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Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
7.卑怯上等っ!
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52.卑怯な手

 最悪の展開でも。

 闘志を奮い立たせ、冷静に状況を分析し、出来ることをコツコツと行う。

 状況は不利。かなり不利。

 でも、まだ負けたわけじゃない。

 負けを認めない限りは、負けじゃない。

 “卑怯な手”

 れっきとした正式武装。

 片手装備で、効果は文字通りなんでもありの“卑怯な手”を使える事。

 相手パイロットの身内への脅しや攻撃とか、相手パイロットの黒歴史やプライベートを暴いて恥ずかしい思いをさせたりとか、金や地位で脅して言うことを効かせるとか、とにかく、ドーリングでの直接攻撃ではない、文字通りの“卑怯な手”が使い放題という、冗談じゃない武装なの。

 以前、割と、ギルティ・ランスは好んで使ってた気がする、けど。

 試合前申請でバレちゃうから、なるべく相手より申請を遅らせて、みたいなことをしていた気がするけど。

 そんな涙ぐましい努力も、大会側で禁止武装禁止とか(禁止が2回、何が何を禁止?)、相手チームのチートで使用を見抜かれて対策されちゃうとか、普通に使うだろうと読まれちゃうとか、そんなこんなで、使うのをやめてた、はずよ?

 そもそも、大抵の公式戦では禁止武装は使用禁止(あー、こう言えばいいのか)なんだけど、今回の大会はどーだったかは、正直チェックしてなかった。

 お隣のコロニーとの小惑星採掘権を掛けた公式試合に、そもそも“卑怯な手”なんて使えないでしょ?選抜メンバー選びの試合にそんなもの認めるだなんて、思えないじゃないのさぁ!

 ほらぁ、観客たちが激怒している!

 金返せとか、卑怯だぞとか、くたばれとか、郁美ちゃん大好きだとか…は言ってないか。

 はあ、ホント現実逃避(逃げ出)したい。

 まあ、そーいうわけにはいかないか。


 やれることをやる。

 あたしは絶対無敵。

 卑怯な手なんか力づくでかみ砕いてやる。

 卑怯上等、かかってきなさいっ!


 で、出来ることと出来ないことを整理、分析する。

 出来ないこと。

 機体を動かせない。

 出来る事。

 グランザールとパパの行動。

 あたし自身。

 …よし。

「グランザール、機体の行動不能(スタン)回復(リカバリー)できそう?」

「原因不明。新たなシステムを再構築中。1分20秒後に再起動します」

「上出来よ。そっちを最優先させた上で、頼みたいことがあるの」

 CPUグランザールはさすがに優秀。どっかのおバカなパパとは出来が違うわね。

 とはいえ…1分20秒か。

 時間稼ぎ、どこまでできるかしらん。

「はっ、姫様、なんなりと」

前の試合(準決勝)で、あたし、この機体と闘ったの」

「わたくしと、ですか??」

 とまどうCPUグランザール。やっぱり、覚えてないのね、そうよね。

「別に責めてるわけじゃないの。あなたの中に、隠し強制プログラムが仕込まれてるんじゃないかと思うの。予備メモリを使っていいから、探してほしい」

「…承知致しました。隠れファイルの検索を実行します」

「お願いね」

 ダメもとだけど、これも“出来る事”。見つかれば、あたしの操作なしで、とりあえずオートで“動かせる”んじゃないかとは思う。

「パパ」

「なんだい」

 さっきまでの悲壮な顔から一転、期待に震えてワクワクした顔のパパ。

 ホント、喜怒哀楽が激しいわね。

「ギルティの機体のCPUに、ハッキングを仕掛けられる?卑怯な手には卑怯な手よ!」

 そっちがその気なら、こっちもパパという卑怯な手でもなんでも使ってあげるわ。卑怯上等よっ!

「分かった。やってみるよ」

「向こうも同じく行動不能に(スタン)できれば上出来、よろしくね。あたしは時間稼ぎするわ」

 マイクのインカムをオールに切り替え。ギルティにも観客にも聞こえるモードにする。これも“出来る事”ね。

 息を吸い込み、ボリュームを上げる。

 凛とした声を意識。かなり困っているけど、決してくじけないぞ、という意思を込めて、悲劇のヒロインっぽく、観客を味方にするような感じで。

「この、卑怯者め!恥を知れ!」

 卑怯や恥は、ギルティの大好物。

 彼にとって騎士道と卑怯は相反していないらしい。

 でも、そこを突かれると、自分は間違っていないとムキになって否定してくる。

 そんなお子ちゃまな彼のプライドを、刺激してあげる。

 どう?乗ってこない?だめ?

 お願い!乗ってきて!時間稼ぎさせて!

 ギルティの機体、death cowardが、ゆっくりとあたしを見つめる、ように見える。

 あたしの大剣(グレートソード)を受けとめている、ように見える“卑怯な手”と書かれた棒っきれを、ゆっくりと下に降ろした。

 あたしの機体は、大剣を振り降ろそうとしたそのままの形で凍り付いて(フリーズして)いるから、つっかえが外されたような恰好なんだけど、実際の所は受け止めてなんかいないのだと、はっきり観客にも分かる。

 そのままギルティの機体は後ろに、2歩、3歩と下がった。

 フリーズしたままのあたしの機体に攻撃してこないのは、多分だけど、当てた段階でフリーズが解けるから。

 だから、あたしだったら、さっさと“致命傷(トドメ)”を刺しちゃう。止まっている相手に、だもの、それが一番早い(最速)でしょ?

 でも、ギルティの性格は、完全に完璧に動きを封じてから、存分にいたぶるというやり口。

 なので。

 なんかしてくる。

 それならそれで。やるならちゃんと当ててよね。それで“動ける”ようになりさえすればこっちのもんだし。

 もしもほっとかれ(放置され)ても、CPUグランザールの再起動が間に合うわ。

 そんな甘い相手じゃない、のは知ってる。

 罠に完全に嵌められた、のも分かる。

 でも、思ったよりひどくは、ない。

 もしかして、イケルかも?

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