6.やっぱりコンピューターはバカよね
重量級機体の良いところは、積載量の大きさです。
半面、機動力が低下するので、どのように設計するかが腕の見せ所でしょう。
ゴングの音が高らかに鳴り響くと同時に、あたしは一気に加速して、正面から相手に突っ込んでいった。
とにかく、距離を詰めないとどうにもならない。
ドラゴンクローもフラッシャーも必殺のトリニティビットも、全て超接近戦でしか使えない。
と、相手の機体の腰の辺りがまぶしく光りだした。
「うっそ、メガドライブまで積んでるの?!」
融合炉エンジンをオーバーブーストさせる事で、一時的に機体の反応速度を大幅に上昇させる機構で、かなりの重量があるから、大型エンジンじゃないと意味のない増幅装置なのよね。
軽量故の身軽さ反応速度の速さだけが唯一の優位な点であり、先制攻撃のドラゴンクローで相手をからめ捕ってしまうのがあたしの必勝パターンだったんだけど。
「いくみぃ!行っちゃうよ、相手が、逃げちゃうよぉ!」
パパの悲痛な叫び。
んなこと言ったってしょーがないじゃない。
あっちだって、わざわざあたしに負けるために試合してるわけじゃないんだし。
「判ってるって!いいから操縦系こっちに回して、早く!」
攻撃系のオプショントリガーをドライブギアに押しこんで、ロックを外す。
ガシッとくる手応え。
グランザール様の機体が、その手足の重さ力強さが、あたしの元に返ってきた。
奴は当然、逃げたんじゃない。
あたしの攻撃が絶対に届かない遠距離から、瞬光弾をぶち込んで楽に勝とうって魂胆だ。
この戦法なら、自分の機体は傷一つつかない。
ううん、卑怯でもなんでもない。あたしが逆の立場なら、全く同じ事をするから。
ただ一つ違うのは、あたしは“あたし”の相手をしなくてもいいってこと。
「(パパ、ミッションディスク、MD-D3にチェンジ!)」
これはマイクを外して、オフレコにしないと。
「(やってるよぉ!)」
ディスクは、いわば機体のコントロールを自動的に制御できるプログラムみたいなもんで、上手く使えば攻撃率や回避率を上げたり出来る重宝なシロモノ。
普通の機体は、ミッションディスクを一枚しか持てないんだけど、うちのパパは“自分の脳味噌”に全てのディスクを覚えてる。
でもねえ、実際にマシンコントロールを司っているのは機械のコンピューターで、パパはそいつを操作したり、ディスクの内容を覚え込ませたりしてるだけなのよね。
そしてパパってば、なにやらせても鈍臭いからなぁ。
「急いでねっ!」
催促はしてみたものの。
回避率30パーセントアップを約束してくれるディスクの力には頼れないわね。
だって、もう向こうはきっちり構えてるし。
あたしの機体のセンサーは接近戦専用のワイドカメラアイだから、遠距離の映像がまるでぼやけちゃうんだけど、相手の図体の大きさのお蔭で、なんとか判る。
しゃーない、初弾は撃たれてやるか。
相手の筒先が光った瞬間、あたしは左手のレバーを握りしめながら機体を反対側に倒しこむ。
間髪いれず、グランザール様が握っていた白いプニプニ、通称「的」が大きく膨らむ。
光り輝くエネルギー弾が五発、寸分違わず的を貫いて、派手に散らしてくれた。
着弾と同時に、重力コーティングされたエネルギーが眩しく光って、こっちのカメラが一時的に光の盲目状態になる。
この辺の追加攻撃を防いでくれないのが、「的」の弱点なのよね。
ま、計算通りだけど。
「あーん、あたしの的がぁ!」
観客用に聞かせるためのマイクを再びオンにして、せいぜいシナを作った嘆きの声を聞かせてあげる。
やったー勝率が上がったとかなんとか喜んでる相手のコンピューターの声が聞こえてくるけど、んなもん知った事じゃない。
こっちは二本の足でただ走るしかないんだし。
あぁあ、せめて中古でもいいからリニアユニットでも履かせて欲しいものだわ。
そんなあたしの心の嘆きなど無視して、向こうが遠距離射撃特有の、のろのろした動作で砲身を向け直してきている。
「(パパ、出来たの?)」
「(も、もう少し…)」
パパも脂汗を書きながら、コンピューターに向かってぶつぶつとなにかしゃべっている。なにぶん、最高レベル3の難しいディスクの内容だから、時間がかかるのは仕方がないんだけどさ。
あたしは、ドライブギアをゆらりとゆらして、撃ってくる瞬間を推し量る。
相手の砲身が揺れている。まだ狙いを定めきっていない。
という事は、射撃を担当しているのはやはりパイロットね。
道理で、あたしが走って近づいても、逃げようとしないわけだわ。
じゃあ操作系を担当しているのは、オバカなコンピューターってわけね?
アハ、あたしの怖さは、所詮、機械じゃ判らないってことか。
「(パパ、やっぱりMD-L4にしてっ!)」
「(ええっ?!ここまでダウンロードしたのにかい…)」
「(いいから大至急っ!)」
文句は向こうのオバカコンピューターに言ってよね。
こんな千載一遇のチャンスを逃すほど、あたしはウブな小娘じゃないのよっ!
L4は、相手の楯をかわして攻撃を命中させるミッションディスク。
フィンファンネルとビームセイバーシールドで、防御率88パーセント以上を誇るあちらさんの本体に、正確に確実に一発でぶち込んで差し上げなきゃならないんだからっ!
だから、この攻撃さえかわせば、絶対に捕まえてみせる。
だから、絶対にこの攻撃はあたしのパイロットとしての腕でかわす。
だから、あたしはずっと“絶対無敵っ”で通してきた。
だから、なにが、なんでも…
パパは意外とチートですが、そこまで影響力は強くありません。
郁美は正真正銘のチートですが、チームの資金力が最低なので、ちゃんと試合の形にはなりますね。
本当のチートって、実際は豊富な資金を持つ事ですよね?