表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/67

夢紡ぎミストブレッドを紡いで その二

 翌朝も、ミミの眠りは深い底に沈んだままだった。


 その静かすぎる寝顔と高熱を帯びた肉体――このギャップが、見守る者たちの心を締めつける。


 ミミの両親、ガラン、リラ。誰もが僅かな変化も見逃すまいと、彼女の傍らを離れない。


 ユウマもまた、心が休まらなかった。ミミの手を握った時に感じた異質な波動が、頭の片隅に纏わりついて離れない。


(何とかして、ミミを助けてあげたい。でも俺には医学的な知識はない。わずかな戦闘能力も、この状況では何の役にも立たない……)


 再びミミの手を握り、自分の肉球を額にそっと当ててみる。熱はまだ高い。その熱はまるで、彼女の体の内側で燃え盛る小さな炎のようだった。


(自分にできることは、本当に何もないのか……!)







 その日の午後──


 ミミの傍らに座ったロッコは、姉の手を握ったまま、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

 小さな寝息を立てる彼の顔は安堵しているようにも見えたが――ユウマはすぐに異変に気づく。


 ロッコの体が微かに震えている。額にうっすらと汗が浮かんでいる。昨夜、ベッドでうなされていた時と同じだ。


「……んん……ミミ……」


 寝言を呟くロッコの声は、昨夜よりもはっきりとしていて、切羽詰まったような響きがあった。


 ユウマはそっと彼の顔を覗き込む。


 まぶたは固く閉じられているが、まるで夢の中で何かを強く見つめているかのように、その表情は真剣だった。


(……ロッコが見てる夢? いや、それだけじゃない。ミミと……繋がってる? もしかして……)


 ユウマはおもむろに、そっとロッコの頭に手を触れた。



 その瞬間――



 世界が白に染まった。







 視界いっぱいに広がるのは、ひたすら純粋な白。


 音もなく――そして、匂いもない。


(匂いが……ない?)


 ユウマの鋭敏な嗅覚が、初めて何も捉えられない空虚を感じる。まるで雲の中を漂っているかのような、現実感の希薄な空間。


(何だこれ……!? もしかして、ロッコが見てるミミの夢の中なのか!?)


 驚きながらも、ユウマは猫獣人としての研ぎ澄まされた感覚だけを頼りに、その霧の中で微かな気配を探る。


 なぜかスキルは発動できなかった――この空間では、現実のルールが通用しないのかもしれない。


 すると、白く広がる霧の向こうに、小さな影が揺らめいているのが見えた。


 ──ミミだ。


 しかし彼女の姿は輪郭が曖昧で、声もなく、まるで霧に溶けてしまいそうに頼りない。


 その小さなシルエットから伝わってくるのは、強烈な寂しさと不安――そして、誰かを探し求めるような切ない想い。


(ミミ……こんなところに一人で……!)


「ミミ!」


 ユウマが声をかけようとした、その時――


「んっ……うう……」


 ロッコが小さくうめき、体をよじらせた。ユウマの意識は夢の世界から引き戻される。


 現実のロッコはまだ眠り続けているが、その額からは汗が流れ落ち、呼吸も荒くなっている。


「ロッコ! 大丈夫か!?」


 呼びかけると、ロッコはハッと目を開けた。その瞳は涙で潤み、どこか遠い場所を見ているようだった。そして真っ先にユウマにしがみついてくる。


「モフさま……ミミ……ねんね……」


 震える声で、夢で見たであろう光景の断片を、途切れ途切れに語り始める。白い霧、さまようミミの影、そして彼女から伝わってくる微かな寂しさと不安の感情。


 ユウマは、ロッコから伝わる情報と、自分が垣間見た夢の世界の光景を重ね合わせた。


(やはりロッコはミミの夢と繋がってる。そして俺も、ロッコを介してその夢の一部を見ることができた……これは、ミミを救う手がかりになるはずだ!)


 双子のロッコがミミと共鳴し、同じ感覚を共有している。その特殊な絆は、ユウマの想像以上に深いものだった。


 ロッコ自身も、ミミの夢の情報を常に受け取っているのだろう。それが彼の不安や混乱の原因なのかもしれない。


(もっと手がかりはないのか……早く助けてあげないと!)







 その日から、ロッコの異変はさらに顕著になった。


 起きている時でさえ、彼は突然頭を抱え込んだり、空中をぼんやりと見つめたりするようになる。


「ミミ……しろい……きり……」


 支離滅裂な言葉を口にするロッコ。その瞳に焦点はなく、夢と現実の狭間を彷徨っているようだった。


 ユウマはロッコの苦しむ様子を見て、何とかその力になりたいと強く願った。


 そっとロッコの頭に手を触れ、その曖昧なイメージをより深く読み取ろうとする。ミミの顔、白い霧、何かの音……断片的な映像が頭に流れ込んでくる。


 ロッコは普段、「おんぶ~」「もふもふ~」など短い単語で会話する幼い子だ。

 

 そんな彼が、必死に何かを伝えようとしている。


 その断片的な言葉を繋ぎ合わせていくことで、異変の謎を解く糸口になるのではないか――そうユウマは考えた。


(ロッコの曖昧な言葉を何とか理解してやるぞ! 唸れ! 俺の前頭前野!)


 ユウマは、ロッコが示す微かな言葉を記憶に刻みながら、ミミの眠りの謎を解き明かすための手がかりを必死に探した。


 この奇妙な現象が村に重い不安をもたらしている一方で、ユウマはロッコとの新たな結び付きから、僅かな光明を感じ始めていた。


 双子の深い絆こそが、きっとミミを救う鍵になる――そう信じて。


もしよろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回は11/15(土) 12時更新予定です。


引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ