55.DAIGO
さすがに、絶体絶命、のはず。
でも、諦めずに考え続けるなら、もしかして、何か、ひらめくかもしれない。
生命の危険にさらされたときに走馬灯のように記憶が呼び起こされるのは、脳が諦めずに生き延びようとして記憶を総攫えしているからなのかもしれません。
他にできる事、出来る事…
考えろ、考えろ、あたし。
いったん状況を整理。
Sweet Bombが行動不能なのは、明らかにパパの影響。
このままだと、ギルティに装甲を全部剥がされて、手足をもがれたダルマにされちゃう。
CPUグランザールは健在。
あたしは、色々と、ちょっとアヤシイ。でもガンバル。だってあたし、“絶対無敵”だし。
でも、でも、絶対無敵じゃないかもしんない。
こういうときに頼れるのが、パパだったらいいんだけど。
こういうときに限って、パパは邪魔しかしない。
あたし、パパのために、頑張ってるのになぁ。
…じゃあ、パパは何のために頑張ってるの?
ねえ、パパ…確かにパパの身体をこんな風にしたのは、あたしだけどさ。
でも、パパだって…
あれ?
あたし、なんか大事な事、忘れてる。
すごく、スゴク大事な事。
パパがいなければ、なんとかなる。
だから、パパがいなければいい。
なんだろう、それ、もう、答えが見えてる。
あー、ん-、もどかしい…動け、あたしの頭!
「グランザール!」
「はっ!」
CPUに聞いてもどうにもなんないと分かってるけど。
せめて、ヒントだけでもなんとかなんない?
「あんたがハッキングされているとして、どうしたら解除できると思う?」
「原因を解析し、ワクチンプログラムの接種を行います」
ん-、ちがう。
「原因不明の場合は?」
そう、パパみたいな時。
「電源を落として、再起動を行います」
電源…Sweet Bombって、試合中に電源落とせるんだっけ?
「試合中は、不可能です」
だよね。でも、考え方は合ってる気がする。
パパの電源…機体の方のグランザールの電源を落とせば?
なんて、最初から入って無いはず。格納庫でお休みしてるものね。
パパの電源…パパの電源って…
あ!
パパの電源って、あたし自身か!
そういえば、会場に着く前に乗っていたエアタクシーで、しきりに分析動画に割り込んできた時、パパが言ってた。あたしが観ている画面にしか“現れることが”できないって…
ああん、もう、あたしのバカ!
おっし反省終わり!
「グランザール!モニター全部消して!」
「な、なにを…?」
あぁんもう、あんたは言われたことを忠実にやってくれればいいの!
あ、そうか、お父様にメインモニター権限を乗っ取られたとかなんとか言ってたわね。
でも、そこをなんとかするのがあんたのお仕事でしょ?
権限取られたなら、もっと上の権限使えばいいのよ。
コンピューターが理解できない理屈でバグるなら、理解できる理屈を与えればいいじゃない。
しょうじょうじのたぬきは分からなくても、あんたが分かる言葉で命令すればいいんでしょ?
「ISID!」
とっさに口に出た。出ちゃった。
ん、なんだっけこの言葉って?だいご?ダイゴ?DAIGO??
転生する前の言語が口をついて出てきた、なんてことはどーやってもありえないので、どっかでなんかで聞いたんだよね。CPUに有効なんだろうと思う、多分。
著作権も大丈夫だと思う。ないでしょこんなもんに。
「ROGER!」
あら、ホントに効いてるわ。
CPUのあのためらいは何だったんだろう?みたいに、一気にコクピットの照明が落ちた。
ウザイうめき声のパパごと、きれいさっぱり、消えた。
同時に、ようやく、やっとのことで、ドライブギアが動いてくれた!
お帰りなさい!長かった、ホントに長かったわ‼
「グランザール!白黒のドット絵でいいから外の様子をモニタリング。分析してメイン画面に投射して。DKR?」
「ROGER!」
これもダメもとで命じてみたら、ちゃんと反応して、すぐに白黒テレビ(これもどこかで観たことあるなあ。あたしもしかしてホントに転生者?)がメインモニターに映し出される。
ドンピシャのタイミングで、鎌を振り上げるギルティの姿が!
右のトリガー起動、ドライブギアごと右に回しながら、左パワーペダル全開。
左トリガーを0.5秒ずらして起動。
両手剣だけど、左右の手の機動を少しだけずらして“しなり”を加える。鞭みたいなイメージ。
「フハハハ、その脚ごと切断…」
気づいてないわね。
達人の切れ味のごとく、ノーモーションの逆袈裟懸けで、右下から左上に、グレートソードを斬り上げる!
手ごたえあり。白黒画像なもんで、はっきりとはわかんないんだけど、ギルティの右手の鎌が、手首ごと跳ね上げられている。
返す刀で、大剣の重量ごと上から真下に、特に狙いを定めずに叩き下ろす!
これも手ごたえあり。多分、右脚部にもろに当たっている。
「なぜだ、なぜ動けるんだぁ!」
ギルティの泡でも食ったような、慌てた声。
初めて聞いたかも。あんたでも焦ることあるんだ。
ま、形勢逆転。よくもやってくれたわね。ぼっこぼこにしちゃる!
「ギールーティーイー、絶対許さないからねっ!」
相手に合わせてマイクオールレンジオン。しょうもない試合ばかりみせられてた観客ちゃんたち、待たせたわね。ド派手に誘爆させてあげるから、よーく見ときなさい!
形勢逆転!
までは、まだまだかもね。
ちょっとヤラれ過ぎてますからねぇ…
~ ・ ~
DAI語、分かる人います?
こういうのって「時代を共有」していることの確認作業だと思うのですよ。
そういう場を「小説」は提供する役割を果たしているのではないかと思う次第です。
…だからと言って、こんなネタを作中に出すか?この変態め!