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パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未
黎肆「世界の広がり」

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戦いのあと、夕日への誓い


 ──これは、ユウマが未知なる存在と激闘を繰り広げていた頃。



 リーカ村の中心広場は、静けさとはかけ離れた緊迫した空気に包まれていた。


 普段はのんびりしているロッコが、顔をくしゃくしゃにして大声で泣きながら走っていた。


「おとうさん! おかあさん! ミミが! もりに!」


 ロッコの両親は、あまりの剣幕に驚き、何があったのかと問い詰める。


 ロッコは泣きながら、ミミが一人でバタースライムを探しに森へ入ったこと、そしてユウマが助けに向かったことを告げた。


「何で一人で……!」


 ミミの父親は、顔を青ざめさせながらロッコに「詳しいことはあとだ。俺は村長を呼んでくる!」と叫び、家を飛び出した。


 母親はロッコを抱きしめながら、ガランとミーナに今の状況を知らせるために外に出た。


 村の南西側の入口では、ちょうど森の調査から戻ってきた村長のセイルと狩人のラオの姿があった。


「村長! ラオ! ミミが、ミミが森に入ったんだ! ユウマくんが後を追っていったらしい!」


 ミミの父親の切迫した声に、二人の表情が凍りつく。


 セイルは「ラオ、急ぐぞ!」と指示を出し、二人は森の北側へ向かって駆け出した。


 ガランとミーナも、村のただならぬ雰囲気を感じて家から出てきていて、近くにいたロッコの母親から状況を聞いた。


 ミーナは顔を青ざめさせ、ガランは心配そうに眉をひそめた。


 その時、北側の入口から、二つの小さな影が姿を現した。


「ミミ!」


 ミミの両親とロッコが、その名を叫びながら駆け寄る。ミミは目を真っ赤に腫らし、両親に抱きしめられると、堰を切ったように泣き出した。


「えぐっ……ごめんなさい……ごめんなさい……ひっぐ」


 その隣には、疲れ果てた様子のユウマがいた。彼の毛並みは土で汚れ、息は荒い。


 心配したロッコの父親が、感謝を述べようとするも、ユウマはわずかに微笑んで言った。


「大丈夫だよ。気にしないで」


 その言葉は、彼なりの精一杯の強がりだと感じた。これ以上心配をかけさせまいとする、彼の優しさが滲み出ていた。


 ミミの両親は、彼に大きな借りができたと感じていた。


 その後、ユウマはティナにもらったパンを少し食べたり、ガランやミーナをはじめとする村人たちに労いの言葉を掛けられたりしたが、その足取りはフラフラとしていて、まともに立つのがやっとの状態に見えた。


「ユウマよ、さあ早く帰ろう」


 ガランの言葉に頷き、ユウマは重い足を引き摺って家へと帰っていった。


 ミミは両親とロッコと一緒に、家に帰る道すがら、両親が心配をかけたことに対して、村中の人々に頭を下げているのを見て、ひどく心が痛んだ。


 そして家に帰り着くと、ミミは恐る恐る両親の顔を覗いてみた。


 すると父親はこめかみに青筋を浮かべているし、母親は顔は笑っているが背後に鬼が見えるような錯覚を覚えた。


 その様子を察してか、ロッコはいつの間にか家の奥に、ばびゅんと風のように退避していた。


 ミミが内心『あ、これはまずい』と思ったのも束の間、父親の雷のような怒鳴り声が村中に響き渡った。


 母親も父親の隣で腕を組み、穏やかな顔で仁王立ちしている。


 それからしばらくの間、父親の怒声とミミの泣き声が、村中にこだましたとか、しなかったとか。







 夕日がミルカの森の木々の間に沈み、あたりを深い茜色に染めていく。日の光が弱まり、少しずつ影が長くなっていく。


 その光景を、狩人のラオは無言で見つめていた。疲弊しきったユウマの後ろ姿が、彼の脳裏に焼き付いている。


 普段はのんびり過ごしているユウマが、あんな状態になったのは自分のせいだと感じていた。


 まだ戦闘の経験も少ないだろうに、村の子どもを守るために無理をしたのは、一目瞭然だった。


 森の南西がおかしいと、村長に相談したのがダメだったのか。調査は自分一人で行くべきだったのではないか。そうすれば、セイルを含め戦える大人は、村に残れたはずだ。ユウマがあんなに消耗して戦う必要もなかった。


 悔恨の念が、ひどく重く彼の心にのしかかる。自分を情けなく感じていた。


 そんな心痛した様子のラオの肩に、セイルがそっと手を置いた。


「すまない。俺の責任だ」


 その声は、夕焼け空に響く静かな祈りのようだった。ラオは何かを言い返そうとしたが、言葉を止めた。


 セイルもラオと同じように悔恨の念を抱いていることが、彼の表情を見れば分かったからだ。


 二人は無言のまま、夕日で染まる村の広場を見つめていた。


 この騒動も落ち着き、村の家々の煙突からは、夕食の準備を知らせる白い煙が静かに立ち上っていた。

 

 ラオは無意識的に自分の拳を、血が出るほど強く握りしめていた。


 そして、この夕日に固く誓った。



 ──ユウマの助けになることなら何でも協力する。


 ──二度とこの悔しさを忘れない。



 その決意を乗せたように、ひんやりとした一陣の風が、二人の間を吹き抜けていった。


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