9.既婚子持ちは恋愛対象外
このエピソードにて、第1部終了です。
ここ1か月ほど、久しぶりに自分の小説を読み返してました。
今の自分だったら、どんな風に書いているのかな、と比較してみたいものです。
「どーお?ケガの具合…」
「ハハ…」
二十代後半って所かしら。
傍目からみても、かなりいい男。
あたしの目からみれば、そりゃもう、むしゃぶりつきたい位のハンサムさんが、病室のベットで痛々しそうに横たわってる。
全身火傷、肋骨、右大腿骨と左肘、右手首など、計36カ所の骨折、打ち身多数。
俗にいう「生きているのが奇跡」ってワケなんだけど、まあ、生きててくれてなによりだったわ。
もっとも、骨折、打ち身の原因はほとんどがあたしの荒っぽい救出のせいだけど。
…だって、あの状況下じゃ仕方ないわよ。
コクピットをむりくりこじ開けて、ぐったりしてるパイロットをつまみ上げて、走って逃げながら最後には爆風を避けるためにダイビングするなんて荒技、あたしとグランザール様にしか出来ない芸当だもの。
お蔭で機体の背中はまっ黒こげ。
源さんのなんとも言えなさそうな顔、見られなくって早々に逃げてきちゃったし。
せっかく晩ゴハン奢って貰おうと思ってたのに、オーナーったら「命を粗末にしてはどうこう…」って説教するんだもん。ウザくってたまらなかったわ。
「でも、ダメよぉ、脱出装置をなんにもつけないだなんて。あたしのオーナーじゃないけど、命あっての物種でしょ?」
「それは、お宅も…いや、命の恩人にオタクは失礼だよな…」
「いいわよなんでも。どうせあたし、オンナじゃなくてコンナんだし」
あたしのツマラナイ冗談に、ハンサムさん、お義理で笑ってくれた。
「いや、あなたの機体だって、脱出装置はつけていないじゃないですか」
「いやほら、ウチってビンボーチームだしさ」
笑ってごまかす。だって、ごまかすしかないじゃない。
「えっ、でも、今回の賞金は、自分の口からいうのもなんですが、かなりの金額に…」
はぁぁ。
どんなにいい男でも、所詮は”おぼっちゃま“かぁ。
「違うのよ。あたし、いつもギリギリのところで闘っているからこそ、パイロットとしての冴えを発揮できるのよ。いつでも脱出できると思うと、甘えがでちゃって、いつかヤラレテしまいそうだし」
なんて、ね。
賞金なんて残らず借金の返済に当てられるから、脱出装置にカネを回す余裕なんか無いだなんて、とても言えないし。
それに、ただでさえ貧弱なエンジンで機動しているグランザール様に、これ以上余計な重量負担は掛けたくないって事もあるし。
まあ、あたしのダイエットだけは、カンベンして欲しいけど。
「そ、それは自分も同じ、同じですよ。勝つためには、高額な脱出装置にカネを掛けるよりも、武装や装甲に回した方がいいと、自分でオーナーに直訴したんですから」
「バカねえ。あなたには帰る所があるんでしょ? どうしても、なにがなんでも帰らなきゃならない女性がいるんでしょうが」
内心でため息をつきつつ、叱り飛ばしてあげた。
そりゃ、あたしだって、せめて、今のエンジンがフレームの限界一杯のレベルに組み換えられて、重量負担を気にしなくても構わないなら、いくらでも脱出装置にオカネ掛けたいわよ。
そう出来るのに、ツマラナイ見栄を張って大切なヒトを悲しませるなんてマネ、もう二度としちゃダメよ。
「んじゃね」
あたしはせいぜい、“ジョシコーセーの笑顔”を振りまきながら、手を振ってあげる。
「あ、どうも…」
そうよね。命のやりとりをしておきながら、最後には命を助けられた間柄だもん。
テレくさくって、まともに挨拶なんかかわせないわよね。
あたしだって、パパがしつこく言わなかったら、お見舞いになんて来るつもりなかったし。
まあ、アレですか、“一夜を共にした男女の仲”って感じかしらね。
アハハ…
自分で思っていて、赤面しそうな顔を隠しながら、病室の扉を閉めると。
向いのイスに、きれいな奥さんと、5、6歳位の小生意気そうな男の子が座って待っていた。
ああ、あたしが来てたんで、遠慮してたのね。
「どーも」
「あ、この度は、ドーモ…」
ずけっと挨拶してあげると、奥さん、なんかしどろもどろな態度。
ま、そりゃそうよね。大事なダンナを殺されかけて、なんの因果か助けられて。
それでも、あれだけの高額機体を一瞬で失っちゃったんだもの。入院させて貰えてるんだから、クビにはなってないと思うけど、それでも給料大幅カットは避けられないでしょうし。
憎んでも憎み足りないけど。
まがりなりでも、命の恩人。
奥さんにしてみれば、どう対応していいのか判らないんでしょうね。
「よくもボクのパパをイジメタなぁ!」
かたわらの小生意気なボウヤが、そんな母親の態度を見て、あたしに突進してきた。
中々、いい突進ぶりだわ。
勇敢で、度胸もいいし。
将来、いいパイロットになれそうね。
でも、あたしとだけは闘わない方がいいわよ。
なんて思いながら、首根っこをひっ捕まえて可愛らしいおでこやほっぺたに、デコピンやツネツネを連発でお見舞いしてあげる。
「うええぇええぇえんっ!」
手足をじたばたさせて泣きだしたガキを、そのまま奥さんに押しつけて。
「んじゃっ!」
手をあげて、早々にその場を立ち去った。
何事かと睨んでいる看護婦さんや娯楽の少ない入院患者の興味津々な視線なんか、知った事じゃないわ。
あたしは、あたし。
他人にあれこれ言いたくないし、言われたくもないのよ。
だから、奥さんのこれからの生活なんか、考えてあげない。
折角の拾った命なんだから、二人でよーく考えてよね。
~ ・ ~
「母ちゃんただいまー!」
「ちょっと郁美、随分遅かったじゃないのっ」
「ごめーん、バイトの残業頼まれちゃってさ」
あたしはいたずらっ子のように舌を出して、バイト代の入ってる(はずの)Pカードを手渡してあげる。
「いつも悪いねえ。でも、それにしても、連絡くらいくれたって…」
「だって、すっごく忙しかったんだもん。それより、今日の晩ゴハン、何?」
心の中で“ゴメンね母ちゃん”と手を合わせながら、あたしは思いっきり母ちゃんに甘えていた。
勝ち残ったあたしには。
生き残ったあたしには。
いくら隠れ借金だらけだからって。
いくら敗れたサイドの人々から恨まれていたって。
そうする事ができる権利位は、残されていてもいいと思うから。
それが、コロニアムでマシンにカラダを預けて戦うパイロットのルールだから。
そして、あたしはいつも“絶対無敵っ!”を貫いているんだから。
(おしまいっ!)
最後はちょっと長くなりましたが、分けると文字数が少なすぎますので、ご容赦下さい。
自分の作風として、引っ張ってくれるキャラクターの力で書かされていくようなものだったと、思い出しております。
そういう作品を読むのも書くのも好きだったよな、と、過去を懐かしんでおりますね。