ニコラス・ユーリベルト
次の試合までの休憩時間で観戦者に天使の目撃情報を聞いて回ってみたが、全く情報を得ることが出来なかった。
そもそも魔族が人間と比べて数が少なく互いに距離感があるせいで見かけること自体が珍しいことだ。同じく魔族にとっても同種族だけでなく別種についても交流がないせいで誰がどこに住んでいて何をしているか等の情報もない。正直言ってここまで情報がないとは思っていなかったのでフィーの母がをどうやって探すか悩んでしまった。
フィーはそんな俺の顔を見て不安そうにしている。
「大丈夫。まだ全員に聞けたわけじゃないし、もしかしたら俺の対戦相手が知っている可能性もある。」
「うん。」
なんとか励まそうとするも不安な顔は拭えない。こんなことを言ったがこの大会で天使関連の情報を探すのはもう無理なのではないかとそんな予感がしていた。
「――女学院。」
次の対戦は剣術だったか。そろそろ席に戻らないと。そう思い廊下を歩いていると前から緑髪の男が歩いてきた。おそらく次の対戦の参加者だろう。
「やあ、君たちもこの大会に参加するのかい?」
急に話しかけてきたので思わず驚いてしまった。俺以外に話しかけていないか周囲を確認して返事をする。
「あ、ああ。剣術部門の方でな。」
「へぇ、もしかしたら君とも対戦することになるかな?そうだといいな。」
「へ?」
「あ。そろそろ行かないと。それじゃ!」
そう言い走りながらリングへ繋がる通路へ行ってしまった。まるで嵐のような奴だったな。
席に戻ると戦いが始まろうとしていたところだった。
さっきの緑髪と女生徒が二人。出会った時には全く気が付かなかったがあいつは魔族だったか。髪色から察するに樹族のドライアドだろうか。天使の情報を少しでもいいから聞いておけば良かったなんて考えるが、同じ剣術部門なら剣を交えることになるかもしれない。その時にでもあらためて聞こう。
審判が試合開始の合図を送る。
先に動いたのは緑髪の方だった。人間ではとても真似できそうにないほどの早さで一気に距離を詰め、片方の女生徒を一撃で戦闘不能にして見せた。そしてその勢いは留まることを知らずもう片方の女生徒に狙いを付けて、先の様に素早い一撃が迫ろうとしていた。しかし、その剣先は彼女に届く前に決着がついてしまった。女生徒の降参により緑髪の勝利となってしまったから。
「勝者、聖オルクス学園、ニコラス・ユーリベルト!」
彼の名前を聞いて何かが引っかかる。ユーリベルト...どこかで聞いた名だ。しばらく考えてその名を思い出す。五大神教のユーリベルト教皇。確か御三家の内の一つだったはず。まさかこの大会に出ているのは思っていなかった。しかもあんなに強いなんて、一体どこでその強さを身に着けたのか気になるところだ。
そうして彼は退屈そうに退場していった。俺の出番は少し先だが彼を相手して勝てるとは思えない。もしかしたら彼一人で魔王の眷属を倒せるのではないか、そんな妄想をしてしまう。
そして服の袖を引っ張るフィーに気が付く。
「ああ、分かってる。」
今度は見つかるだろうか。そんな淡い期待を寄せても天使の情報は集まらなかった。こんなに情報が集まらないなんて一体天使はどこで暮らしているのだろうか。




