モフミルクパンと、食堂のにぎわい
◆
ミレイユに抱えられたまま、食堂へ。
彼女の大きな笑い声が、村中に響く。
「食堂はね、村のみんなの台所みたいなもんだ」
歩きながら、ミレイユが明るい声で話し始めた。
「あたいは、パンに合う料理や飲み物を日々研究してるんだよ。ミルクやコーヒー、お茶にスムージー、いろいろな組み合わせを試してね。パンの味を引き立てるのが腕の見せ所さ!」
「へえ……そんなにこだわってるんだ」
「そうそう。村の人は毎日食堂で食べてるから、飽きさせちゃいけないからね。食べ物は心も体も元気にするから、任せておきな!」
食堂に着くと、すでに何人かの村人がテーブルを囲んでいた。
皿の音、湯気、会話──店中が活気に満ちている。
「さあ、これから今日のおすすめを出すよ!」
ミレイユが胸を張って宣言した。
俺は隅の席に座っていた村人に声をかけた。
「いつもここで食事を?」
「っ! お、お前は、まさか噂の猫さんか!?」
村人の目が輝く。
「そうだよ、いつもここで食事してる。特に昼はな。村の話や最近の出来事を聞けるから──」
と、すぐさま俺を撫で始めた。
(いやなんで、みんなモフモフ好きなんだよっ!)
と、考えていたそのとき──
「モフさまーっ!」
「だっこ~!」
またしてもミミとロッコが飛び込んできた。二人とも満面の笑みで俺をモフモフし始める。
「みんなが見てる前で……ちょっと恥ずかしいな……しっぽはだめ!」
と、そのとき──
扉が開いた。
「できたてだよっ!」
ティナが、焼きたてのモフミルクパンを手に現れた。
──瞬間。
甘く香ばしい匂いが、店中に広がる。
それまで賑やかだった空間が、一瞬、静まり返った。
全員の視線が、パンへ。
「さあ、召し上がれ!」
ミレイユが、ミルクパンに合うおかずとミルクを並べる。
「これがモフミルクパンと相性抜群なんだ。さあ、食べてみな!」
……俺は、おかずには目もくれず。
ただひたすらに──目の前のモフミルクパンに、意識を集中していた。
……悪いね。
膨らんだ黄金色の生地。
それが、俺を誘っている。
──手に取った。
その瞬間、心の中に熱い歓喜が沸き起こった。
(あ、これは……来たな、《ロックオン(食)》)
スキル発動と同時に、脳内で軽い通知音が鳴り響いたような気がする。だが、そんなことはどうでもいい。
「あっ……」
ティナは、少し呆れ顔で小さく漏らした。だがその表情の奥には、どこか嬉しそうな光が宿っているように見えた。
「またあれが始まるーっ!」
ミミが言い、ロッコはわくわくした様子で頷いた。
いつの間にか、ユウマのすぐ横に来ていたガランは、既に手帳を取り出し、静かにペンを走らせる準備をしている。
食堂にいる村人たちが、一斉に俺に注目する。
そして──
「ふわ~……これは~……上質なミルクパンだな~……」
俺はミルクパンをゆっくりと持ち上げた。
「とっても優しそうな色をしていて……見ているだけで心がほんわかしてくるよ~……よし、食べてみようか~……」
一口。目を細める。
「おお~……なんて柔らかいんだ~……まるで最高のミルクパンみたいだね~……う~ん? あ~……君がそのミルクパンだったね~ごめんよ~……」
遠い目をした。あれ、君そこにいたんだ。
「いまMDプレイヤーと2000円札を思い出したよ~……存在を忘れててごめんね~……」
また一口。深く息を吸い、ミルクの香りをすべて吸収。
「ミルクの香りがふわ~っと鼻に抜けて~……とても上品で~……優しい味だな~……もしかしてこれ、湯種法かな~? あのぷるぷる生地が、こんなパンになるなんてね~……」
俺は猫目を鋭くし、急に真顔になった。
「なんでゲームカセットをフーフーして起動させてたんだろう~……」
また柔らかい表情に戻る。
「母さんが作ってくれたパンみたいだ~……温かくて~……愛情がたっぷり込められていて~……銀行ATMの土日手数料も、今日だけは許せそうだ~……」
首を横に振った。
「でも前世の上司、君はダメだよ~……天井のシミを数える仕事に戻ってね~……」
俺はミルクパンを見つめながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
「いや~、奥が深いなあ~パンって~……こんな素敵なミルクパンを作ってくれて~……ありがとう~……毎日の疲れが~……すう~っと消えていくようだ~……すう~……すう~……」
──モフミルクパンの魔力に当てられて、そのまま眠ってしまった俺。
脳内では、片耳の折れた牛のシルエットがモォ~と鳴きながら、でかでかと成長の札を掲げて通り過ぎていった。バチンとこちらにウインクしながら。
経験値獲得!
・パン賛美E 300EXP
レベルアップ!
・8→9(210/260)
スキル成長!
・ロックオン(食) LV1→LV2
半径5m以内の食べ物を自動識別し、その情報を脳内で通知する。
パン
・モフミルクパン(E)
濃厚で風味豊かなモフミルクが香るミルクパン。コクと深い味わいがあり飽きがこない味。
(……はっ!)
目を覚ます。
(……やっぱりおかしいって! パンはどれだけ優遇されているんだ!)
経験値300。レベルアップ。あと何だか力がみなぎる。
(……経験値たんまりありがたいけども!)
ふと、恐ろしいことを考えた。
(この食レポを控えめにしたら、どうなるんだろう……?)
──ハッ!!
(俺はなんと不敬なことを考えていたんだ! パンを愛し続けますので……何卒! 何卒!)
◆
数分後。
ティナは、溜息をつきながらパンの入ったかごを整えている。
「……ちなみに湯種法で正解ね。生地に熱湯を練り込んだの」
(おお、やっぱり!)
ミミとロッコは「今日もすごかったね~」と拍手。
ガランは静かに手帳に書き込む。
「うむ……モフミルクパン、精神回復効果の兆しあり」
一方、俺の豹変ぶりを初めて見た村人たちは、ぽかんとしていた。
「……今の、なんだったんだ……。人格までもが変わってたぞ」
「いや、でも……すっごい、美味しそうだったよな」
戸惑いの中にも、俺が絶賛したパンへの興味が、確かに芽生えているようだった。
──俺の熱狂的なパン賛美が、村の風物詩になりつつあった。
(……これでいいのか、俺)
まあ、いいか。パン美味しいし──これ最重要。
【作者からのお願いです】
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