60.正真正銘のお嬢様と正直正面の番長様
最終章ですので、甘く甘くうんと甘く。
正に甘美爆弾っ!です。
その後も散々遊んで、みーよのお洋服選びに付き合って。
ボチボチ帰ろうか、ってところで。
「さすがに、あんだけ食べると、夕飯入んないかもね」
「そーお?」
なによ、その疑わしそうな顔。
なんてことをおしゃべりしながら、みーよと一緒に、エアタクシーに乗って高級住宅街に向かう。
さすが、理事長の娘だけあって、ぜいたくな交通手段使ってるわ。
あたしなんかママチャリが精一杯。こないだ、試合会場に向かう時に乗ったエアタクシーが、ホントお久しぶりね元気だった?な感じなのにね。
玄関ベタ付け。支払いは顔認証クレジット払い。なんか、すごいねぇ。
「お帰りなさいませ」
家政婦さんが、出迎えてくれる。名前は、まだ覚えてない。
ってか、家の中に家政婦がいるという事実を、あたしはまだ受け止めきれていない。
「郁ちゃん、例の店の山盛りパフェを制覇したんだよー」
「まあ、まあ、まー!」
おおげさ、ではなく自然な温かい笑顔で迎えてくれる家政婦さん。いい人なんだろなー
そんな家政婦さんは、エアタクシーからみーよのお買い物品を手際よくハンディカートに降ろしている。
手伝おうかと思ったけど、そんなスキが意外にない。
できるな、コヤツ。
暇でもないけど、手を持て余して、あたしはみーよといっしょにお屋敷に上がり込む。
お屋敷。そう、お屋敷。
みーよは正真正銘のお嬢様だけど。
あたしは正直正面の番長様だからなー
家柄、合わなくね?
「おかえり、美代子。郁美君も」
出たなチビデブハゲ。
「ただいまパパ」
「ただいまー」
「おや、パパと呼んでくれないのかい郁美君」
狸顔の親父の目じりが、なんか下がっている。
うぬう、気持ち悪いんだけどっ!
「ごめん、まだ慣れない。ずっと慣れないかも。一生無理だと思う」
「つれないなー郁美君。少しずつ、じっくり、一緒になっていこう」
無理無理無理絶対無理!
だれだこんな“卑怯上等超特上”なシナリオぶちかましたのはぁ!
あたしが試合の後、自宅で寝入っていた時、母ちゃんの声がした時。
やっぱり、無理にでも起きれば良かったんだよね。
いや無理か。脱出シートでパラシュートに揺られて。あんまり気持ちよくてというか、身体が負荷に耐えられなくて、そのまま寝ちゃったらしいんだよね。
その後、自宅に戻されて、寝かされて、てか、全然覚えてなくて。
連れてったのがオーナーで。
母ちゃんに寝てるあたしを引き渡したときに、全部バレちゃったらしくて。
で。
気が付いたら、あたし、オーナーの娘にされちゃったんだよね。
ん、つまり、オーナーと母ちゃんが、再婚したんだわ。
そう、再婚。
再婚。
再 婚。
はあっ?!ってなるでしょ?大人って卑怯でずるくて身勝手でしょ?
あたしの気持ちはどーなんのよあたしにも心があるって言ってるでしょうが!
って、言ってみたんだけど、母ちゃんが「郁美がイヤなら、この話はなかったことにしようね」とか言いだすんだもん。
なによ、あたしが決めていいって話なの??
いやちょっと待って母ちゃん、パパはまだ死んでない…
いや、もう死んでるのか社会的には。
オーナー、全部ばらしちゃったらしいけど、実はパパはコンピューターの中で生きてますよ、までは言ってないの?
なんて、言ってみたって。
あたしがアンドロイドの中にパパを埋め込めば大丈夫だと思ったって。
母ちゃんにも心があるしなぁ。
あたしのバカみたいな思いつきじゃ、やっぱダメだよねえ。
とか、なんとか。
あたし、考えちゃったんだよね。
あーあたしのお人好し。流されてんなーそーだよなー
ちなみに、母ちゃんにオーナーの何がどこがそんなに気に入ったの?って聞いたら「優しくて誠実な所」なのだそうだ。
うそだぁ、お金持ちだからでしょ?と茶化したら、舌を出して笑った。
ま、正直でよろしい。
で、オーナーはどういう風の吹き回しなのか、優しく尋ねたら。
前の奥さんとはでかい借金抱えたときに離縁されて、今はみーよと二人暮らしなのだそうで。
前々から、あたしや母ちゃんのことは気にしていたのだとかなんだとか。
また例の陰謀主義じゃないのかと頭をかすめたけど、それにしてはメリットが無さすぎる。あたしを雇うだけなら、母ちゃんと再婚なんてしなくていい。
あたしやオーナーの正体がばれるのと、再婚して仲間に引き入れようは、全く意味が違う。
ただ単に、再婚したい、だけか。
オーナーとパパと母ちゃんは、同学年同級生だったらしい。
大人の複雑な、でも単純な事情なのかしらん。
一介のジョシコーセーにはよくわかんない。
でも、ま、あたしが我慢というか、成り行き任せにすれば、一応収まる話ではありそうね。
喰らうが良い、親友の親と自分の親の再婚爆弾!
少女漫画だと、同学年の男の子との同居しちゃったドウシヨオなんでしょうが、そんなもんは書けません。
というわけで、大人はずるく汚い生き物なのです。
ついでに現実主義なクセに妙にロマンチスト。
郁美君。君の言う「ジョシコーセー」なんて、わしらの時代からすれば、マダマダ甘いねぇ。
わしがどれほど苦汁を飲んであの恋をあきらめて親友に譲ったと思っているのかね、ああん?