8.スーパー良心回路ディスク
フラッシュに限らず、命中率や回避率はパイロットレベルによって確率が変化します。
現実でも、初心者と達人では、まるで違いますよね?
「やったな、いくみぃ」
「…パイロット、気を失ってるわね」
まともに利いたようで、相手の機体、ピクリとも動かなくなった。
どうやら、頭部センサーはサイコフレームを使っていたらしくて、接近戦用には普通のカメラモニターで代用していたみたい。まあ、遠距離用の機体だから無理もないか。
サイコミュコントロールを失ったファンネル達が、迷走を始めている。
さっきまでのおろおろとした態度はどこへやら、ようやく真剣なパイロットの顔に戻ってきたパパを促して、肩のワイヤーを伸ばしながら、相手機体の胴体部に滑り降りる。
右肩からトリニティビットを伸ばして、腰部のエネルギー炉の辺りをガリガリと削り始める。
まだメガドライブによるエンジンのオーバーブーストは止まっていないみたいでキラキラと輝いているもんだから、狙いがつけやすくて助かっちゃう。
向こうのコンピューターが自動回避を試みているみたいなんだけど、センサーが完全に死んでいるらしく、あさっての方向に腕を振り回しているのが可笑しい。
「いくみぃ、ディスク入れかえても…」
「うん、いいよ。判ってるって」
こういう時だけは落ち着きはらった大人の声で、パパはスーパー良心回路ディスクをハードコンピューターに吹き込んだ。
相手の胴体を破壊するとき、パイロットの脱出の確率を高めて上げるというお遊び的なディスクが、早速、相手の脱出装置や射出回路を傷つけないように、自動修正をし始める。
やっぱり、自分が脱出失敗した経験があるからなんでしょうね。パパは相手パイロットに優しい。
まあ、あたしとしては、勝ちさえすれば文句ないし。
“破壊神”だの“血に飢えた殺し屋”だの、ありがたくないニックネームは乙女の身としては御遠慮したいしね。
でも、壊し方が甘くなっちゃったせいか、スパークしてるだろうコクピットに焼かれでもしたのか判らないけど、パイロットが目でも覚ましたみたい。
特攻覚悟でフィンファンネルたちがあたし目掛けて突っ込んできたわ。
まあ、狙いはゼンゼンなってないけど。
ドラゴンクローとフラッシャー、さらには値段の割に強力な破壊力を誇るトリニティビットで深々と穴を開けられて、攻撃力マイナス200パーセントを超える状態でのアタックが成功する筈もないわ。
ていうより、まだ逃げないの?
勝負はもうついたのよ。負けも見極められないで脱出しないあなたに責任があるわけよね。
「んじゃ、遠慮なく」
万が一の苦し紛れの反撃でも、当たっちゃったらシャレにならない。
その前に、完全に動作を停止して頂かないとね。
すでに装甲もぶち抜き、柔らかい掘り放題な機体内部の中に、もう一度トリニティビットを、アームを目一杯に伸ばして突っ込んであげる。
ガガガ、バリッ…
手応え充分。
エネルギー炉まで完全にぶち抜いてしまった。
メガドライブ稼働中にエネルギー炉貫通だから、当然、派手に誘爆しちゃうわね。
折角の高額機体が粉みじんとは、観客やアナウンサーが泣いて喜びそうな演出になりそう。
んなこと、かまってられないけどさ。
「パパ、いくわよ」
「う、うん…」
ドラゴンクローのワイヤーを全部カットして、あたしは相手の爆発寸前の噴火口のように大きな機体から全速力で遠ざかる。
すでに、機体のあちこちから、火花が飛び散り、全身をスパークが被っている。
唐突に、右腕は炎と共に吹っ飛んだ。
次いで左足が爆発し、大きな機体がどっと倒れ落ちる。
主を失ったフィンファンネル達が、次々に誘爆寸前の機体に突っ込んでいき、爆発に巻き込まれていく。
「今回も楽勝だったわね」
あたしの言った通りでしょ、なんてイヤミは言わないで。
サービスのつもりで、にっこりと微笑みかけてあげたんだけど。
パパったら、なぜか浮かない顔。
「いくみぃ、パイロット、逃げないんだよぉ…脱出装置、故障でもしたのかなぁ…」
「あぁん?パパったら、心配のしすぎよぉ。あれだけお金のかかっている機体なのよ、まともな脱出装置位ついてるでしょうし、こっちは良心回路だって…」
んなこと知らないわよ。
下手すれば、こっちだって爆発に巻き込まれかねない。
だいたい、相手パイロットってば、あたしの怖さも強さも知らないで、甘くみていたくせに。
そもそも、命のやりとりは承知の上でマッチメーカーに参戦したんでしょう、自業自得じゃないの…
「いくみぃ…」
判ってる、判ってるわよ、そういう甘い所を残しているから、パパは脳味噌以外の全てを失っちゃったんだってことは。
あたしだって、こういう甘い性格だから、こんなやっかいごとに巻き込まれちゃうんだってことは。
頭では、充分迷っていた。
でも、あたしの体は自分に正直に動いていた。
だって、それはあたしが一番あたしらしい所なんだし。
それに、迷っている場合じゃない位、切迫していたから。
郁美、なんだかんだ言って、意外に甘い所があります。故に、Sweet Bombなのです。