが、その額からは汗が流れ落ち、呼吸も荒くなっている。
「ロッコ! 大丈夫か!?」
呼びかけると、ロッコはハッと目を開けた。その瞳は涙で潤み、どこか遠い場所を見ているようだった。そして真っ先にユウマにしがみついてくる。
「モフさま……ミミ……ねんね……」
震える声で、夢で見たであろう光景の断片を、途切れ途切れに語り始める。白い霧、さまようミミの影、そして彼女から伝わってくる微かな寂しさと不安の感情。
ユウマは、ロッコから伝わる情報と、自分が垣間見た夢の世界の光景を重ね合わせた。
(やはりロッコはミミの夢と繋がってる。そして俺も、ロッコを介してその夢の一部を見ることができた……これは、ミミを救う手がかりになるはずだ!)
双子のロッコがミミと共鳴し、同じ感覚を共有している。その特殊な絆は、ユウマの想像以上に深いものだった。
ロッコ自身も、ミミの夢の情報を常に受け取っているのだろう。それが彼の不安や混乱の原因なのかもしれない。
(もっと手がかりはないのか……早く助けてあげないと!)
◆
その日から、ロッコの異変はさらに顕著になった。
起きている時でさえ、彼は突然頭を抱え込んだり、空中をぼんやりと見つめたりするようになる。
「ミミ……しろい……きり……」
支離滅裂な言葉を口にするロッコ。その瞳に焦点はなく、夢と現実の狭間を彷徨っているようだった。
ユウマはロッコの苦しむ様子を見て、何とかその力になりたいと強く願った。
そっとロッコの頭に手を触れ、その曖昧なイメージをより深く読み取ろうとする。ミミの顔、白い霧、何かの音……断片的な映像が頭に流れ込んでくる。
ロッコは普段、「おんぶ~」「もふもふ~」など短い単語で会話する幼い子だ。
そんな彼が、必死に何かを伝えようとしている。
その断片的な言葉を繋ぎ合わせていくことで、異変の謎を解く糸口になるのではないか――そうユウマは考えた。
(ロッコの曖昧な言葉を何とか理解してやるぞ! 唸れ! 俺の前頭前野!)
ユウマは、ロッコが示す微かな言葉を記憶に刻みながら、ミミの眠りの謎を解き明かすための手がかりを必死に探した。
この奇妙な現象が村に重い不安をもたらしている一方で、ユウマはロッコとの新たな結び付きから、僅かな光明を感じ始めていた。
双子の深い絆こそが、きっとミミを救う鍵になる――そう信じて。
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次回は11/15(土) 12時更新予定です。
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