潜む影
特に病気をしていないのに薬局に入る男が一人。きっと他人からしてみれば変な光景に見えるだろう。例えそれを咎めるようなことがあっても、ここは私の会社の傘下にある薬局なのだから絶対に嫌とは言わせない。
今日私がここに来たのは、再三に渡る帰還要請をしたのも関わらず部下が全く姿を現さないのでこうして自ら状況を調べに来たというわけだ。表向きは他大陸にも貿易を行うグローバルな会社で激務だというのに勘弁してもらいたい。
忙しい身をそのままに彼がいるであろう調剤室の扉を勢いよく開け呼び出す。
「『C』よ。幾度も帰還するよう命令を出したはずだ。弁明を聞かせてもらおうか?」
しかし目の前の白衣を着た男は調剤に夢中になるばかりでこちらに向くどころか返答すらしない。
その様子にいい加減苛立ちを覚え、彼の肩を揺らして無理やりにでもこちらを向かせようとした矢先、彼の達成感に満ちた声が室内に響き渡った。
「できた!やっと完成だ!!」
そういう彼は達成感をそのままに勢いよく立ち上がり歓喜していた。肩を回して筋肉を解し、背中をそり返した時にようやく後ろにいる私に気が付く。
「おや、オニキスさん来ていたんですか。」
悪びれる様子もなく接するのでどうせ夢中になって忘れていたのだろうと予想する。所属している研究者はどうしてどいつもこいつもこうなのか。放っておいても何かしらの成果は上げて来るのは助かっているが、定期的に報告を貰わないと計画に支障が出る。特に今回任せている重要案件などは特に慎重にやりたいところなのだら。
「ああ、久しいな。して、例の件はどうなっている?」
「今さっき完成しましたよ。ラミアさんのホムンクルス研究による聖霊と魂の降臨接続、そして私の人体魔族化の研究があれば計画は最終段階目前です。」
そういう彼が手にもった小瓶の中には紫色の液体が入っている。
「樹精の魔族での記録のおかげで最終段階まで調整することができましたからね。」
「ふふふ、よくやった。ここまで長かった。これで忌々しい神々の理を欺くことができる。これからは私の、いや私たち人間の時代だ!」
「でもよかったんですか?魔王復活を謳うあの連中に魔王の残滓を含んだホムンクルス失敗作なんか送り付けて?」
「構わん。異能の顕現さえ確かめることさえできればあとは問題ない。それに、彼らが望んだ物に殺されるのだ。それこそ幸せだろう?」
たしかエスタリア聖教の聖典に記された邪神エリス神だったか。伝説で生まれたような紛い物の神など興味は湧かない。
勇者など所詮は神がこの地を治めるためにある駒に過ぎないのだから。現に聖霊教会が所属する勇者未満はその役割に捕らわれているではないか。
さて、そろそろその悪しき神話から解放してやろう。




