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パンタニア見聞録~転生猫獣人はパンの食レポで異世界を救うらしい~  作者: 倉田六未
黎弐「パンと世界の理」

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13/67

狩りの道は静かに香る、ラオ

 ──翌朝。


「ユウマよ、今日はラオに会ってみるといい」


 朝食後、ガランがそう言った。


 昨日は世界地図と魔物図鑑を見せてもらった。今日は実践ということか。


「ラオは狩人じゃ。森を歩くには、まずあやつに相談するのがいい」


「ふむふむ……。あ、でも怖い人じゃないといいな」


 ガランは苦笑した。


「……表情は少し険しいかもしれんがな……まあ、大丈夫じゃろ」


 その目が遠くを見つめる。


(……大丈夫じゃなさそうな言い方なんだけど……まあいいか)







 やってきたのは、村の北側にある木立の中。人の気配はなく、静かな空気が漂っていた。


 薬草の香りとは異なる、土と湿った木の葉の匂いが鼻をくすぐる。


 小さな小屋のような狩人の住居。外には干された獣の毛皮や、手入れされた弓の姿も見える。


 風が吹くたび、擦れざわめき、静かな空間にわずかな音が響いた。


「……」


 黒檀の弓を背負い、すらりとした男が立っていた。浅黒い肌に、銀白の髪。鋭く、しかしどこか虚ろな目つきと尖った長い耳──エルフだろうか?


 全身から張り詰めたような静けさを纏い、まるで森そのものが人の形を取ったかのように見えた。


「……そうか」


 挨拶の代わりに、低い声。目線が合う。その視線は鋭く、俺の奥底まで見透かされているような錯覚に陥った。


(おお……めっちゃ無口系だ)


 ラオは俺を一瞥した後、軽くうなずいた。


「……例の、猫か」


「うん……ユウマだよ。よろしく」


 ラオは俺の返事を待たず、有無を言わさぬように森へと歩き出した。


 その足取りは迷いがなく、地面に吸い込まれるように静かだ。


 その背中が「付いてこい」と語っているようだった。




経験値獲得!

・ラオとの出会い 30EXP


レベルアップ!

・LV7→8(10/240)




(レベルアップきた! でも強くなってる実感はないんだよな……森で何か掴めると良いな……)







 ラオの後をついて、森へ。


 一歩踏み込んだ瞬間──空気が変わった。


 外界の音は遠ざかり、葉のざわめきや土の匂いが鮮明になる。


 ミルカの森の北側。魔物の気配はまだ薄い。


「風下に入るな。足音を消せ」


 ラオの言葉に従い、意識を集中する。すると、足裏から地面の感覚がすっと消えた。


 まるで宙に浮いているかのように体が軽くなり、草を踏んでも、全く音がしない。


 俺は自分の体が、森の一部になったような奇妙な感覚に包まれていた。


(……あ、これ、ひょっとして《ステルス歩行(低)》の効果か……? いやこれ、すごくない?)


 ラオは時折、耳を動かしながら前を進む。


 木々の間を抜け、葉の香りや風の流れに意識を向けている。


 彼の研ぎ澄まされた五感が、森の情報を捉えているのが、その静かな動きから見て取れた。



 ふと、ラオが止まった。


「……足跡。パンパインの群れだ」


 前方に、もふもふの塊。


 クリーム色の毛並み、短い足でちょこまかと動いている。焼きたてのクリームパンが歩いてるみたいだ。




魔物

・パンパイン(香・D)×5

歩くたびに甘い香気粉をまき散らす温和な小型魔物。森で群れて行動する。




(……可愛い)


「……獲る」


 ラオが弓を構える。


 風が止まる。


 ──矢が放たれた。


 音もなく、パンパインを貫く。


「……すげえ」


 可愛らしいパンパインが、ふわりと倒れた。


 残りが逃げ惑う。その一匹が、俺の目の前を横切った──


 瞬間、体が勝手に動いた。


《感覚強化(視・聴)》《臨戦態勢(常時)》


 世界がスローモーションになる。パンパインの動きが、はっきり見える。


(見た目は可愛いけど……悪いね!)


 地面を蹴る。


「にゃっ!」


 飛びかかって、押さえ込む。


 パンパインの動きが止まった。


「……筋は悪くない。自分の強みを活かせてるな」


 ラオの声。


 その間にも、矢が次々と放たれ、パンパインが倒れていく。


(……マジで神業じゃん。遠距離からの弓チクではなくて、一射で仕留めてるな!)




EXP獲得!

・Dランク魔物 60EXP




(えっ!? 戦闘に参加しただけで経験値が……!? ()()()()扱いということ……?)


 その後ラオは倒れた魔物に手を添え、そっと目を閉じた。


「……命を、もらう。無駄にはしない」


 その言葉に、俺は少し猫背を伸ばす。


 ラオの背中から伝わるのは、獲物への敬意と、狩人としての揺るぎない覚悟だった。


 彼の狩りは、静かで、生物に誠実だった。


 倒れたパンパインたちの体、ふわりと小さな光を放つ。ぽんっと、その場に二種類の素材が現れた。




素材

・香気粉(香・D)×3

パン生地に練りこむことで、香りを引き立てる天然フレーバー素材。

・保温毛(香・D)×2

温度を保つ特性を持つふわふわの獣毛。パンの保温布やポーチの裏地などに使用される。




(へぇ……魔物によって、複数の種類の素材を落とすこともあるんだな……)


 ラオはそれらをひと目で確認し、革袋に丁寧に収めた。その手つきもまた、獲物の命を大切に扱うかのように、細やかだった。


 やがて狩りは一区切り。帰り道、ラオがぽつりと口を開いた。


「……猫は、嫌いじゃない」


(……はい?)


「……いや。むしろ……」


 彼の手が、俺の頭にぽんと乗る。その大きな、少しざらりとした掌が、俺の頭の毛並みを優しく撫でる。


「……ふわふわだ」


(あ、これは……単なる猫好きのそれだわ、うんうん。狩り仲間として認められたってことでいいかな……?)


 俺の毛並みを撫でることが、無口な彼なりの、親愛の表現なのだろう。



 ──ラオの口元が、ほんのわずか緩んでいるように見えた。その小さな変化は、彼の心の内にある温かさを、確かに物語っていた。

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