アルセフィーナ
あらゆる技を簡単にいなされ成す統べなしの俺に追い打ちをかけるように刹那は乱撃を浴びせて来る。俺より二回りほど大きい身体とは思えないほどの俊敏さで逃げる隙を与えず、俺の腕は悲鳴を上げていた。
そしてその剣戟に耐え兼ねた俺は握っていた刀を弾き飛ばされ、最後の一撃が迫ろうとしていた。
「やめて!!!」
二人の戦いを終わらせたのは傷ついた天使の声だった。弱り切った身体とは反対にその眼には確かな力と決意を宿し少しずつ歩み寄せる。
「フィーはお母さんを探しに行く、そう言ったはず。なのになんで追いかけてきて...なんでこんな酷いことするの!?」
すると先程まで覇気に満ちていた刹那の顔色は苦虫を嚙み潰した様になり答える。
「お前の母は...いや、フィー。前にも言ったはずだ。未だに魔族と人間の間では差別もある。それでどうやって探すつもりだ?」
「嘘つき!ホントはお母さんのところ知ってるくせに。」
「...とりあえずこの戦いの勝敗はフィーと共に預けておく。ではな、村雨雫。」
その言葉を聞いて思わず驚いてしまった。俺は相手に名乗っていない。なのに何故俺の名前を知っていたのか。待ってと引き留めようとしても俺の言葉を聞かず、気絶した獣人を抱えて木々の間を走り去ってしまった。
そしてその光景を見て安堵したのか戦いで蓄積した疲労が一気に押し寄せその場に倒れ込んでしまった。
「村雨君!!」
「まったく無茶をする。あんたって実はバカだったんだね。」
「うるさいな、結果的に全員助かったんだから良いだろ。」
「結果だけはね。はい、ファーストエイド。」
エクシィの魔法のおかげで身体が軽くなり、先程まで指一本すら動かせそうになかったのが随分とマシになった。
「ありがとよ、エクシィ。やっぱり魔法って凄いんだな」
「まさかあんたにお礼を言われるなんてね。ちょっと気持ち悪いわね、頭でも打った?」
「な!?お礼を言うのは当たり前だろ!?心傷ついたわ。」
「あなたたち遊んでないでほら。」
ロメロードに言われて大事なことを思い出す。俺が何のために戦っていたかを。
「あの、アルセフィーナと言います。初めまして...」
そう言い彼女は握手を求めてきた。勿論全員握手して自己紹介を交わす。
「初めまして、アルメラ・ロメロードよ。よろしく。」
「私は魔法使いのエクシィ・サークラリア。よろしくね。」
「俺は村雨雫だ。よろしく。」
「あの!!助けてくれて、ありがとうです!!」
そう言いお辞儀をした彼女の頭は勢いが付き過ぎたのか、そのまま倒れそうになるのを直前でロメロードが支える。
「ごめんなさい。」
「大丈夫よ。まだ体力が戻ってないはずだから掴まって。」
「それで君は...」
「フィーって呼んで。皆にもそう呼ばれてたから。」
そうして再び事情を聴こうとしたがロメロードに止められてしまう。
「とりあえず帰って休むことにしましょう。」
確かに魔法によってある程度は回復したとはいえ、まだ全快とはいかない状態で魔物が跋扈する森の中で長話はするべきではない。そい思い吹き飛ばされた刀を拾い鞘に納め帰宅の準備を進める。そしていざ帰ろうというときにフィーは困った顔をしながらこちらを見ている。
「あの、フィー恩返ししなくちゃって。でも何もないから...」
どうしたのかと思えばそんなことかと安心する。
「いいよ。助けたかったから助けただけだし。」
「あら、応急処置をしたのは私よ?」
「俺だってあの鬼人と相対したじゃんか。」
「はいはい、二人とも無駄話は還ってから。」
「はいよ」
そうして俺たちは帰ろうと歩みを進め始めたが、ロメロード掴まってなんとか立てている状態のその天使は俺たちを呼び止めた。
「あの、フィーはお母さんを探さないといけないから。だから一緒には行けない。」
これ以上迷惑を掛けたくないという思いが伝わってくる。確かに共感は出来るがそれを聞いてここにいる3人が頷くわけもない。
「アルセフィーナさん。貴女は自分で歩けないのにどうして一人で行こうとするのかしら?」
「それは...」
「ここにいる皆、エクシィさんも村雨君も、もちろん私も。貴女が心配だから一人にしたくないの。」
「ええ、今貴女を一人にすれば魔物に襲われる姿が容易に想像できるわ。一人で行かせるわけにはいかないわね。」
「誰かに頼ることは決して悪いことじゃない。特にこんな状態のお前を置いていったら心配で気になるしな。」
「...ありがとう...です。」




