踊り舞え相克の黒白
「もう、言葉はいらない。全力で相手させてもらうからな!」
「うん、私も出し惜しみはしないよ。兄さんとの最後の思い出に後悔なんて残したくないからね!」
両者構える。そして、共に目を瞑り極限まで神経を集中させ場を我がものとする。研ぎ澄まされた感覚は相手の呼吸や足運び、視線といった身体の全てを十全に知り尽くし、まるで未来が見えているかのような動きになる村雨流の極意。
「「集極-合-」」
しかし、両者が使えばその極地は縮まらない。楓は兄と鍛錬することを辞め、雫は10年楓の腕を見いていない。それは、お互いが初めて打ち合ったと言っていいものだろう。
「やっぱり兄さんも出来るんだ、それ」
「ああ、散々修行して習得したからな」
「ふーん。それなら、これはどう?」
突如として楓を中心に空間が揺れる。先の大地の揺れのようなものではないが、視界だけが揺らめいている。そして、その横揺れは楓の虚像を残して―――実体化した。
どれが本物か分からないほど精巧な楓の虚像は仕草こそ本人そのものと言っていい。ただし、それは年齢を無視すればだろう。一見、幼子に囲まれた楓(本人)は幼年先生といった風だが、バラついた呼吸と体勢が残像ではなく実体だということが明確に示されている。そして、それぞれのその眼は俺という敵を見ている。
「さて、どれくらい耐えれるかな?」
雫は防戦一方だ。楓本人を中心に変わる変わる虚像を相手し、攻撃する暇などないに等しい。それでも、一瞬の隙を突いて数を減らしてはいるが、普段戦わないはずの体格の差でこちらの方が体力と精神を削られている。
この光景、どうにも既視感がある。そう、例えばフィーを助けた時に森の中で激戦になった時のような―――
「五「八「七の型!」」」
2人の剣撃が雫を襲う。無数の斬撃と突きは雫の身体を肉片に―――変えない。
「へぇ、それが兄さんの権能か」
「流石にこの数は滅茶苦茶過ぎるだろ...」
「言ったよ?全力だって」
「ああ、そうだな。五ノ型『東雲』!」
雫の権能で白い刃を飛ばす技と村雨流剣術との合わせ技が楓本人と虚像を襲う。研ぎ澄まされた白い刃は軽々と肉体を分断して死という運命に書き換える。
「やるね、兄さん。でも、これはどうかな?断罪の剣」
黒い刀が届かないはずの距離にいた楓は、虚空を左右に切りつける。勿論当たるはずがないのだが...
地面に虚しく死の音色が響く。
「―――これはどうかな?断罪の剣」
二度目...いや、三度目だ。理解できれば避けることも一応可能だ。身を屈めることで不可視の刃から逃れる。
名前の通り、罪人を裁くための剣は虚空を振るだけでも、剣先を伸ばしたように不可視の刃が相手を襲う。そして、その刃は肉体に傷を付けるだけに止まらず、魂と肉体を強制的に切り離すことで現世での雫の権能を阻害しているのだ。
「あれ???なんで避けれたの?」
「さあな。でもその攻撃はもう効かない。」
効かないとなると嘘だが、雫の権能を鑑みれば全て避けることが出来るのだから強ち嘘でもない。雫の身体はもう聖霊と同化したが故に、強制的な死でも魂さえ無事であれば運命を覆すことが出来るのだから。
「なら、これはどう?」
教会の敷地にある芝生の上で相対していた雫だったが、楓の後ろに見える光景に驚愕する。教会へ続く石畳が浮遊し、そして雫を目掛けて凄まじい速度で飛んでくる。逃げられないように広範囲に散らばって飛んできた石は、回避の余地も降り注ぎ芝生を抉って土で汚していく。
普通なら避けれるはずもないが、二回も死んで漸く権能の全てを理解し、全て引き出すことが出来る今の雫のは、その事象は意味をなさない。
雫を襲った石は、雫をないものとして扱いすり抜けていく。雫に石は当たらない、これはそういう運命だ。
「増えるし、不可視の攻撃はしてくるし、物を飛ばしてくる。流石魔王といったところか?」
「兄さんだって。何その理不尽」
「...ははは」
「...ふふふ」
両者少しずつ近づいていく。そしてあと一歩踏み出せば刀同士が触れ合える、そんな場所で留まり相手を伺う。




