無意識に
まさか今日買った刀をその日の内に使うことになるなんて思いもしなかった。しかも、相手が五大神教のユーリベルト教皇の子で大会でも勝ち抜いてきた人と戦うなんて誰が予想で来たであろうか。
兎も角、今日は学院の門の開いていないので祖父の道場の方へお邪魔している。何気にここに村雨流の剣術以外の人が来るのは俺が知る中で初めてじゃないだろうか。
「へぇ、君いつもここで鍛錬してるんだ。」
「ああ、休日と放課後は大体ここにいる。学院の道場も良く使ってるが。」
「ふーん、つまりここに来れば君に会えるってことでいいのかな?」
急に飛んで来た予想外の質問に思わず頭の中を全てを使いどう答えるか思考する。そもそもこの人はどういう意図でそんなことを聞いてきたのか?今までの短い人生経験を総動員しても全く答えが見つからない。まるで迷宮を歩いてるようなそんな感じさえして、あまりの長考にニコラスが謝罪をしてきた。
「ごめんごめん、そんな深い意味はないんだ。ただ君と一緒にいたら退屈な日々が楽しくなる予感がしてね。」
そういう彼の笑みは同性のものとは思えないような秀麗さを放っていて思わずドキっとしてしまう。急に一体なんの告白なんだ?いや、そもそも俺は男にはそういう興味はないぞ。ここできっぱり否定した方が...
「ここで君と毎日鍛錬って考えたら...あはは、ちょっとゾクゾクしてきちゃうよねぇ!!」
そう言い振り向きざまに飛んできた斬撃をなんとか躱す。これまた予想していなかったことだったが身体が反射的に動いて攻撃を回避することが出来てしまった。これも普段の鍛錬の積み重ねなのか。いや、考えてる暇なんてない。ここで反撃に出る。
「一ノ型『三日月』」
始まりと言っても良い村雨流の一ノ型である抜刀。これまで幾度となく使い続け祖父のような強い剣士に片足は言い過ぎでも小指程度なら入れていると勘違いしていた。いや、相手が人間だから無意識に手加減をしてしまっていたのか。どちらにせよ俺の放った一撃は簡単に避けられてしまった。そしてそこに生まれた隙を付いて攻撃してきた。
彼も新調したばかりの鋭い刃を俺の首が飛ぶかもしれないのになんの躊躇もなく刀を横に振るった。明らかに殺意のある攻撃に身体が反応して無理やり体勢を変えて避ける。
そして俺の身体はバランスを崩し床に倒れてしまった。誰が見ても負けだというのにニコラスはそんな俺に追い打ちをかけるように刀を振り下ろす。
「あはっ!死ねよ!!」
さっきまで楽しそうに会話していた彼はどこへいったのか。一瞬見せた狂気が怖ろしくて無意識のうちに使ってしまった。
俺が放った斬撃は彼の刀身を紙でも切るように分断してしまった。そうして勢いのまま飛んで行った刀身が道場の床に刺さる音で我に返る。もしかしなくても面倒なことになったのでは?




