導かれたもの
雨雲に支配された空を一つの影が通りさる。雨に濡れた聖霊教会の制服がまるで僕の荒んだ心を表しているようだった。
目的地は混迷の森。正確にはそこにいる魔王の眷属だ。そいつを殺してこいというのが今回の任務。
僕は所詮本部が築く理想のための駒だ。持て向きは命令をただ忠実にこなしているように見えることだろう。
でも、彼らの理想なんて僕にとってはどうでもいい。別に内に住まう殺意に身を任せて殺したいだけなんだ。
だから僕が何者かなんて些細なことだよ。たとえ聖霊に選ばれようと僕は僕で何を成したいのかは僕が決める。
僕が教会でサジタリウスとして所属していることなんてただの感謝ついでに面白半分。いや、一番は自由を得たかったから。
五大神教が国教となってからというもの目に見えて忙しくなった父が、唯一暇な時間に僕のところに来たかと思えば
「私のような立派な人になりなさい。ニコラス、お前は私の娘なのだから。」
とそう言い聞かされ育ってきた。さもそうするのが当然と言わんばかりに優しい笑顔で言ってくるものだからあの時の視界の狭さではそれを選ばざるを得なかった。本当は一人で寂しかったというのに。でも忙しくする父を前に誰が寂しいなんて言えるだろう。
あの頃は父の背中しか見えていなかったがある時、僕に聖霊の力が宿った。それが勇者と同じような力だって分かったときは本当に興奮した。まるで新しい道を照らす光に僕は見えた。
そうして聖霊教会のサジタリウス所属となったわけだが、正直正義の心なんて持ち合わせていない僕がどうして勇者候補なんだろうか。もし月神に合えたら聞いてみたいものだね。
そうこうしている内に目的の場所にたどり着いた。面倒だから空から探したいが木が邪魔でよく見えないので仕方なく降りて探索することにする。
当然、魔王の眷属を探す古代遺物なんてないので地道に探すしかない。
「ホント、めんどくさいなぁ。」
そう言いながらもしっかり森の中を探索する。そして歩き続けること数分、意外なことにすぐに目標が見つかった。犬っころを従える獣人と体格の立派な鬼人。
やっぱりというか鼻が良いのか二人はすぐにこちらに気がつき警戒心を高めた。
「こんにちわ~。そしてさよなら。」
僕がもつ重力の能力で前方に勢いよく加速しそのまま獣人の方を始末する。体重と自分より一回り大きい大剣の重さが加わった一撃が獣人を丸太の様に真っ二つにしていた。
後ろを振り返ると鬼人の方が獣人を守るために咄嗟に出した刀が折れていた。
「貴様、大会でみた...」
そう言われ制服のフードを被っていないことを思い出す。自分好みでない上に正体を隠すためだけにあるデザインが邪魔で時々被り忘れてしまう。まあ、この服装付けてる時は相手を殺しても良いときだから問題ないんだけど。
「遺言は聞いてあげないよ!!」
獣人を真っ二つにした時と同じように体重と大剣の重りで加速して切りつける。しかし流石鬼人というだけあって折れた刀身を器用に扱い攻撃を受け流した。
「...くっ。」
その姿が最近になって遊んでいる村雨君に近いものを感じで心が高ぶる、もっと楽しみたいと。
「アハハ!いいね、もっと....もっと!!」
2人の剣戟の音が静寂の森に響き渡る。先人が極めた鋭い剣術と素人が磨き上げた純粋な力の奔流が交錯し、互いを更なる高みへと導く。
しかし、始まりがあれば終わりも迎えるというもの。そもそも刀身が折れた万全でない状態で戦うというのは無謀だったのだろう。能力で加速した重さに耐えきれなかったのか鬼人が持つ壊れた刀は手から離れ、防ぎきれなかった大剣の斬撃がそのまま鬼人を襲った。
胴体から離れた首は中を舞い鬼人は地面に倒れた。
「はぁ~、楽しかった~。」
久々にいい戦いが出来たからか思わず時間を忘れて戦っていた。先程まで戦っていた時の感覚が抜けきれず、未だ高揚感に満ちているのに心に埋まらない隙間があることに気が付く。
そしてそれを確かめるように血塗られた手で顔を確かめる。笑顔じゃない。そのことに気が付いた時にふと彼の姿が蘇る。
「ああ、僕は君のことが...」




