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パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未
黎弐「パンと世界の理」

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モフミルクパンと、食堂のにぎわい


 ミレイユに抱えられたまま、食堂へ。


 彼女の大きな笑い声が、村中に響く。


「食堂はね、村のみんなの台所みたいなもんだ」


 歩きながら、ミレイユが明るい声で話し始めた。


「あたいは、パンに合う料理や飲み物を日々研究してるんだよ。ミルクやコーヒー、お茶にスムージー、いろいろな組み合わせを試してね。パンの味を引き立てるのが腕の見せ所さ!」


「へえ……そんなにこだわってるんだ」


「そうそう。村の人は毎日食堂で食べてるから、飽きさせちゃいけないからね。食べ物は心も体も元気にするから、任せておきな!」

 

 食堂に着くと、すでに何人かの村人がテーブルを囲んでいた。


 皿の音、湯気、会話──店中が活気に満ちている。


「さあ、これから今日のおすすめを出すよ!」


 ミレイユが胸を張って宣言した。

 

 俺は隅の席に座っていた村人に声をかけた。


「いつもここで食事を?」


「っ! お、お前は、まさか噂の猫さんか!?」


 村人の目が輝く。


「そうだよ、いつもここで食事してる。特に昼はな。村の話や最近の出来事を聞けるから──」


 と、すぐさま俺を撫で始めた。


(いやなんで、みんなモフモフ好きなんだよっ!)


 と、考えていたそのとき──

 

「モフさまーっ!」


「だっこ~!」

 

 またしてもミミとロッコが飛び込んできた。二人とも満面の笑みで俺をモフモフし始める。

 

「みんなが見てる前で……ちょっと恥ずかしいな……しっぽはだめ!」

 

 と、そのとき──


 扉が開いた。


「できたてだよっ!」


 ティナが、焼きたてのモフミルクパンを手に現れた。


 ──瞬間。


 甘く香ばしい匂いが、店中に広がる。


 それまで賑やかだった空間が、一瞬、静まり返った。


 全員の視線が、パンへ。


「さあ、召し上がれ!」

 

 ミレイユが、ミルクパンに合うおかずとミルクを並べる。


「これがモフミルクパンと相性抜群なんだ。さあ、食べてみな!」


 ……俺は、おかずには目もくれず。


 ただひたすらに──目の前のモフミルクパンに、意識を集中していた。


 ……悪いね。


 膨らんだ黄金色の生地。


 それが、俺を誘っている。


 ──手に取った。


 その瞬間、心の中に熱い歓喜が沸き起こった。


(あ、これは……来たな、《ロックオン(食)》)



 スキル発動と同時に、脳内で軽い通知音が鳴り響いたような気がする。だが、そんなことはどうでもいい。


「あっ……」


 ティナは、少し呆れ顔で小さく漏らした。だがその表情の奥には、どこか嬉しそうな光が宿っているように見えた。


「またあれが始まるーっ!」

 

 ミミが言い、ロッコはわくわくした様子で頷いた。


 いつの間にか、ユウマのすぐ横に来ていたガランは、既に手帳を取り出し、静かにペンを走らせる準備をしている。

 

 食堂にいる村人たちが、一斉に俺に注目する。

 

 そして──








「ふわ~……これは~……上質なミルクパンだな~……」


 俺はミルクパンをゆっくりと持ち上げた。


「とっても優しそうな色をしていて……見ているだけで心がほんわかしてくるよ~……よし、食べてみようか~……」


 一口。目を細める。


「おお~……なんて柔らかいんだ~……まるで最高のミルクパンみたいだね~……う~ん? あ~……君がそのミルクパンだったね~ごめんよ~……」


 遠い目をした。あれ、君そこにいたんだ。


「いまMDプレイヤーと2000円札を思い出したよ~……存在を忘れててごめんね~……」


 また一口。深く息を吸い、ミルクの香りをすべて吸収。


「ミルクの香りがふわ~っと鼻に抜けて~……とても上品で~……優しい味だな~……もしかしてこれ、湯種法かな~? あのぷるぷる生地が、こんなパンになるなんてね~……」


 俺は猫目を鋭くし、急に真顔になった。


「なんでゲームカセットをフーフーして起動させてたんだろう~……」


 また柔らかい表情に戻る。


「母さんが作ってくれたパンみたいだ~……温かくて~……愛情がたっぷり込められていて~……銀行ATMの土日手数料も、今日だけは許せそうだ~……」


 首を横に振った。


「でも前世の上司、君はダメだよ~……天井のシミを数える仕事に戻ってね~……」


 俺はミルクパンを見つめながら、ゆっくりと瞼を閉じた。


「いや~、奥が深いなあ~パンって~……こんな素敵なミルクパンを作ってくれて~……ありがとう~……毎日の疲れが~……すう~っと消えていくようだ~……すう~……すう~……」








 ──モフミルクパンの魔力に当てられて、そのまま眠ってしまった俺。


 脳内では、片耳の折れた牛のシルエットがモォ~と鳴きながら、でかでかと成長の札を掲げて通り過ぎていった。バチンとこちらにウインクしながら。




経験値獲得!

・パン賛美E 300EXP


レベルアップ!

・8→9(210/260)


スキル成長!

・ロックオン(食) LV1→LV2

半径5m以内の食べ物を自動識別し、その情報を脳内で通知する。


パン

・モフミルクパン(E)

濃厚で風味豊かなモフミルクが香るミルクパン。コクと深い味わいがあり飽きがこない味。




(……はっ!)


 目を覚ます。


(……やっぱりおかしいって! パンはどれだけ優遇されているんだ!)


 経験値300。レベルアップ。あと何だか力がみなぎる。


(……経験値たんまりありがたいけども!)


 ふと、恐ろしいことを考えた。


(この食レポを控えめにしたら、どうなるんだろう……?)


 ──ハッ!!


(俺はなんと不敬なことを考えていたんだ! パンを愛し続けますので……何卒! 何卒!)







 数分後。


 ティナは、溜息をつきながらパンの入ったかごを整えている。


「……ちなみに湯種法で正解ね。生地に熱湯を練り込んだの」


(おお、やっぱり!)


 ミミとロッコは「今日もすごかったね~」と拍手。


 ガランは静かに手帳に書き込む。


「うむ……モフミルクパン、精神回復効果の兆しあり」


 一方、俺の豹変ぶりを初めて見た村人たちは、ぽかんとしていた。


「……今の、なんだったんだ……。人格までもが変わってたぞ」


「いや、でも……すっごい、美味しそうだったよな」


 戸惑いの中にも、俺が絶賛したパンへの興味が、確かに芽生えているようだった。



 ──俺の熱狂的なパン賛美が、村の風物詩になりつつあった。





(……これでいいのか、俺)


 まあ、いいか。パン美味しいし──これ最重要。

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