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あなたの勇者になりたくて  作者: 天明ほのか
狂い始める日常
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春の訪れと共に

魔王が勇者に討たれ平和が訪れたこの世界。そんな世界でも訪れた禍根は残り続けている。

幼き頃、両親を失い祖父の道場近くの一軒家に妹の楓と住み、あれから10年経った村雨雫は学園に入学し、祖父から受け継いでいる剣術を極めようとしていた。

全ては再び自分のように両親を失う苦しみを味わって欲しくないが為に。

魔物が住まう世界で例え明日が我が身でも誰かが苦しむ姿を見たくないから。

「...さん、兄さん。」

この声は楓か。もう朝か、起きないとと思う反面身体は正直なようで本能が囁く。まだ寝たいと。

朝に弱い俺がそんな囁きに耐えられるはずもなく布団を頭から被ってしまう。しかし妹がそんな怠けを許すはずもなく布団を引きはがし目覚めの言葉を放つ。

「ほら、朝食出来てるから顔洗ってきて。」

妹が私室を出た後、眠たい眼を擦りながらなんとか布団から出て洗面台へ向かう。そうしていつものように顔を洗うがその程度で頭にしがみつく眠気が取れるはずもなくフラフラとしながらダイニングへ向かう。

すると楓が丁度できたスープを皿に盛っている最中だった。腹も減ったことだしと俺も皿を取ってスープを持っているとパンが焼けた音が部屋に鳴り響く。

そうしていつものように朝食を食べる。やはり美味いの一言に尽きる。美味い美味いと堪能していると楓が思い出したかのように話しかけてくる。

「あ、兄さん今日の降臨月祭行くよね?」

「ああ、勿論。」

「私、先に食材買ってから行くから現地集合ね。」

「俺も一緒に行こうか?」

「兄さんはおじいちゃんとの稽古があるでしょ?現地で待ってるね。」

そんな軽い会話をし朝食を食べ終え学園に向かうため準備をして家を出る。


学園の校門付近まで来ると散りかけた桜に青々とした葉が茂りもう5月という事を指し示してる。あと数か月もすれば暑い夏がやってくる。嫌だなぁなんて考えていると突如として声を掛けられる。

「お、雫じゃん。今日も妹と登校か?シスコンめ~。」

そんな軽口を言ってきたのは数少ない友達のオルノス・マグナだった。いや、俺はシスコンじゃない。ただ単に家族を大切にしているだけだ。

「これは家族愛だ。そういうオルノスはいつもその剣と一緒じゃないか。この剣マニアがよ。」

「俺だってこの剣とはずっと一緒なんだ。そういう意味では俺も家族愛だよ。」

「いや、違うだろ。」

「楓ちゃんも降臨月祭行くだろ?俺も用事が終わったら行くから。」

「うん、私も買い物終わったら行く予定だから。」

と話していると1限目の予鈴が鳴り響く。それを聞いた瞬間一目散に教室へかけて行った。


今日も平和に一日が過ぎ6限目となっていた。武術学科に所属している俺は普通科と比べて身体を動かす機会が多く一日の最後の方になると疲れで眠気が俺を夢の中へ誘おうとしていた。今の歴史の授業が常識の問題で退屈なのがいけない。思わずうっつらとしてしまうのも無理はないはずだ。そんな俺を先生が見逃すはずもなく。

「...で、五大神教は国教となり........おい村雨雫、我がエンブレイ共和国の国教以外の世界三大宗教を言ってみろ。」

唐突な指名に心臓が跳ね眠気は彼方に飛んで行ってしまう。勿論話は聞いていたので答えられる。

「エスタリア聖教と聖霊教会です。」

「正解だ、ちゃんと聞いているな。エスタリア聖教は今からおよそ1000年前に遡り、魔王の出現と同時にエスタリア聖教が主とする一神、エスタリア神が勇者を使わしたことから始まったとされ....」

と話しているとチャイムが教室になり響く。

「ああもうこんな時間か。今日は年に一度の降臨月祭だ。先生も巡回してるからあんまり羽目を外し過ぎるなよ。」

そう言って先生は教室をあとにした。俺も家に帰る準備をする。本当ならそのまま祭りに参加したいところだが時間が早すぎるし、他にやることもある。滅多にないこんな日でも剣術の稽古は欠かさず行う事にしている。御年73の祖父が村雨流の剣術師範として稽古をつけてくれるのだが、学園の授業が天国と思えるほどの厳しさで全く気が落ち着くことがない。普通は毎日そんな修行のようなことをしていたら身体と心がどうにかなりそうなものだが俺には目的がある。それは魔物によって誰かが命を失い誰かが悲しむ、それを防ぐことだ。10年前に起きた魔王の出現と同時に現れた無数の魔物により沢山の命が奪われた。俺の両親もあの時俺たちを守るために犠牲になってしまった。憎しみがないとは言わないが未だに魔物が残っているこの世界で誰かが悲しむことは起きて欲しくない。

ここ十数年で科学が急発展し剣や弓は旧世代の武器となってしまった。更に10年前に起きた魔王の出現と同時に魔法を扱える人も増え、益々古来の武器を扱う人が減ってしまった。もはや芸術や伝統といった意味になりつつある武芸だが、未だに活躍している人もいると聞く。

俺はそんな伝統を受け継ぎつつ、得た技術を基に人助けをしたいのだ。

そんな思いを抱きながら祖父の待つ道場へ足を運んでいた。

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