57.あんたもホント、しつこいわねっ!
勝ちに対する執念。ううん、しぶとい!
お互い、しぶとい、しぶとすぎますね。
「姫様、脱出装置が作動します」
「うぬ??」
んなもん、使ってない…
ことも、ない。あたし、たしかに、どーでもよくなって、脱出装置を作動させたわ。
動かなかったけど。
あ、機体の行動不能が回復したから、脱出装置作動停止状態も解除したってわけぇ?
んなアホな!
「グランザール、キャンセルできないの?」
「やっていますが、遅延させるのが限界、です」
悔しそうなグランザールの顔。イケメンの苦悩する顔を見るのは、心の癒しだけど。
もーちょいなんだけどなー
ま、勝ちたいよね、ギルティだって。
それは、あたしも同じだけどね。
「グランザール!」
「はっ!」
手際よく回された、座席裏からのキーボード。オートで薙ぎ払いの強制プログラムを入力。
もう、Sweet Bombは壊れてもいい。パイロット強制脱出後は、試合決着と見なされるから、完全破壊にはならない。壊れたモノは、形さえ残っていれば、直せばいい。直すのはあたしじゃないしね。
ドライブギアを、遠慮なく下に倒す。同時に左右のパワーペダルも全開で踏み込む。
ギルティの機体に向かって、ヘッドダイビングさせる。
もう、二度と起き上がれなくなるけど、別にそれでいい。
だって、この機体の脱出装置は“コアファイター”。機体の上半分を射出して、胴体部分のコアファイターが飛び出す仕組みだから。
んで、“薙ぎ払い”の範囲攻撃をオマケでつけといたわよ。
堪能しなさい、ギルティ!
強い振動と共に、Sweet Bombの上半分が射出され、グレートソードを振り回しながらギルティの機体に襲い掛かる。
同時に、今まで機体のオールスクリーンに覆われていたコアファイターのキャノピーがむき出しになり、視界が元に戻った。
這いまわるだけのヤツの機体に、かわせるだけの力はないはず。
決まりね。さよならギルティ。あんた、ホントに手強かったわ。
勝利を確信した瞬間。
ギルティの肩に装備されていたマントが大きく広げられ、ヤツの機体を覆い隠した。
はっ、無駄よ。グレートソードの範囲攻撃を防ぎきれるわけないわ!
でも。
マント越しに、残ったコールドクローで、Sweet Bombの上半身を攻撃?
マントが一気に凍り付き、少しだけ、装甲っぽくなった。
そ、そんなこと、出来るの??
で、でも、そんな薄っぺらい氷の膜なんて意味ないんじゃ…
違った。
やたら振り回した大剣が、氷の膜に覆われたヤツの機体には当たったんだけど、滑って致命傷にならなかった。
そのままSweet Bombはヤツの機体を通り過ぎて、地面に突き刺さった。
「姫様、脱出します」
「う、うん」
ギルティ、そんなこと、できたんだ。
まるで、あたしみたいじゃないのさ。
素直に感心しつつ、コアファイターの射出Gに身を任せる。
ほっとしようと、目をつぶろうと思ったその時。
「姫様、ホークマスターが接近っ!攻撃されます!」
「な、なにぃ!」
この期に及んで、まだヤルの?!
あんたもホント、しつこいわねっ!
あたしの中に、電源が入った。予備の予備、最後のとっておきだけど。
今搭乗っているのは、コアファイター。
操縦系はSweet Bombと同じだけど、操作はまるで違う。
でも大丈夫、あたし、天才だから!
コアファイターは脱出装置だけど、同時に攻撃機でもある。
でも、大した武装は積んでいない。というより、この機体には、無い。
でも、誰が操縦してると思ってんのよ!
ドライブギアを目いっぱい傾けて、右パワーペダルを全開。
ホークマスターの体当たりを、ロールしてかわす。
もう目の前に、高粒子バリアーの壁が迫る。
機体を急旋回、というより、前後に廻して方向転換。
おー、機体のジェットで高粒子バリアーが雲みたいに乱れてるわ。
「グランザール、コクピット射出準備。ISID!」
「ROGER!」
CPUグランザールの本体は、Sweet Bomb本体の、上半分か下半分か、どっちかにある。脱出装置を使った時点で、切り離されちゃうはずなんだけど、コイツ、律儀なんでついてきてくれたんだね。
「ARGT…」
コンピューターにお礼なんて、意味ないんだけど。でもいいじゃない、こういうのは気分なのよ。
「ご武運を…」
CPUグランザールが、少しだけ微笑んだ気がした。そして、そのままモニターから消えた。
サブモニターからイケメンが消えて、もうあたしひとり。
ちがう。あんたがいるわね。
ギルティ、最後のホークマスターは、さすがにやりすぎよ。
あたしはコアファイターを、そのまま地面にうずくまっているギルティの機体に特攻させた。
ふと、どうせ特攻するなら、Sweet Bombの肩武装“ファイヤーバードアタック”使えば良かったかな、とか思った。でも、まあいいか。あれ、使ったことないしね。
「きーさーまー!」
最後の最後で、ギルティが叫んでいる。
マントはボロボロ、ホークマスターはあたしの後ろ。
操縦者はあたし。もう、かわすすべは、ないわね。
ただ、この期に及んで、コアファイター自体の脱出装置が故障とか、やめてよね。
大丈夫、CPUグランザールがきちんと仕事をしてくれている。
なので、さすがにそれはなく、あたしは無事に機体から真上に射出された。
強烈なGで、頭から血の気が引いて行ったけど、ギルティの機体の最後は、見届けることが出来た。
胴体に完全命中。ついでに、後を追ってきたホークマスターも、自爆攻撃のように、同じ場所に突っ込んでいった。
パラシュートが開き、爆風であおられながら、あたしは気を失いたいのを、懸命に堪えていた。
やりすぎはダメです。いいことありません。
でも、やっちゃうんです。仕方ないんです。