65.はぁ、とんでもない娘を持ったものだ
当然アウト。絶対アウト。普通じゃなくても二度と会いたくない。
それが普通。当たり前。常識。コンプライアンス違反。
ん?ギルティ、まんざらでもない、とか、言い出しそうだな…
「郁美君、君という人はだねぇ!」
「えー!いい男は積極的に捕まえとかなきゃ、他の女に獲られちゃうのよ?」
「だからと言ってだねぇ、あれはないだろうあれは!」
「そーお?」
「もしも君が男で彼が若い女性だったら、絶対アウトだろう?」
「だって違うじゃん」
「似たよなもんだろうが!」
ま、それも、そうか。
でもねぇ、あたしだって相手は選ぶよ?見境なくとかしないよ?
彼だからなんだよ?乙女の純情をささげてもいいと思えたのよ?
父ちゃんなんだから、応援してくれてもいいんじゃないの?
ガミガミいう狸親父の小言を左から右に流しながら、あんな死闘を繰り広げていた相手に恋愛感情持っちゃうだなんて、あたしって何なの?とか思っていた。
でも、気は、合うのよね。
絶対に殺してやるんだから、とまで燃え上がった感情は、試合の後ではきれいサッパリ無くなってる。
あたしのトラウマを、パパの相談を受けて解決策を示してくれる頭の良さもある。
大人の包容力と立場も持っている。
おまけじゃなく、重要な事として、顔と声がイイ。スゴクいい。
これって、最高の相手じゃん。めったにいない好物件。
で、あたしは、他の女は持っていない持ちようもない、天才で絶対無敵という武装があるじゃないのさ。
こりゃもう、アタックしないわけにはいかないわ。試合を最後まで捨てない確固たる覚悟はしっかり持っているつもりよ。
「聞いてるのか郁美君!…はぁ、とんでもない娘を持ったものだ」
「なによぉ。父ちゃんだって、あたしの母ちゃんに猛アタックしたんでしょ?何十年か越しの恋を実らせたんでしょ?
…あたしだって、恋したいもん!」
だって、花のジョシコーセーなんだよ?
ガッコや近所に、あたしに釣り合う男なんていない。
ドーリングでたまーに見かける、“いいな”と思う男は、既婚者子持ちだったし。
そーいえば、あたし、病院のお見舞い=男探し、な認識があるかも?
まさか、ね。
でも、弱っている男って、なんか、グッとくるもの、ない?
「まあまあポンスケ。いくみぃだって悪気があったわけじゃないんだし」
「悪気大ありだっただろうが!」
「暴れないだけ、ずっとマシだろうが?」
「暴れた方がまだマシだったわ!」
エアタクシーのモニター越しに、パパが一応とりなしてくれている。
内容は、ありがたいもんでもないんだけどね。
ホント、パパもあたしの事なんだと思っているのかしら。
ただの乙女の純情を打ち明けただけなのにねぇ。悪気だなんて、失礼しちゃうわ。
でも。
ギルティ、パパのことは興味津々で、“掲示板”でのラグいやり取りは大変そうなので。
パパに会わせてあげるからという理由でデートに誘えるわね。これも、他の女には出来ないことよ。
そ、あたしにしか出来ない事。あたしを“特別な存在”にして貰わないとね。
負けないゾやるゾ頑張るゾあたし。うーん、燃えて来たぁ!
暴れないだけマシ、というポジティブな見方もあったか。
いや、ダメだろ。