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パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未
黎肆「世界の広がり」

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パンタニア・ゲート・サービス起動

 

 恐る恐る、俺は肉球を窪みに押し当てた。 


 ──数秒後。


 目の前に六角形をあしらったタブレット型の画面が浮かび上がり、そこから機械音声が響き渡った。


 それに合わせて、ラオが短剣をジャキッと構えて警戒体制を取った。




『――起動シークエンス開始。

 システム自己診断…………オールグリーン。

 肉球認証(初回)…………承認完了。

 利用者情報:ユウマ。登録番号001を付与。

 以降、当サービスは本個体に帰属します。


 ──なお、ご利用に際し以下の注意事項をご確認ください。

 ・返却、譲渡、転売は一切不可。

 ・誤って肉球を整形された場合、保証はいたしかねます。

 ・本サービスの稼働率は99%であり、100%ではございません。

 ・精神的苦痛、身体的疲労、パン不足等については自己責任となります。

 ・ご利用は計画的に。


 ――以上、パンタニア・ゲート・サービス(PGS)』 


 


「………………はっ!? 何これ!? 何か起動したんだけど! どこからツッコめばいいの!? 何か勝手に登録されたんだけど! 注意事項が一切分からない! パンタニア・ゲート・サービスって何? えっ!?」


 こんな森の中にハイテクそうな装置があって、肉球を押すと起動して利用登録までされてしまった──俺は混乱の極致だ。


 すると、その件のPGSがいかにも面倒くさそうに声を掛けてきた。


『…………登録者ユウマの知能指数は極めて低いと推定。注意事項を幼子にでも理解できるレベルで、再共有いたします。


 ─おやくそく─

 ・だれかにあげたらダメだよ。

 ・にくきゅうはだいじに。

 ・たまにうごかないよ。

 ・じぶんをだいじに。

 ・しょけんはかえれなのだ。


 ──以上、パンタニア・ゲート・サービス──』


「──ちょっと待てぇぇえ!」


 ドンッ! 初めての異世界での台パン。しかし俺の貧弱な腕力では、装置はびくともしなかった。


 ラオが少し驚いた顔でこちらを見ている。


「えっと……まずパンタニア・ゲート・サービスについて説明してくれない? 危ない装置じゃないよね……? 最初の説明の仕方で分かるから!!」


『…………はぁ……PGSを危険装置とみなすとは…………今回の登録者は知能が低いだけでなく、礼節も欠如している模様。登録内容を微調整しま──』


「くそぉぉぉおおお!」 


 ドガンッ! さらに強い台パンが炸裂した。


 その後、何度も深呼吸をして気を落ち着かせ、努めて丁寧に聞き直す。


「…………パンタニア・ゲート・サービスの説明をお願いします」


『…………それでは説明いたします。PGSの基本機能は、パンタニアの各地に存在するPGS同士を結ぶ転移装置です。リーカ村にも転移装置が1つ存在します。登録者様とお連れ様の同時転移も可能です。その仕組みは…………規約第10条により開示できません。コンフィデンシャルでございます。詮索はお控えください』


「……いや別に詮索してないだろっ! それよりも転移装置ってことは、この世界のどこにでも移動できるってこと?」


『…………良い質問です――知能指数を上方修正――その通りです。各地点のPGSを解放することで、転移ネットワークが構築されます』


「なるほど、どこでも行ける都合の良い装置って訳じゃないんだな。エリアを探索してPGSを解放していく必要があるのか」


『…………その通りでございます…………登録者様の理解が短期間で早くなっていらっしゃる。これが生物の進化の過程でございましょうか』


「違うわ! そっちが勝手に低く見積もったんだろ!? いや知能が高いとは断言できないけど……それより、そのPGSを利用するにはどうすればいいの? ここはもう解放されているという認識で合ってる?」


『…………いいえ。まだ機能の解放条件をクリアしておりません。PGSのご利用の流れは下記の通りでございます。


 1.肉球認証でPGSを起動する。

 2.機能解放のための条件をクリアする。※端末で異なる。

 3.転移などのPGS機能がご利用可能に。


 登録者様は現在「1」に加え、初回のみの利用登録が完了している状態でございます』


「なるほど! 3番の転移()()ってことは転移以外の機能も存在しているってこと?」


『…………その通りでございます。各地のPGSによって利用できる機能は異なります。当地「ミルカの森(北)」では以下の機能がご利用可能でございます。


 【ご利用メニュー】

 1.転移:リーカ村のみ

 2.全回復:HP/MP/STMの内一つをランダムで

 3.観光案内:ミルカの森(北)


 これら機能のご利用には条件がございます。機能の解放をいたしますか?(強く推奨)』


(転移はリーカ村だけか。ランダムだけど回復はありがたいな。観光案内って何だろう……それぞれ便利そうだから解放しておいた方が良いよな!)


「ああ、解放するよ! 何をすればいいの?」


『…………ありがとうございます。「ミルカの森(北)」の機能解放の条件とは………………

 ずばり「猫を題材にした渾身のダジャレを一つ」でございます──それでは、張り切って参りましょう。

 登録者様の珠玉のダジャレまでカウントダウン…………3…………2…………1……さあ、どうぞ』


「…………はあっ!? ダジャレ!? 急に言われてもな……『猫が寝込む』」


「ぶほぉっ!」


 PGSの解放条件がダジャレで、それをすぐ求められ、戸惑いながら答える俺と、後ろでまた吹き出しているラオ。


 そしてPGSの反応を待っていると、機械的な音声が流れてきた。上手くいったようだ──


『…………登録者様の珠玉のダジャレまでカウントダウン…………3…………2…………1……さあ、どうぞ』


「はあ!? 何かリピートしてるんだけど! あのダジャレではダメだったってこと?」


『…………わくわく…………』


「……何かわくわくしてるし。えーっと、どうしよう。あ! 『首ねっこ』」


 俺は自分の首をつまみながら言うと、また後ろで「ぶっほぉっ!」とラオが吹き出しているようだ。呼吸もゼーゼーと荒くなっているみたい。

 

 そして、またPGSの判定を待っていると──


『…………登録者様の珠玉のダジャレまでカウントダウン…………3…………2…………1……さあ、どうぞ』


「ちくしょう!!!」 


 ドガバァーン! と俺は今までで一番盛大な台パンをかました。


 その後も「ねーこないで!」「にゃんてこった!」「三毛猫見っけ!」など思い付く限り披露していったが、PGSはお気に召さなかったようだ。


 ラオは呼吸をかなり荒くしながら、地面をバシバシ叩いていた。


 そして、発想の限界に達した俺は、最後に思い付いたダジャレを試してみることにした。


 指先をラオに向けながら──


「こちら、『古参の猫さん』です」


「ぶぉおほぉっっ!」


 ラオは最後のクリティカルな攻撃を受けたように盛大に吹き出し、とうとう持参した麻袋で呼吸を整え始めた──過呼吸になったようだ。


 俺はラオに「大丈夫?」と声をかけながらも、PGSからの回答を待った。



 しばらくして──



『…………解放条件を達成したと判断いたします。「ミルカの森(北)」の機能を全解放いたします。お疲れ様でした』




経験値獲得!

・PGS解放(低) 500EXP


レベルアップ!

・18→19(310/640)




(うおっ! 経験値がもらえてレベルアップしたぞ。ダジャレを捻り出した甲斐があったな……「PGS解放」の後ろにある(低)って何だろう……まあいいか)







『PGSのご利用メニューを再提示いたします。


 【ご利用メニュー】

  1.転移:リーカ村のみ(コスト:無料)

  2.全回復:HP/MP/STMの内一つをランダムで。(コスト:香属性の素材×3)

  3.観光案内:ミルカの森(北)(コスト:無料)


 ──どの機能をご利用になりますか?』


(……何度も答えさせた割に、あっさりOK判定を出すのも腹立つよな。まあでも機能は解放されたようで良かったのかな。ラオという尊い犠牲は払ったけれども……)


 利用メニューを確認すると、利用には対価が必要みたいだ。


 転移が無料なのはありがたい。転移を依頼する前に、他の機能を試してみるか。


「じゃあ、『観光案内』をお願いするよ!」


『…………承知いたしました。それでは、本エリア「ミルカの森(北)」の観光案内をいたします。


「ミルカの森(北)では、木々が多く見られます。数えようとすると日が暮れますので、おすすめはいたしません。地面には落ち葉が一面に広がり、時折サクサクと音がします。これは古来より、旅情をそそると評判です。なお、この森の魔物は『香り』をまとっております。多くの旅人はその香りによって眠くなったり、めまいを起こしたり、倒れたりしますが──観光の思い出としては強烈です。岩場では、石を拾うことができます。石はお土産に最適です。重いので持ち帰りはおすすめできません。一人で歩くと非常に危険ですが、二人以上で歩いても危険です。どうぞご安心ください。──それでは楽しい森の旅を」


 ──以上、ご満足いただけましたでしょうか。これで「ミルカの森(北)」の観光案内を終了いたします』


「…………はい!? いやなんか薄っぺらい! 内容がチグハグ! 小学生でももっとマシな文章を書くぞ!」


『…………はあ……この秀逸な観光案内の良さが分からないとは…………いいえ、この登録者様に審美眼を求めるのは酷でしたね。相手に期待をし過ぎてはいけない、これは自明の理でございますゆえ。こちらの見積もりの甘さが招いた結果でございます。大変申し訳ございませんでし──』


「だぁぁぁああ!!! こんにゃろぉぉぉぉおお!!!」


 ズガ! ドガ! ボガ! ドゴォーン! 


 俺は何度も何度も、貧弱な肉球で台パンを連打するに至った。


 人をおちょくるAIでも入ってるのかと頭にきたからである。


 俺の隣では、ダジャレに笑い転げていたラオも呼吸を整え、落ち着きを取り戻しつつあった。


 普段あまりやらない毛繕いをして気を取り直した俺は、次にランダム回復機能を試してみることにした。


 戦闘時や戦闘後の回復アイテムの重要性は、これまでの経験で痛感していた。


 特にスキルコストとして消費されるMP回復手段が、パン以外にもあると分かったのは大きな収穫だ。


 ステータスを確認すると『HP:160/180、MP:55/80、STM:53/68』という表示が。できればMPを回復させたいところである。


『…………かしこまりました。それでは、「全回復」機能のご利用手順をご案内いたします。


 1.香属性の素材×3を所定の位置にセットする。

 2.ルーレットでHP/MP/STMの内一つだけランダムに自動選択される。

 3.肉球を窪みに10秒間押し続けると、「2」で選んだ1つが回復できる。


 再びご利用される場合は「1」からのやり直しになります。以上で本機能の説明を終わります。続けて、この「全回復」機能をご利用される場合は、香属性素材のご準備をお願いいたします』


 俺の革のポーチには、ペパーミントリスから取れた清香葉が5つあったはずだ。それを3つ取り出して、端末の横にチカチカと点滅する宅配ボックスのような収納場所へ投入する。


 変化を待つと、PGSの外面と内面がくるりと入れ替わり、巨大な緑色のルーレットが登場した。


 よく見ると、微妙にMP欄の幅が小さいこと、そして「はずれ」という極小の欄が存在していることに気付く──この装置の小賢しさを感じた。


 PGSは稼働を待っているようだった。


 そして、恐る恐る手をルーレットに触れると、勢いよく回転が始まった。


『…………◯ムニー! ジ◯ニー! ジム◯ー!』


 PGSから聞こえてくる音声。


「いや、掛け声はパ◯ェロじゃないのかよ! これ自動で止まるタイプだから自分では狙えないぞ!」


 俺はツッコミながら、ルーレットがくるくると回る様子を見守る。


 そして徐々に速度を落としていくルーレット………………回転が止まる──「HP」に当たった。


「うーん。微妙……! 一番ツッコみにくいやつ!」


 機械音声に促されて肉球を10秒間押し当てると、確かにHPだけが回復した。


 そして、ラオに振り返って報告した。


「確かに、回復したよ」


「……そうか」


 平常運転に戻ったラオに少しホッとしつつも、またPGSに向き直って質問してみることにした。


「じゃあ次は転移だね。本当にリーカ村まで無料で送ってくれるの?」


『…………はあ……このシュプリームな本機のメイン機能である「転移」に疑惑の目を向けてくるとは…………いいえ、また登録者様に期待を持ちすぎてしまいました。大変失礼いたしました』


 俺は肉球に力を込めてこめかみをピクピクさせながら続きを待った。


『……それでは端的に回答いたします。はい、登録者様とお連れ様をリーカ村へお送りいたします。その際に費用は一切かかることはございません。無料でございます。ブイ』


 PGSがVサインをしている幻を見てイラッとしながらも、ふぅーと一息ついて冷静に問いかけた。


「……分かった。俺とここにいるラオをリーカ村に送ってほしいんだ。どうすればいい? それとリーカ村のどこに送ってくれるの?」


『…………かしこまりました。「転移」機能をご利用ですね。それでは。そちらの扉から中にお入りください。その中で転移について詳しくご説明いたします。リーカ村の転移先でございますが、こちらでは関知しておりません。ただリーカ村にあるPGS端末に送信する仕様になっております』

 

(どこに転移させられるか分からないのは不安だな。村の井戸の中とかだったらどうしよう……)


『……登録者様が考えているような地点にお送りすることは決してございません。無駄な妄想はお控えくださいませ』


 俺は怒りで《肉球スラッシュ》をお見舞いしようと考えたが、ラオが「……まあまあ」と制止してくるので、泣く泣く思い留まった。


 落ち着きを取り戻した俺の目の前に、観音開きの扉が出現した。


 ラオと一緒におずおずと中を確認するが、特に危険はなさそうだ。

 

 足を踏み入れると、中は意外と広く、明かりが点灯していて清潔に保たれていた。


 空間の中央にはソファのような座席が円形に並んでおり、立て札にこう書かれている。



『裸足で利用するとスースーします』



 どうでもいい情報にうんざりする俺だったが、PGSの機械音声が流れてきた。


『…………登録者様は黒色の座席に、お連れ様はお好きな席にお座りください。これより転移機能の説明をいたします。以前説明した通り、PGSは解放済の端末同士の相互移動を可能にします』


(ああ、そういえば解放しないと転移できない仕組みだったよな。リーカ村にあるPGSは解放されてるってこと?)


『…………リーカ村のPGS端末は解放されております。それは事実でございます。そのため、ここ「ミルカの森(北)」から「リーカ村」への転移も可能ということでございます。ご安心くださいませ』


 PGSがそう言い終えると、入り口の扉がガシャンと閉まった。いよいよ転移か。


『…………転移のご利用手順は至ってシンプルでございます。転移する全員が座席に腰掛け、目的地を選択、登録者様の座席にある肉球認証システムを起動。その数十秒後に転移が実行されます。初回利用のため、こちらで目的地は選択済みでございます。あとは登録者様の認証で転移が実行されます。


 ──転移を実行されますか?』


 ラオを確認すると、しっかりソファに座り、こちらにうんうんと頷いてきている。


(じゃあ、転移してみますか!)


 俺は自分の肉球を肘掛けの窪みに押し当てた。すると、部屋のライトがチカチカと点滅し、ブゥゥンと低い機械音が鳴り響いた。



『…………いってらっしゃいませ。快適な転移の旅を──』



 ──俺たちの視界は、まばゆい光で埋め尽くされていった。


 体が浮き上がるような、沈み込むような――不思議な浮遊感。リーカ村に無事着けるのか、不安と期待が入り混じる。



 






 …………俺、裸足だから足元が本当にスースーしてるぞ! 新感覚!

PGSというファストトラベル装置の登場でした。

このやり取りは書いていて楽しかったです。


果たしてリーカ村へ帰れるのか…?

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