悪夢
「兄、さん...どう、して...?」
俺はこの光景の意味が分からなかった。先程まであの吸血鬼と相対していたはずだ。目を瞑って突っ込んだ時に入れ替わったのか?本当に何がなんだか分からない。
「楓...?」
その瞬間楓は地面を背にして倒れてしまった。呆然としていても仕方ない。手当をしないと。頭では分かっていても上手く身体が動かずフラフラと近寄り妹を抱き寄せる。少し冷たくなっていく妹の身体と胸から流れる生温かい液体が俺の思考を更に乱してくが、その感覚が現実であるというを物語っていた。
「兄、さん...」
俺を見る目が悲しそうで何か言わないとと感じさせてくれる。
「楓...これは、違うんだ。本当は、こんなことするつもり、なくて...」
上手く纏まらない思考から出てきた言葉はただの言い訳で、そんなことを口にする自分にすら嫌気がさしてきた。そんな自分を見る妹の目が軽蔑の眼差しへと変わっていき苦しそうに最後の言葉を継げる。
「兄さんなんか死んでしまえ。」
そう言ったあとゆっくりと瞼を閉じ、そして何も言わなくなってしまった。呼吸が止まったことが、冷えた身体が妹の死を事実と訴えている。
そして苦しそうに言ったはずの最後の言葉がやけにはっきり聞こえ耳の奥に深くこびりついてしまう。それが頭の中で反芻され俺の心を蝕んでいく。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい...」
何度謝っても妹の亡骸は何も言ってくれなくて、それが悲しくて苦しくて辛くて痛くて、深い暗い大穴の底へと堕ちたような感覚だった。
その時だった。けたたましい銃声と共に今まで見ていた現実が霞のように消え去り、現実だということを教えてくれた。
「まさか魔王の眷属クラスがこの辺に隠れてたなんてね。」
声がした方を向くと彼女が銃を構え立っていた。
「ロメロード!気を付けろ、そいつ幻覚を使ってくるぞ!!」
「分かっているわ。先程の貴方を見ていればね。」
そう言い銃を連射する。しかし相手はそれをいとも簡単に避けてしまう。
「おっと、危ない危ない。」
と余裕の表情を見せている。するとロメロードは銃を連射しながら懐から丸い何かを取り出し投げつける。そしてそれを狙ったのかあの吸血鬼の付近で大爆発を起こした。そして漂う土煙の中からあいつが現れた。どうやら腕を一本失っているようだ。ちゃんと倒せる相手なのだと安心する。
「まさか私相手にここまでするとは...。今日は久々に楽しめましたしこの辺でお開きとさせていただきます。」
「逃がすと思う?」
「フハハ、まともな力も持ち合わせていない君が私を倒せるとでも?見逃してあげると言っているのです。」
そういい羽を広げ空へ羽ばたき去って行ってしまった。彼女は去り際に銃を構えるも打とうとしなかった。魔王の眷属に威嚇など全く意味をなさない。つまりそれが意味するものは彼女がもつ銃の弾薬がもうないということであろう。そしてそれを示すように吸血鬼が完全に去ったのを確認した彼女は気が抜けたように地面に座り込んでしまった。
「はぁ~。危なかった~。」




