63.顔が紅いぞ。まだまだ子供だな
カットしづらい、です。
長いわ。筆がノっちゃってますね。
何回か見返しましたが、カットできるのがここしかないです。
これで、お願いします。
「久しぶり、でもないか。元気、でもないみたいね」
すこぉしの皮肉でジャブを噛ましつつ、ギルティの様子を伺う。
なによ、最上階の広い入院患者用の個室を占領するVIP待遇だなんて。
まだ、お嬢様初心者のあたしには、ハードルが高いんですけど。こんな所に入院するような知り合いなんて知らないし、来たこともないんですけど。
気圧されないように虚勢を張って、表情を上手く隠す。
そう、あたしは女優、女優なんだもんね。
ギルティは、あたしたちが来たことにすでに気付いていて、立ち上がって出迎えてくれた。入院用の寝巻?入院着?は指定のものらしい。着る物に関しては特別扱いはされないのね。
立てるということは、それほど大したケガじゃないみたいね。
服で隠されてはいるけど、左鎖骨骨折、右脇腹、多分第二、第三肋骨骨折は間違いない。打ち身や打撲は、さすがに分かんない。火傷はしてないみたいね。
「そういうお前は、顔色が戻ったみたいだな。AKにはもう搭乗れるようにはなったのか?」
…コイツにだけは知られたくなかったわ、あたしの不具合。
情報漏洩は…おまえかオーナー!
そっぽを向いて顔を合わせようとしなくても、分かるんだからね!
「いや、その、ギルティさんから相談をだね。わたしは、ドーラーのことはシロウトだからねぇ」
誰にそんな相談してるのよ!
他にいないの??
よりによってコイツ?!
あー、どおりで負けが成長とかなんとか言ってたわけだ。
父ちゃん、もうブチ切れてもいい?
ギルティじゃなく、あんたに!
「まーね。その節はドウモ」
声が震えるのをかろうじて堪えて、礼だけは言っとく。病院から帰ったら、父ちゃんをどうとっちめてやろうか、メラメラ燃える感情を押し殺しながら。
ま、落ち着いた環境でパパを呼び出して話し合う、っていうのは、冷静に考えればいい判断だと思う。
仕掛け人だけに、対処も考えてある、とか得意そうに言われそうなので、敢えて振りたくはない話題ではあるわね。
「顔が紅いぞ。まだまだ子供だな」
くっ、これでも頑張って表情隠してるんだけどな。
やっぱドーリング用のメット持ってくるんだった。イヤ、街中であんなもん被ってたら変態か。
「オーナー、お前のお母さんと再婚したそうじゃないか。おめでとう」
うわぁ。
今度こそあたしはオーナーをギロっと睨みつける。
ただでさえ手に負えない甘美爆弾抱えてるのに、どーして幸せだーと他人にばら撒いたりするかなこのポンスケは!
あたしの身にもなってミソ。変化に対応しきれてないんだからさぁ!
「同級生同士だったそうじゃないですか。一度はさわやかに諦めた恋を、何十年かぶりに実らせるとは、さすがですねオーナー」
今度は、オーナーがあたしの顔を見る。
いや、出所はあたしじゃないよ。ってか、ギルティに会いになんて、あたし誘われでもないと行かないもん。
ってか、待って?
あたしのこと、ギルティに色々バラしたの、オーナーじゃないの?
そういえば、オーナー、あたしが睨んでもあんまり怯えてないわね。
っていうか、自分の事も色々知られちゃってる?
あれ?
あたしもオーナーも、ギルティにそんな話してない、とか?
「ああ、アズラエル、あなたのお父さん、えっと、パパさんに伺ったんですよ。“掲示板”で」
掲示板?パパに?
「ライブメールもテキストメールも使えませんが、“掲示板”は使えるのだそうです。いやぁ、対応ソフト探すのに苦労しました」
あっけらかんと、ギルティは情報元をバラしてくれた。
コイツ、顔と声はすごくいいのに、話の内容が伴ってないわ。
何言ってんの?
「機材も、骨とう品を探してもらって、ようやく手に入れましたよ。回線は通常だと繋がらないので、ネット回線を変換して地球に残されている有線回線に送信して、なんとかな…ったんだ」
ギルティ、得意そうにオタクな話をしだして、途中で自分のキャラに合わないことに気づいたらしい。ちょっと顔が紅いぞ。
「んと、パパとお話できるってこと?」
「ええ、まあ、話というにはラグが強すぎるがな」
まだキャラが乱れてるゾ。本人も、自分の感情を持て余しているみたいね。
あんた、そんな一面あったんだ。
一つ咳払いして、気を取り直して、ギルティは続きを話し始めた。
「アズラエル、お前と闘うに当たって、色々研究したんだ。不正プログラムのこともな」
ああ、なんかそんなこと言ってたわね。だからチートはパパじゃない、あたしなんだってば。
「その過程で、旧時代の通信機器が、お前の不正プログラムへのアクセスと睨んだのだ。どうだ、効いただろう?」
うぬぅ、確かに効いた。悔しいけど。認めたくないけど。
あたしの渋い顔に満足したらしい。ギルティは話を続ける。
「あれで、完全にSweet Bombは機能停止させたと確信したのだが…なぜ動かせた?」
あー、あれね。
「パパごと消したよ」
今度は、ギルティが渋い顔をした。お相子だよ。
「あれって、消せるものなのか?」
「うん。結構ヤバかったけどね」
渋い顔が、苦い顔に変わっていく。
あたしも、結構苦い顔してると、思う。あれは、かなりヤバかったからね。
「しかも、あれだけダメージを与えたのに、歩かせるなんて、ありえないだろう」
「あー、こっちのモニターもセンサーもほぼ死んでたから、その辺は分かんない」
「分析動画観てないのか?」
「途中までしか」
だって、パパが現れちゃったんで、それどころじゃなくなったし。
そーいえば、あれ、途中までしか観てないね。忘れてたわ。
「…まあ、立ち話もなんだから、座ってくれ」
入院患者用のベットの奥にある簡単な応接間に、ギルティはあごを向けて誘ってきた。いや、失礼とかじゃないよ。両手とも、あんまり動かせないみたいだし。
簡易なソファーにしては、ふかふか。でもちゃんと弾力もある。
エアタクシーのソファーほどじゃないけど、おもてなしには十分。
なによこれ。随分と気の利いたぜいたく品じゃないのさ。
「すまないが、セッティングは…」
「いえギルティさん、わたしがやりますよ」
方向違いな感想を向けている間に、大人二人が分析動画用のモニター操作を割り振っている。指示はギルティ、動かすのは父ちゃんね。
あたし?そんなことできるわけないでしょ?やらないし。
簡易コンソールでメニュー選択。
うわぁ、ずいぶん撮りタメしてるわね。しかも几帳面。
全部観てるの?
「入院中は暇だから、観返す時間はある。お前はほとんど観返したりしてなかったな」
「昔の話?まーそうかも。今は一応観てるよ」
ミドルスクール時代、TILTでドーリングしてた頃のあたしは、今より子供で、天才で、世の中がつまらなかったからね。そういう“終わった”もんは観なかったわ。
自分の事をきちんと観れるようになったのは、オーナーんとこに雇われてから、かしらん。まあ、負けじゃないけど、挫折って必要な事なのかもね。
「これですね?」
ようやくオーナーがあたしたちの試合画像を見つけて、再生を始めた。
「…この辺は観てるのよ。この大鎌のキャッチ、どーやったの?」
「“卑怯な手”に事前にプログラムしておいた。発動しないと動かないがな」
なーる。ってか、“卑怯な手”って、そんなこと出来るんだ、へえー
「いかにも卑怯だろ?その辺は大体出来る。この大会を通して大鎌の中に仕込んでおくのも、“卑怯な手”だからこそ、出来る」
すべては、あたしに勝つため。そんな前から事前準備してたのね。
あきれるほどの執念だわね。
で、ギルティが下がって、あたしが呼び掛けて、キラーボイス喰らって…
まさか、パパがここにも現れたりしないよね?
この動画、オフラインだよね大丈夫だよね?
「ギルティさん、ようやく、直接お会いできました。いくみぃがお世話に…」
ギルティがギョっとして画面に見入っている。
やっぱ、出るんだ。
きちんと背広姿のパパだ。
「ちょっとパパ、大事な話の途中なの。引っ込んでて」
「えー、またパパをのけものにするのかい?」
「画面の隅にいていいから、観終わるまで話しかけないで」
「はーい」
意外に素直に、右下隅に引っ込むパパ。聞き分けが良くてヨロシイ。
オーナーが気を聞かせたのか、一時停止してくれた。あたしに対してじゃなく、ギルティにね。
「これって…」
「そ。あたしが観ているモニターには、パパは現れることが出来るらしいの。ネットに繋がっていないとダメだけどね」
「前にギルティさんが強制回線接続してましたよね。あれを真似たら、なんか出来るようになりまして」
照れたように笑うパパ。引っ込んでてって言ったのに、もうアップになり始めてる。
「…うわぁ…」
ギルティ、かなり動揺している。何をどう言ったらいいのか、分からなくなってるみたい。
そーいえば、あたしがオーナーに雇われて、機体の方のグランザールに初めて搭乗り込んだ時に、泣きながら現れたパパに動揺させられたなぁ。
ホント、試合直前に出てくるのって、やめて欲しいよね。デビュー戦だったのにさぁ。ま、勝ったけどさぁ。
「ごめん、うちのパパ。元々、こういう人だから」
一応、謝っておく。これでも大切な身内なのよ。いい所で邪魔ばかりするけどね。
「いや、その、まあ…」
そんなに動揺しなくてもいいじゃない?
「確かに、これは、動画の続きどころじゃないな」
「いいのよ続けて。待たせとけばいいんだから」
「犬じゃないんだから…」
「似たようなもんよ?」
ツボに入ったらしく、腹を抱えてうずくまるギルティ。
ついでに肋骨の辺りにクリティカルが入ったようで、結構痛そう。
いや、笑わせるつもりじゃなかったんだけど。
父ちゃんから、病院で、入院患者相手に暴れるなって言われてるし。
「パパ、これオフライン動画じゃないの?」
「いや、大会本部からのクラウド配信だよ?」
あ、そーなの。あたしの勘違いか。オーナーんとこでもオンライン管理だったけど、病院ではそんな回線繋ぐほど手厚い待遇はされないと思ってた。
忘れてた。ここVIP待遇の入院室だった。
まだ笑っては痛がっているギルティを置いといて、あたしは動画の続きを促す。
ギルティ、あんた、実はそんな性格だったんだ…
異性への興味は、意外にそういう所からなモンなんですよ、と少女漫画で何となく勉強しました。
あ、もちろん、リアルでそんなもん通用しません。あくまでフィクション。フィクションですよー
だからいいじゃん小説って。書く方も読むほうも、ある意味やりたい放題なんだからさー