64.空気読めなくてゴメンね
前回、パパ登場できちんと見終えていなかった、決勝戦の感想戦。
どこかで第三者視点できちんとやっておきたかった、な、理由もあります。
死闘を経て互いを分かりあえる、というシチュエーションも、ベタっぽくて大好きなだけですけど。
ちょっと困った顔のオーナーは、それでも続きを再生してくれた。空気読めなくてゴメンね。
空気をちゃんと読める(こともある)パパは、素直に隅っこに引っ込んでくれた。
固まったままのSweet Bombは、それでも、ピクピクとは動いている。
CPUグランザールが必死に復旧に励んでいるのが、何となく理解るわ。
何かのはずみに動き出してバッサリとか、ありえないわけじゃない。例の“オート後の先機能”でも部分的に効いているのか、単にコンピューター同士の権限争いなのかな?
これは、危なくて迂闊に近寄れないわね。
でも、チャンスではあるのだから、ギルティが何か宣言しつつ斬りかかるのは分かる。放置すると回復されちゃいそうだしね。
まずは右腕を斬られたわ。盾効果回避とか、地味に嫌な能力ね。
あらぁ、結構盛大に削られてるのね。装甲だけかと思ってたけど、中身見えちゃってるじゃん。あ、シックルの突き刺しと、引く時の切り裂き効果か。
デスサイズもシックルも、攻撃だけならいい武器なんだよねー。あたしは好みじゃないけどね。
連続で、今度は左脚部。これはキツカッタ。センサーがこれで落ちちゃったんだよね。
これは、ダメだね。反撃の余地なし。あたしならとっとと諦める。
そっか、この時、“諦めた”のか。負けの原因は、これかー。
ん-じゃあどうしたら良かった?
これは完全に嵌められてる。
なので、こういう状況になる前に遡らないとダメだね。
待て待て、それじゃ意味ない遅すぎるんだから、こうなった時にどうするかを考えておいて…
って、そっか3連続コンボか。今度は右脚。倒れるね、これは。
ドーリング中の転倒は、そのまま試合終了でもいいダメージ。ここから逆転は、よほど運でも良くないと不可能。AKが立っていられないだなんて、よほどの事よ。
でも、Sweet Bombは、まだ立っていた。
あたしが負けを認めて脱出しようとしてるのに、まるで諦めていないみたいに。
いや、機体への感情移入は、やりすぎると自分が死ぬわよ。
そーやって余計なことに気をまわして、誘爆死するまぬけなパイロットなんかに、あたしはなりたくないわよ。
でも、でも。
負けたく、ないよね。だから最後の最後まで、頑張っちゃうんだよね。
あーもう、ギルティあんたほんと強かったわ。
と、Sweet Bombは、動き出した。
うそでしょ?と思ったけど、そっか、この時、パパをモニターから消せたんだった。
完全に勝ったと思い込んでるギルティの武装を下から跳ね飛ばして、そのまま大剣を叩き下ろした。
ギルティの機体右脚を一撃で完全破壊。よく誘爆を防げたわね。
『なぜだ、なぜ動けるんだぁ!』
ギルティの慌てた声。あたしもそう思う。なんで動けるの?
『ギールーティーイー、絶対許さないからねっ!』
入院部屋の中に、あたしたちの声が響き渡る。
「…本当、なんで動けるんだよ、おかしいだろお前…」
ようやく笑いのツボから復帰したらしいギルティが、感心したようにつぶやいてる。
「うん。あたしも、そう思う。合成動画じゃないの、これ?」
いや、あたし何言ってるんだろ。あたしが自分でやったことじゃん。
いや、Sweet Bombが諦めなかったからか。いやいや、機体に過剰な思い入れはダメよ。
でも、しかも、立ってるのもやっとなのに、歩き出してるし。
うそ、転倒を防ぐのだけでも精一杯のはずよ?
「いまでも、嘘だと思いたいけどな。斬っても斬っても蘇って向かってくるなんて、ホラーか何かだろう」
「んな大げさな」
いや、おおげさでも、ないか。あたしが逆の立場でも、結構コワイ。
しかもギルティの機体、片足完全破壊なので、立ち上がるとか歩くとか
無理じゃない。
え?逃げないの?
『おい、アズラエル!さっき、負けを認めただろう!無駄なあがきは止せ!』
スピーカーでギルティが時間稼ぎを始めている。
そうね。切り札持ってるんだもんね。試合を捨てたりしないか。
んで、あたしがヤッチャッた脱出装置の強制作動か。
ホント、勝つためならなんでもヤルのね。卑怯だわぁ。
勝つための、意思の強さかぁ。
で、あたしがSweet Bombをダイビング&上半身に薙ぎ払い攻撃させて。
ギルティがマントをコールドクローで凍らせて、大剣を滑らせて。(これ、スゴイね。あたしには出来ないかも)
ついでにオマケでホークマスターを飛ばして。(これイラナイよね。ホントいらないよね)
あたしが脱出用のコアファイターを特攻させて。(これもいらないよね。ほんと無茶するわ。でもしょうがないじゃない。ワンチャンスあるんだから)
試合終了。
「ギルティさぁ、あんたの機体、もしかして完全破壊?」
オーナーに夢っぽい頭の中で聞いた気がするけど、よーやく画像で確認できた。
「ああ、誘爆した。ホークマスターにも突っ込まれたのが痛すぎた」
やっぱ、そーなんだ。余計な事しすぎたせいだよね。
…ざまあみろ、とは言えなかった。
死闘だった。
楽しく、は、なかったかな。
必死だった、勝つために。
「決着はついてたんだから、余計なことはしなくて良かった。まあ、仕方がない」
だよねー
でも、いっそすがすがしい、ギルティの顔。
ほんと、顔と声だけは、いい男なのよねぇ。
でも、あたしより弱い。だからそういう気持ちにはならなかったんだけど。
あたしはゆっくり、ギルティに近づく。
幸い、ヤツはあたしの挙動に気付いてない。
父ちゃんもまだ気付かない。
パパだけには気づかれたけど、あたしの命令を忠実に守っている。
あと3歩、2歩、1歩、半歩。
入った。あたしの、間合いに。
ギルティの座るソファーの横に、あたしも腰掛ける。
今、気づいたような、ギョっとしたいい男の顔を至近で見守りながら。
「あたし、自分より強い男が好きなの」
「…は?」
「ギルティ、あたしより強くなったのね。ご褒美よ」
両手で彼の頭を(壊さないように)抱えながら、あたしは彼の唇に自分を重ねた。
「!」
温かく、柔らかく、いい匂いがした。
あたしのファーストキスよ。しかと受け取りなさい。
「…」
ちょ、ちょっと。
あたし、唇同士のキスって初めてなんですけど。(ファーストキスなんだもん、当たり前か)
無茶苦茶、気持ちいいんですけど!
なにこれスゴイ!
なんか、ぽぉっとしてくる。重なってる相手が、すごく愛おしい。
あたしは無我夢中で彼を抱きしめていた。多分、30秒ほど、そうしていたかしら。
少し息が少しきつくなって、彼の頭を離したら。
ギルティは、気絶していた。
やりやがったな甘美爆弾。
でも、ヤルとは思ってた、な予想を立てられると、作者としては弱いなぁ。
いやいや必然でしょ。
だって、今まで負けたことないんだもん。
そりゃ郁美の中でキチンと消化しないとダメでしょ?