傲慢に堕ちた天の支配者
暫くすると身体が慣れてきたのか辺りを見回す余裕が生まれる。暗いからよく見えないが下の工業地帯の建物は一部が倒壊しているようだった。揺れもすでに治まっているようで心も少し落ち着きを取り戻した。
このまま何事もなくなどいうと甘い幻想は前方の光景を見て砕かれた。
紅環の太陽の光とは別に昏い空を炎の光が支配していた。商業区と住宅街があるはずの場所は全て炎に包まれていた。
「おい...なんだよ、これ...」
「昼時だから火を使っていたにしては巡りが早すぎる。まさか...!?」
その瞬間前方に一つの影が見えていた。竜のような翼と特有の尻尾、竜人の魔族だ。口から放たれた一抱えほどありそうな巨大な炎の塊は民家と共に爆発し、その爆風と火の粉が辺りを更に地獄にしていく。
「ぎゃははははは!!人は焼却だ!!―――ん?」
「エクシィさん、迂回して...見つかった!風の魔法を解きなさい、早く!!」
「え?」
「おいおい、人如きが空を飛ぶだって...?誰の許可得てんだ?人は人らしく地べたに這いつくばってろよ、なぁ!?」
その瞬間、風の魔法が切れたように俺たちは真っ逆さまに落ちてゆく。このまま地面に叩きつけられたら死ぬ、その思いで力を使う。
「止まれ、止まれ!!...止まった?」
地面ギリギリのところで止まり、全員着地して安心したのも束の間、追撃の炎が迫っていた。
「バリ...な!?魔法が!」
もう助からない。そう覚悟した瞬間、炎はあらぬ方向に飛んで行った。そして空中には先程までいなかった人物が一人漂っていた。
「僕の事忘れるなんて酷いな、勇者さま?」
「ニコラス!?なんでここに?」
「担当の眷属は君たちが倒したからね、暇つぶしに来たんだよ。さっきは蟲族の眷属とやり合ってた人いたし、揺れももうないからそろそろ来るでしょ。」
「竜人の眷属―――禁止の権能、貴女じゃ無理よ。」
「忠告はありがたいけど、君たちも早く行かないといけないんじゃないの?ま、僕は本当に遊びに来ただけだし、先輩が来ればなんとでもなるよ。それじゃ!」
そういうとニコラスは白装束を靡かせながら天に上るように飛び立ち、自由気ままに空中散歩をしている。その煽りに引きつられた竜人はニコラスを狙うように四方八方に火球を散乱させては街に被害が出るといった状況。流石に見てられないと止めに入ろうかと歩みを進めるが、包み込んだ風が俺を離さない。
「おい、どういうつもりだエクシィ」
「村雨君、周りを良く見なさい。殆どが倒壊した建物で更に追い打ちのこの大火。貴方一人が自棄になって動いたとしても状況は改善しない。私が魔法を使えるようになったのもニコラスさんのおかげよ。」
「だから!!皆で力を合わせて、あの竜人を倒せば―――」
「ええ、この辺りで少なからず生き残っている人は助かる可能性があるわね。でも、魔王が動き出した今、助けられる人より犠牲になる人の方が確実に多い。貴方はここの少ない人を助けて自己満足に浸るのと、魔王を倒して犠牲を減らすどちらを選ぶの?」
俺は何も言えなくなった。確かに魔王を倒した方が絶対的に犠牲は少ないだろう。だからと言って少しの犠牲を受け入れろなんて俺の心が許せない。でも、頭では早くここを離れて教会に行って魔王を倒した方が良いということも分かってる。だから、心に修羅を宿して最善を選択する。
「エクシィ、教会に行ってくれ。」
「いいの?妹が瓦礫の下敷きになってても、炎に焼かれても、魔物に喰われていても。」
「...分かってる。だから、魔王に俺の全力をぶつけて最速で終わらせる。」
「そう、分かったわ。ウィンド」




