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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
7.卑怯上等っ!
62/75

54.んもぉ、効いてるわよソレ!

 あれ程、無敵な強さを誇っていたSweet Bombが、アズラエルが、今、目の前で完全に硬直している。

 いや、ピクピクと動いている。まさか、いきなり動いたりはしない、よね?

 ええい、こんなチャンスを逃してたまるか。このためのどれだけの資産と時間とたゆまぬ努力と研鑽を重ねてきたと思っているンだ。

 長年の、積もり積もった怨念、今こそ晴らしてくれるわぁ!

「長年の恨み、積もり積もった憎しみ、今、ここで果たしてくれるわっ!」

 高らかな、ホントに高らかな、ギルティの宣言。

 ホント、顔と声はいいのよね。

 中身とヤッてることは、もうマジ最悪だけどね。

 あーこりゃ、ヤツの対戦相手だった人たち、たまらないわなぁ。

「いくみぃ、いくみぃ、なんであっしを殺したんだぁ…」

 ギルティの宣言にかぶせるように、パパユーレイが画面いっぱいにアップで迫ってくる!うわぁ気持ち悪いっ!

「グランザール!」

「制御不能!制御不能!」

 んもぉ、肝心な時に役に立たないんだからぁ!

 しゃーない、自分でなんとか…

 気持ちを切り替えようとしたそのタイミングで。

 ギルティの機体が、折れたデスサイズの鎌の部分で斬りかかってきた!

「恨み晴らさずにおくべきかぁ!」

「いくみぃ、なんであっしを殺したんだぁ!」

 機体に衝撃!右腕を斬られたわ。盾回避効果って、短くなったデスサイズでも有効なの??

 ついでにパパに、あたしの心を削りに来させてるわけね。

 んもぉ、効いてるわよソレ!

「姫様っ!盾回避に失敗しました。右腕装甲に20Ptのダメージっ、残装甲5P、エンジン出力10%、攻撃、防御出力5%減少、センサー能力1/2ダウンっ!」

 さすがSweet Bomb、ヘビー級だけあって、本体の装甲も随分と分厚い。

 でも、盾が使えないのはマズイ。っていうか、これじゃ削られ続けて姿焼きにされちゃうわ。

「攻撃を受けたから、行動不能(スタン)は解けないの?」

「原因不明、調査中。わたしの権限化では行動不能(スタン)は解除されています」

 やっぱり物理攻撃でスタン解除じゃないのさ。でも、まだ動けない。

 ぐぇえ、グランザールのせいじゃ無いなら、こりゃ間違いなく、原因はパパだぁ!

 ギルティ、そこまでしてあたしを完全行動不能(打つ手なし)に追い込んでるのね!

「いくみぃ、なんであっしを殺したんだぁ…」

 ホント、よくできてるわ、この卑怯な手(ハッキング)

「パパ、邪魔するなら帰って!」

「いくみぃ…」

 反応なし。あーもう、ただのコンピューター(CPU)ならやりようもないことは無いのに。

 パパ、これでも人間だからなぁ。

「モウ、パパなんて大っ嫌いっ!出てってっ!!」

 反抗期な娘を演じてみたけど。

「なんであっしを殺したんだぁ…」

 それしか言えんのか!ってか、反応なし。

「フハハハ!苦しめ、苦しめ!今まで俺が受けた屈辱と苦しみを存分に思い知るがいい!」

 再び、ギルティの攻撃!

 今度は左脚部!

「姫様っ!盾回避に失敗しました。左脚部に10Ptのダメージっ、残装甲10P、エンジン出力20%、攻撃、防御出力15%減少、センサー能力完全にダウンっ!」

 マズイマズーイ!

 一方的に連続で攻撃されると、各出力、センサーが加速度的にダメになっていく。回復もどんどん遅くなるのよ!

 ギルティ、あんたの恨みつらみなんて知ったことじゃなかったけど、くそぉ、認めてあげるわ、ヤルじゃないのさ!

「グランザール!」

「はっ!」

 言わなくても、コイツは分かってくれる。

 こういう時のために、頼れるのがキーボードちゃん。

 パイロットスーツから情報収集して、あたしの精神状態や生体反応を見極めて、最適な仕方でフォローしてくれるのも地味にうれしい。

 前の試合で酷使した左側じゃなくって、右側にキーボードを回してくれた。

 あーも、またこれやんのぉ…

 萎えそうになる気持ちを奮い立たせて、ユーレイ姿のパパに改めて向かい合う。

 声はもう、届かない。

 でもねぇ、旧時代よりはるか以前の音声接続(ダイヤルアップ)モデムでやってた事と言えば。

“掲示板”なんだ、よね?

 ん-なんだっけ、3分10円とか、なんか思い出したような、気づかないで使っていると請求額が月数万円になったとか、なんかのドラマでやってたような、なかったような。

 今回はCPUグランザールがフォローしてくれるはず。当てにしていいんだよね?

 声は届かなくても。

 気持ちは、きっと届く、はず。

“パパ 大好きな ぱぱ”

 ん、変換が、指が、拒否しそうになるぅ!

 吐きそうな気持ちを必死で堪える。あたし、女優(演じる人)はできるけど、こんなの書けな(物書きじゃな)い!

 二流変態作家にでも書かせればいいじゃないのさぁこんなもん!

“ぱぱ めをさまして おねがい”

 あ、まずい、指がもう痙攣を起こしてる。準決勝でコンピューター(強制プログラム)を嵌めるために激動した左手よりも、はるかにダメージが大きすぎるわ!

「姫様、パイロットスーツの空調を最大にしていますが、間に合いません」

 うん、知ってる。もうなんか息が苦しい。全身汗びっしょり。着替えてシャワー浴びたい。いっそ吐きたい。スゴク気持ち悪い。

 無理、これ、長く、持たないわ。

「…グランザール、反応は、どう?」

 バイザーの中が曇って、あんまりよく見えない。

「お父様の反応、ありません」

 んーだよねぇ、こんなので動い(反応し)てくれるなら、苦労しなくていいもんね。

 ん-どうしよ。諦めて脱出し(逃げ)ようか。ちょっと無理かも。

 あたし、“絶対無敵”だと思ってたけど、そうでもなかったかーくそー

 あん、曇って、バイザー邪魔。

 息が苦しい。

 スイッチを探って(簡単にはあかないようにできてんのよ、これ)、バイザーを外すと。

 相変わらずのユーレイなパパが、うつろな顔でこっちを睨んでいる。

「なによ、なにみてんのよ。馬鹿…」

 もう、どーでもいいわ。負けよ負け。

 とりあえず、パパは機体の方のグランザールに宿ってるんだから、この機体(Sweet Bomb)が全損しても問題ない。

 CPUグランザールは、Sweet Bombの胴体部分が完全に破壊されなければ、これも問題ない。

 あとは、あたしが脱出装置を使えさえすれば、それでいい。

 Sweet Bombの脱出装置は、それなりに高価な“コアファイター”。機体の上部を射出して…

 ん?

 動かない?

「グランザール!」

「姫様、脱出装置が作動しません。原因不明の行動不能の影響を受けています」

 はぁ?なにそれ?

 そこまで、あたし恨みを買われているってわけ?

「いくみぃ、なんであっしを殺したんだぁ…」

「フハハハ、死ねぇ!」

 パパとギルティの同時攻撃!

 完全行動不能で連続攻撃を受け続けているSweet Bomb。さすがにこれは、持たない。

「姫様っ!盾回避に失敗しました。右脚部に20Ptのダメージっ、残装甲0P、エンジン出力50%、攻撃、防御出力40%減少、センサー能力完全にダウンっ!」

 今度は右脚部。装甲が完全にはがされた。後の攻撃は本体直撃、誘爆の危険もある。

 反撃ったって、そもそも動かないし、連続攻撃の余波で、出力もセンサーも使い物にならない。

 こんなスゴイ機体なんだし、完全破損は避けたい。

 負けを認めて降伏したいんだけど、ヘッドデスマッチだからそれもできない。

 頭か胴体の完全破損で試合決着。

 そしてギルティ・ランスはそういうことをしない。いたぶりにいたぶってから、とどめを刺すタイプ。

 ヤツの性格はよく知ってる。手足を完全にもいで、ダルマにするつもりだわ。

 ああ、もう、ムカつく!

「グランザール、隠しファイルは見つかった?」

「申し訳ありません。見つけられませんでした」

 準決勝で、オートで“後の先”の剣技を発動したあのプログラム。アホだけど強力だったあれも、ダメか…

 うわぁ、本格的に打つ手がないわ。


 三連続攻撃成功。ほぼ完全機能停止確定。

 がんじがらめにして、身動きが取れないようにして、確実にダメージを重ねて、反撃能力を完全に奪って、絶対的で絶望的な力の差を見せつける。

 これぞ騎士道。卑怯でもなんでも、確実鉄壁な勝ち方こそ、王道を歩むということだよ。分かったカネ?


               ~ ・ ~


 固定電話とか請求が月数万円とか掲示板とか変態二流作家とか、なんかもう、やりたい放題に書いてますね。当時は、そういう雰囲気、そういう時代だったのです。

 作者のせいではありません。郁美が混乱しているだけです。そういうことなんです。 


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