樹精の魔族
車窓に打ち付ける雨がまた一つと雫になり硝子を伝って零れ落ちる。外の雨は未だ止む気配はなく、車内に雨音だけが木霊する。
俺含め誰も言葉を発さないのは流れる外の景色を異常がないか注視しているからだろう。それとも確かな予感があるからだろうか。
今まで何事もなく平和に突如現れた謎の病。魔王がいなくなっても過去の傷跡が残るこの世界で唐突に新たに出来た病とは魔王という災厄を思い出させるのには十分だった。現存する病は魔王が滅んで10年もたった今7割ほど治癒が可能な薬が出回っている。それを新たな病、それも謎となれば魔王の眷属が関係していることは明白であった。
人が走るより早い速度で走行する車は、病が発生した村が使っていた川の近くを長いこと走り続けた。そしてついにそれを見つける。
雨の中、傘もささずにたった一人で佇む姿は万人が見ても異常な光景にしか見えない。濡れた車窓が視界をぼやけさせた見間違いの枯れ木ならばいい。そう思い車を止めるよう指示する。
「車止めて!見つけた。」
そういう俺の言葉と共により一層車内は緊張感に包まれた。全員が意を決したように武器を手に持ち外に出る。
雨音と水の匂いだけが支配は身体の熱を奪い去っていく。それが身近でない死を連想したのか恐怖が心を支配しようとしていた。
目の前の人であろうものに声をかける。
「あの、そんなところで何してるんですか?」
「はぁ、もう見つかってしまったのね。」
そういう彼女は雨で濁流となった川から目を離すことなく、こちらに返事をした。そして彼女がいう言葉の意味が気になりその真意を問うべく言葉を紡ぐ。
「こんなところにいたら身体が冷えますよ。」
「はぁ、私は樹精の魔族よ。ここまで言えば流石に分かるでしょ?」
振り返り溜息混じりに放った女性の言葉は魔王の眷属であろうことが予想させるのは十分だった。
そしてそれを聞いたロメロードは拳銃を構える。しかし俺はそんな彼女の行動を制止する。もしかしたら樹精の魔族は身体が冷えることがないのかもしれない。そんな意図をくみ取り、そうでないことを祈り最後の質問をする。
「貴女がここの川に...」
そう言いかけたところで女性は言葉を遮り、もはや呆れを通り越して怒りさえ感じさせる怒気が篭った声で話し出す。
「ええ、そうよ。私がここの川に病毒を放ったの。ほんと察しの悪いことね?」
俺たちはその言葉を聞き一斉に武器を構えようとするが自分の身体が思うように動かないことに気が付く。俺のせいだとそんな後悔をしながら身体が地面に吸い込まれていく。
胸が苦しい、頭が痛い、寒い。身動きの取れない身体の異常が俺たちを襲う。気合で起き上がろうにも身体のいう事が全く効かずむしろ苦しいだけだった。




