能力の使い方
雨の中佇む女性は地面に臥した俺たちをただ見つめるだけでこれと言って何をすることもなかった。しかしかえってそれが俺の恐怖心を煽った。あの吸血鬼は遊んできたとはいえそこには明確な殺意があった。
しかし目の前にいる魔王の眷属は死というより苦しみに重きを置いているように感じる。苦しんで苦しんだ先の死の様子に何かを感じるとでもいうのか、本当に呆れたように溜息を付くだけで何もしてこない。
「村雨、君....能力を」
声すら出すのが苦しいというのになんとかしようとするエクシィの姿が視界の端で移る。きっとエクシィも自分なりに何かを成そうとしているのだろう。
彼女の言葉を聞いた俺はその真意を考え理解する。俺の能力は分割。この病の原因を断てばいいんだろう。そう考えた俺は自分に能力を使う。次の瞬間、先程までの苦しみが嘘のように消え去っていた。そして何もすることが出来ないとそう高を括っている樹精の魔族に一撃を入れる。
呆れていた女性も流石に俺が立ち上がることが予想外だったようで人なら完全に致命傷を負っていそうなくらいの傷を与えた。そして女性は逃げるように一旦距離を置いた。
「はぁ、ホント呆れを通り越してイライラさせてくれるわね貴方。」
溜息ばかりでこちらを馬鹿にしたような表情ばかりだった女性が余裕をなくしたようにしていたら本来は優越感に浸っているところだが、今回は油断すべきでないと分かっているので距離を置いた一瞬の内にエクシィに能力を使って行動できるようにしている。
「エクシィ。」
「分かってる、アンチマテリアル。」
その瞬間彼女を中心に半透明の球体が作られる。前にも見た物理結界だろう。聖騎士、いやサジタリウスだったか。あの星砕きのような攻撃を簡単に防げるくらいだから安心して構わないだろう。おかげで全員を保護するには丁度いいくらいの大きさで俺は後ろを気にせず仲間に能力を使うことが出来た。
「う、異能が...!?貴様....!!」
鋭く殺意が篭った眼でこちらを睨んでくる女性が背後にいるがこの状態では小鳥が囀っているようなものだった。慢心は大敵を呼ぶといったところだろうが優位に戻って来たことで生まれた余裕くらいは持つべきだろう。
さて、反撃だと皆武器を再び構えるがエクシィはそれを制止する。
「皆、待って。生憎だけどこのまま攻撃するのは無理だよ?」
その予想だにしなかったエクシィの言葉にその場の全員が驚いた。何故、どうすればと言った疑問が来る前に再びエクシィが説明を始める。
「あいつをよく見てみな。」
その言葉通り俺たちは遠くで様子を伺う女性を見てみる。俺が隙を突いて一撃入れたはずの傷はまるで最初からなかったかのようになっていた。それが意味するのはこのまま全員結界の外に出ても確実に苦戦するということだった。
「この戦いの勝利の鍵は私と村雨君、あんたよ。」
そうしてエクシィが語った作戦はあの遠くにる魔王の眷属のように深い呆れと溜息を図らずも生んでしまっていた。でもあの俺たちを襲った病魔を何とか出来るのは俺とエクシィしかいなかったので無理もないものだった。




