降臨月際
「一ノ型『三日月』!!」
「遅い!!抜刀の瞬間が目で追えるわ!もっと空気を斬るように!!」
祭りの時間まで稽古をつけて貰っている訳だが毎日やっていてもどうにも型になっている気がしない。
再び一ノ型を構え抜刀するが祖父である師匠の型と比べて不格好だ。
「次!!」
「二ノ型『朧月』!!」
身体を高速回転させ円になるように斬撃を放つが足元がふらつき倒れそうになる。
「まだまだじゃな。これじゃと零ノ型を習得するのに時間が掛かるの。」
そういうと師匠の気配がスッと消え気が付くと背後に立ち俺の首を刀がとらえていた。
「これが村雨流剣術の真髄。七ノ型を習得出来れば儂の気配を察知するのも一応可能になる。」
それから俺はバランスの悪い型を正す修行をしていた。
時間も忘れ修行をいていたが6時を伝える鐘の音が響き研ぎ澄まされた集中が切れる。
「時間じゃな。今日はここまでじゃ。」
「ありがとうございました!!」
そう言い道場を出て外出の準備をした。
公園に着くとやはり年に一度の祭りということもあってかもの凄い人だかりができていた。毎年必ず妹と来ているので集合場所が自ずと分かるはが人混みのせいで思うように進めない。そうこうしてると一部の人が何やら同じ方向を見て何か話をしてるのを見かけた。集合場所と方向も同じなのでなんとなく気になった俺はその方向へ歩き出した。そうして気になる方向の先を見てると黒いローブを纏ったいかにも怪しい集団がなんでもない場所に向かって跪き祈りを挙げている。こんなのを見たらそれは確かに気になってしまうが、明らかに関わってはいけない集団だと無視し、妹の方へ行こうとした。
すると集団が突然声を上げだした。
「我らが主、エリス様。どうか我々をお救い下さい。怒りを鎮め、悲しみを忘れ、憎しみを嫌い、欲望を捨てた我らに救いを!!我らに完全なる死の救済を!!」
集団の全員がそう言ったのち、懐から黒い液体が入った小瓶を取り出しそれを飲み干した。すると集団全員が気絶したのか倒れだした。そんな異様な光景に俺を含め見ていたであろう人も動けなくなっていた。
そんな時だった。倒れた彼らが身体から聞くに堪えない音を発し、肉体が人でないものへと変質していくのを見てしまった。俺には分かる。これは人が魔物になってしまったのだと。
それを見た周囲の人は悲鳴を上げながら逃げ惑い始めた。俺も逃げたいところだが、奥に妹がいる。
なんとか周囲の人を襲っているのに紛れて奥に進むが、前方から悲鳴が聞こえてきた。嫌な予感がして走って来たがその予感は的中してしまう。恐怖で動けなくなった妹が魔物に丁度襲われる寸前だった。
魔物との距離はそこそこあり、走っても間に合わない距離だった。魔物は授業でも習ったことのある無機族のスライム。核を中心として構成され、核が破壊されれば行動不能になる。それを思い出した俺は護身用のナイフを勢いよく投げるが、弾力のある身体に阻まれナイフは途中で止まってしまった。
もう成す統べがない。これ以上とない早さで走っているが妹のその魔物との距離はもう目前で捕食出来る距離にいた。
もうこれ以上失うのは嫌だ。俺にもっと力があれば。
そんな時だった。彼女が現れたのは。