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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
fin.甘美爆弾っ!
69/75

61.そんな安い同情なんかいらないのに

 どんな天才でも、挫折みたいなもんはあるもので。

 周囲がどれだけ支えてあげられるか、みたいなこともテーマにしております。

 もちろん、甘めに、濃い目に、書いててこっちが恥ずかしくなる位に。

 泣きたくなる位に。

「で?」

 オーナーの家では、そりゃまあ、母ちゃんの手前もあるし。

 おとなしくしてますよおとなしくね。

 でも、理事長室でまで、可憐な娘を演じなくてもいいでしょ?

「君がいつ“可憐な娘”を演じたのかね?」

 心底、不思議そうなオーナー。

 あらぁ、いやだわぁ。パパの前ではいつだって“パパを愛する可憐な娘”を演じているのよ。

 オーナーは、まだ“パパ”じゃない。

 っていうか、無理なもんは無理。

 あたしに微分と積分の違いを分からせる位、無理。

 むしろ、微分って、何?

 積分は、もうホント無理。

 って位、無理だっての。

 ホント、苗字を変えさせられなくて良かった。アタシ、パパの子だもん。「近野郁美(こんのいくみ)」でこれからも通したいもん。「樫崎郁美(かしざきいくみ)」はしっくりこないわ。

 母ちゃんはとっとと改名したけどねー

 うん。ま、それはいいのよ。

 そ、結婚は別。別よ。愛する旦那様の苗字と一緒になるって、なんかもう、ロマンあふれるじゃない?なんかこう、尽くしてますって感じがウフフなラブラブなのよねー

 …ソコ、そんな日は絶対来ないとか言わない!聞こえてるんダゾ!

 と。

 そんな話がしたいわけじゃない。

 あたしが“可憐な娘”を演じるために、ん-、頼りたくないけど、大人の力っての?貫禄は、まあ、無いこともないか、な、オーナーが必要なのよね。

「オーナー、そういう意地悪言わないで。あんたにも関係ある話なんだからね」

「まあ、それは、そうだが。わたしと郁美君(いくみくん)の関係を、もっとはっきりさせておかないと、話すに話せないんじゃないのかね?」

 くそぉ。さすが大人だわ。小ずるいけど、正論なんだよね。


 あたし、あの試合(決勝戦)が終わってから、AK(アーマーナイト)搭乗()ってない。

 んにゃ、違う。“搭乗()れてない”。

 正直、パパが、怖い。画面(モニター)を見ると、あのパパ(ユーレイ)が現れそうで、けっこうコワイ(トラウマになってる)

 うそだあたし、絶対無敵なんでしょ、と思ってる。

 今でも思ってる。

 だから、こういうのは絶対に嫌。

 嫌だけど、一人ではどうにもできない。

 別に人に頼るのがイヤなわけじゃない。メカニック関係は(げん)さんに、マシンのサポートはグランザールに頼り切りだし。(ま、こっちはCPUだけどね)

 でも、そういうのは“自分がちゃんとしてる”のが前提で。

 そうできなくなった時、あたし、頼り方を知らないんだよね。


 で。この狸親父(ポンスケ)に頼らざるを得ないのかー

 だってコイツ、陰謀(コソコソ)主義のチビハゲデブ(ポンスケ)なのよ。頼るにしても、も少しなんとかなんないの?

 ん-なんない。他にいない。事情(ワケ)知ってるのって、ホント少ないし、たくさんいても困るし。

 その辺を見越してか、オーナー(たぬき)、さっきから目じりが下がってるんだよね。

「わたしが郁美君(いくみくん)の親なら、()の相談は真剣に受けるべきだと思うんだよ。でも、まだそうじゃないんだろう?」

 まーそーだけど。

 無理なもんは無理、だけど。

 くっそぅ、正論も正論。反撃の余地なしの正論かよぉー

 そんな仁義、別に要らないんだけどなー

 ん-しゃーないか。これは別に“絶対無敵”貫くこととは関係ないしね。

 でも、せめて、妥協させて?

「ん、わかった。でも、せめて“父ちゃん”にさせて?」

 ポンスケの目じり、じゃないや、目が丸く大きく広がった。

「も、もう一度、言ってみてくれ」

「…父ちゃん」

 そ、そ、そんなに感動に打ち震えなくてもいいじゃないのさ!

 あたしの顔が熱っつい。湯気が出てきそう。うわぁ、照れくさいなんてもんじゃないわ!メット被ってたら曇ってなんにも見えなさそう。

 あんもう、だから嫌なのよこういうの!ほんっと、甘美爆弾大破裂だわっ!


 気を取り直して、息を鎮めて、火照った顔を涼ませて。

 あたしは女優、あたしは女優…

 絶対無敵、絶対無敵…

 なんとか、自分ってものを取り戻して。

「いいよ、“父ちゃん”。映しても」

「そうかいそうかい」

 目じり下げっぱなしの狸親父が、理事長室の壁に掛けられているモニターの電源を入れる。

 こないだの決勝戦、あたしとギルティの分析(アナライズ)動画。ネット配信が、それなりに収益上がっているそうな。

 収益の一部はオーナーにも還元されてるんだってさ。やはりオーナーは儲かる商売なのかしらん。

 …そんなことはどうでもいいの。ネットに繋がってるってことは、パパが入って(ハッキングして)これるってことで。

 いや、あたしも自分の試合は観ときたい。たとえ負け試合でも。悔しくても。

 でも、今、それはどうでもいいかな。パパとの関係、何とかしたいのよ。これじゃあたし、前に進めないし。

 あたしのSweet Bombが、大剣を振り上げてギルティのデスサイズを斬り飛ばす。

 返す刀で振り下ろした大剣を、ギルティの“卑怯な手”が受け止めた、ように見える。

 ホント、卑怯な手だよねー。こっちがスタンしてるだけなのにね。

 んで、跳ね上げられて、くるくるとよく回るデスサイズの刃がついてる方が、ギルティの機体のもう片方の手の中にスポッと納まる。

 くそぉ、やっぱカッコイイな。

 下がったギルティが、何事かつぶやいて、あたしがそれに乗っかって時間稼ぎしようとしたら、キラーボイスの超音波攻撃を食らっちゃって…

「音量は自動で下げてはいるが…これはキツイな」

 オーナー(父ちゃん)、手元のリモコンでさらに音を下げてくれた。

 あー、確かに黒板を爪で引っ掻く嫌な音に交じって、変な音が聞こえるわ。ダイヤルアップとかのギーギーガーガー。そっか、気づいていれば、対策できたかもなー

 まあ、これ、呼び出し音でもあって、接続確認したら、別の音が鳴る仕組みらしいんだよね。

 そして、ちゃんと呼び出されたわね。

「…パパ。久しぶり」

「いくみぃ…」

 画面に現れたパパは、スーツを着込んでいた。

 パイロットスーツじゃなく、“背広”。

 旧時代から今に至るまで、倦まず廃れず色褪せずの、ビジネスマンの制服(お約束)

 不思議と、コワクなかった。意外にあっさり、あたし、パパを受け入れていた。

 今までの、あの恐怖感(トラウマ)は、何だったんだろうと思える位。

 制服(スーツ)だから?

「コブ、報告することがある」

 重々しく、父ちゃん(オーナー)が口を開いた。

「なんだい?」

「お前の奥さんと、再婚した」

「…」

郁美君(いくみくん)は、私の娘になった。これからは大切に育てていく」

「…」

「わたしは、大人としての責任を、果たしていくつもりだ。今までも、これからもだ」

「…」

 パパ、またフリーズ…は、してない。

 どこか、ほっとしたような顔さえ、している。

 まるで、本当は分かっていたみたい。

「コブ、だから、お前は、もうきちんと死んでもいいんだ。安心して死んでいいんだ」

 ん?なにそれ?パパは生きてるよ?勝手に殺さないでよ?!

「そんなことはどうでもいいんだ。郁美、なんであっしを殺したんだ?」

 うわぁ、オーナーの渾身の宣言を、無かったかのようにスルーして、あたしに話を振ってきちゃったよこの親父は。

「はぁ…」

 大げさにため息をついて。

 でもまあ、演じるまでもないか。

 後悔も反省も十分したけど、でもね、あたしもパパに言いたいことあるんだ。

「パパさぁ、もしもあの時、Sweet Bombにあたしが搭乗()っていることが分かってたら、闘っ(ドーリングし)てた?」

 パパが、軽く目を(みは)る。

「いやいやいや、ありえないだろそんなこと」

「だよね。あたしも同じ。もしパパが搭乗()ってると分かってたら、あんなことにはならなかったと思う」

「…だよ、なあ…」

 仕方がない、仕方がないが、あきらめられない。

 だよね。あたしも十分に心を痛めたよ。

 でもね。

「でも、あれだけの好敵手を相手に、命懸けで闘わないのは無理だよ。お互い、全力で闘わないと、あんな最高の試合(ベストバウド)は味わえなかったよ」

 だから、もし、パパが搭乗()っていたと知ってても。

 あたしは全力で闘ったんだろうな、とは思う、多分。

「結果はあたしの勝ちだったけど、パパ、強かったよ。本当に強かった。たまに夢で見る位に、強かったんだよ」

「いくみぃ…」

 なぜか、パパが泣いてる。ポロポロと涙を流している。

 どうせ動画なんだから、加工してるんでしょ、知ってるんだそんなの。

 知っているけど、パパが本心で泣いているのも、あたし、知ってる。

 と、頭を撫でられ、軽く抱えられる。

 ポンスケめぇ、そんな安い同情なんかいらないのに。

 とか思いつつ、あたしは、チビハゲデブ(父ちゃん)の胸の中で、思い切り、泣いた。

 郁美は制服大好きなので、その一種である背広は一種の精神安定剤みたいなもんですかね。

 社会的に認知されている、という辺りが大事なポイントのようで、故に自身も女子高生の制服に相当こだわっています。

 ついでに、夫婦別姓子供の名前どーすんの問題とか、作品に入れていいのかね、みたいなことも。

 だって宇多田ヒカルも歌ってるじゃん。

 でもまあ、ただの一意見、程度なら大丈夫でしょ?

 炎上しないよね?

 あ、そんなに人気や影響ある作品じゃない?

 そーですかそーですよね…

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