シエル
「力が欲しいのかい?」
頭に直接響くような声に驚いた俺は誰の声か確かめるために周囲を確認する。すると俺以外の時間が止まっていることが分かった。そしてどこからともなく彼女は現れた。
美しい銀の髪に碧と紫のオッドアイ。それに幽霊ではないかと思わせるような透明な体。正直、この世の者とは思えない姿に唖然とするしかなかった。そんな俺に彼女は声をかける。
「力なら最初から君の中にある。」
そういうと俺の中にある何かが湧ぎだすような感覚を覚えた。
「君は一体...?」
「私はそうね、シエルとでも名乗っておくよ。それじゃあね。」
「待って!」
「ふふ、君がその力を以て何を成すのか。見届けさせてもらうよ。」
そうして彼女は消え時は動き出す。
違和感を感じた。突如として感じたこの身体から溢れる何か。これは一体何なのか。
ふと我に返り、妹が魔物に襲われていることを思い出す。魔物との距離はもう目前まで迫っていた。俺は考えるまでもなくその力を使う。
手から放たれた白い刃は眼前の魔物を真っ二つにし、核が破壊され消滅してしまった。その光景に驚いていると妹はこちらに気が付いたのか一瞬安心した表情を浮かべる。しかしその安堵の表情も直ぐに崩れ去り俺に対して警告をする。
「兄さん後ろ!!」
俺は楓の言葉を聞くと同時に身体に凄まじい衝撃が加わり吹き飛ばされた。余りの衝撃に視界はぼやけ、思考もまとまらない。せめて妹だけでも無事でいてくれれば。
「...ちゃ......おに....」
誰かの声が聞こえるが何を言っているのか全く分からない。意識が途切れる前に聞いたのは銃声だった。よかった、軍が来たのか。そうして俺の意識は闇へと堕ちて行った。
ハッと目を覚ますと既に魔物が全滅していて処理をしている最中だった。目を覚ました俺に気が付いたのか楓が声をかけて来る。
「兄さん!良かった...!本当に心配したんだから...!」
そう言い泣きながら俺の胸に飛び込んできた。俺も構わず受け止めようとするが、受け止めた瞬間魔物にやられた痛みが思い出したかのように全身を支配する。
「痛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
痛みが引き、漸くまともに身体を動かせるようになった後、あの後何があったのか楓に聞いてみたところ、白装束を纏った一人が魔法でもない不思議な力を使って魔物を殲滅していたと。魔物の殲滅を終えた後は一瞬で帰っていったとのことだが一日でいろんなことが起きすぎで全く分からない。そういえば、楓が気になる事を言っていたな。その白装束以外に後から同年代くらいの女の子も混じって魔物を殲滅していたとか。学園でも未熟な学生が魔物を率先して討伐することは禁じられてる。白装束も気になるがその女の子も気になるところだ。
そうして週明けには魔物にやられた傷もかすり傷程度だったため何事のなく過ごしていたが、編入生がやってきたことで俺の生活は一変することになる。