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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
7.卑怯上等っ!
61/75

53.これまで、長かった…

 これまで長かった…

 本当に、長かった、なぁ…

 と、思ったんだけど。

「これまで、長かった…」

 ギルティ本人の声。

 あ、挑発に乗ってくれるの?時間稼ぎに付き合ってくれるの?

 うわぁ、甘ちゃんだわね。正直、ダメもとだったんで、ラッキーだわ。

「長いというほど、あんたとは闘っていないでしょ?」

 ちょっと的外れな話題を振ってみる。なんでもいいのよ、時間さえ稼げれば。

「長い長い道のりだった…」

 ちょっとー無視はやめてよね。自分の世界に入っちゃう口なの?

「だーかーらーそんなに長い付き合いじゃ…」

 もうちょい挑発してみようと、オールレンジマイクで話しかけてたら。

 ギルティの肩装備、キラーボイスが突然、唸りだした。

 肩のスピーカーが震え、殺人的な音響が鳴り響く。

 旧時代の、実体黒板(かたまり)を爪で引っ掻いたような、いやーな音が響き渡る。

 何分、「音」だから、至近距離だと回避は絶対に無理。

 マズイマズイ、ギルティの反応を聞き漏らさないようにスピーカーの感度を高く設定してたから、モロに食らっちゃったわ。

 一時的に耳が聞こえなくなるのは我慢するしかない。

 パパが画面越しになにか言ってるけど聞こえるわけもない。

 いいのよ大丈夫。あたしのパイロットレベルなら、そんなに長く痺れたりしない。

 効かなかったわけじゃないけど、その程度でいいならこっちにも勝機が回ってくるってもんよ。

「グランザール、今の攻撃で機体は動かせそう?」

 ドライブギアに反応は、まだない。

 でも、CPUグランザールは対応してくれるはず。

 画面の奥でイケメン(CPUグランザール)が何か言っているけど、まだ聞こえない。

 唇の動きを読むと、機体の再起動に影響が出ている、だって。

 え?超音波ダメージの影響って、あたし(パイロット)だけなんじゃないの?

 CPUにも影響あったっけなー?

 まあいいや。それならそれで、もっと時間稼ぎすればいいんでしょ?

 あーもー早く回復して、あたし!

 ま、攻撃のショックで動きだせる、というわけではなかったらしいけど、でも、物理攻撃じゃない、パイロットへの精神攻撃の部類なので、これはもうちょい辛抱しないとダメそうね。

「パパ、ハッキングの調子はどう?」

 聞こえない耳のまま、パパのモニターを見ると。

「カリカリ、カリ、カリカリィィィ」

 と、パパの唇が動いている、気がする。

 もしかして、コンピューターと同化してはいるけど、パパにも超音波ダメージってあったりするの?

 なんか、顔が半分凍り付いているよな感じ。顔の半分だけが動かなくなるのって、脳梗塞のサインだったっけ?

 でも、唇は動いている。

 ついでに、あたしの耳も回復してきた。

「カリ、カリカリ、カリ、ピー、ガシャガシャ…」

 目がうつろなパパ。顔半分が動かないパパ。無表情なパパ。

 あれ、これって、もしかしてハッキングされてる?

 うそ、なんで?

「ちょっとパパ、しっかりして!グランザール、アンチハッキング、大至急!」

「インターネットセイフティシステム、通常で作動中。ネット回線による攻撃は感知されませんでした」

 じゃあ、このパパの状態は何なの??

 どうみても、何かに攻撃されてるようにしか思えない。

 ネットじゃないなら…音?

 音!!

 あーなんか聞いたことがある。昔々の大昔、コンピューターにデータを読み込ませる装置として、テープに吹きこんだ音を聞かせてたんだとかなんだとか。

 ん-なんだっけ、固定電話(って、何?)をダイヤルアップ(何?)して、受話器をモデムに直接繋げる(はあ?)とかやってたんだっけ。

 ホント、なにそれ、よね?

 んじゃ、あたしへの超音波攻撃に紛れさせて、パパにも音声データを“吹きこんでた”ってわけ?!

 ん?パパの反応が、止まった。

 モニター越しに、あたしを見つめる、パパ。

「いくみぃ。なんであっしを殺したんだぁ…」

 は?

 いま?

 ここで?

 この大ピンチの時に?

 それ、今言うの??

 いつの間にか、白装束に着替えたパパ。ご丁寧に、頭に白い三角マークを付けたハチマキまでしている。

 どっかで観たなぁ、昔のドラマだったかなぁ、えっと、“ユーレイ”だったかしら。

 周囲に2,3個、青い色の、拳位の大きさのファイヤーボールがふらふらと漂っている。ん-これ、なんだっけ?

 背景には、なぜかヤナギ。風で長い葉っぱがそよいでいる。

 空は曇った闇夜。でもなぜか薄暗さを感じさせるのは、ああなるほど、ファイヤーボールが照明替わりなのね?

 えと、ユーレイは、死んだ後に“化けて出てくる”んだったっけ。

 でも。でもでも。

 パパさぁ、まだ“死んでない”じゃないのさぁ!

「姫様、お父様にメインモニター権限を乗っ取られました。制御不能、制御不能です」

 ギルティの機体や、観客席や、高密度粒子で保護された闘技場のシルキーベージュの空を映していた全天候型メインマルチモニターいっぱいに、パパのユーレイ姿が映し出される。

 半分透明な姿なので、後ろの風景が透けて見える。(やたら凝ってるわね)

 嫌がらせとしては、最高(最悪)のタイミング。

 あたしの思考(考え)を読み切って、耳を澄ませて聞いてくるそのタイミングで“聞かせた”音によるハッキング。あたしとパパの同時に別の音を聞かせることで、防ぎきれないようにもしている。

 今一番触れたくないことを、このタイミングで聴かせてパパを狂わせる、そのえげつないやり口。

 ホント、ホントォオオに、“卑怯な手”だわぁ!!


 罠だと見破られた、と思わせておいて、さらに別の罠を仕掛けておく。

 こっちが本命。このための伏線としての罠。

 完全に身動きが取れないようにがんじがらめにしてから、オイシク頂く蜘蛛のように。


 ただ単になんでも速ければ良いというものではないのだよ、郁美君。


               ~ ・ ~


 当時、固定電話の受話器を外してモデムに乗せて、「音」で相手コンピューターに「接続」していた時代があったんです。今の若い人は、知らないですよね?

 いや、だって、マッチメーカーはそういう時代のゲームで、そうやってデータを送って「公式戦」してましたので…

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