51.分かってる!
いよいよ、決勝戦。たいへんお待たせ致しました。ここまで、長かったなぁ…
もしかして、ここからが長いの?
いやいや、飽きさせないように読ませるのが、作者の技量でしょ?
いえいえ、読むか読まないか、飽きるか夢中になるかは、読者が決めることですからね。
試合前の宣誓の儀式。
「今日こそは、貴様を倒す!」
「あたしのグラン…じゃなかった、んと、あたしは絶対無敵なのよっ!」
アブナイアブナイ、機体が変わってたんだった。
なんか、あたし、油断してるなー
大丈夫だよね。罠とか仕掛けは、出来る限り徹底的に調べつくしたよね?
うん、油断も隙も無い。
よし、とっととギルティを片付けちゃいましょうか。
機体の反応速度は、さすがにdeath cowardの方が上かな?
でも、Sweet Bombには、“後の先”とでもいうべき、恐ろしい剣技が備わっている。
そして、あたし自身の反応速度に、CPUグランザールは過不足なくついてきてくれる。
パパが邪魔さえしなければ、何の問題もない。
「(あっしは何をすればいいんだい?)」
「(そうねえ…)」
オフレコマイクで尋ねてくる、相変わらず無邪気なパパにもお仕事してもらわないとね。
ディスクのインストール…グランザール、嫌がらないかしら?CPUだし、大丈夫かな?
「(そうねぇ、ヘッドキラーあたりでいいかしら?)」
「(りょーかい)」
あら、パパ元気ね。お仕事貰ってうれしいのね。
で、あたしは、グレートソードを中段に構えて、ギルティの出方を伺う。
デスサイズで斬ってくるなら、それを逆狙いで武器破壊、ね。
あたしの両腕のビームシールドLは、あんたの狙い通り、あんまり役には立ちそうもないけど。
大剣に付属されたオマケ効果、防御率10%を引き当てて、あんたの大鎌を弾き飛ばしたところを、バッサリ武器破壊ってイメージね。
ひるんでくれたら、そのままヘッドキラー効果であんたの頭部を頂いちゃいましょーか。
と、ギルティ、少し下がりながら、デスサイズを縦に、あたしに引っ掛けるように振り降ろしてきた。
向こうの武器の方が、ちょっとリーチがあるのよね。自分が斬られない位置から攻撃したいわけね。
ごめんね、それ、悪手だわ。
ドライブギアを前に倒すと同時に、右足のペダルをグッと踏み込む。
左脚のパワーペダルをスライドさせながら、左右の攻撃トリガーを同時にオン。
「姫様、行けます!」
「いっけー!」
さすがグランザール。あたしの意図を全て汲んでくれる。
剣技、後の先発動!
瞬足で間合いを詰めつつ、振り下ろされた大鎌の下から、大剣を上へと振り上げる!
あたしを狙う大鎌の攻撃は、踏み込むことで回避。多少当たるかもなのは、許す。
大剣を、大鎌の柄の中心部分狙いで振り上げた!
「武装頂きっ!」
真っ二つに両断されるデスサイズ。
そのままギルティの頭部に大剣を振り降ろして…
「ん?」
ギルティの両手に、短くなった柄の部分が残っている。
鎌は、跳ね飛ばしたので空中をさまよっている。
けど。
その、持っている柄の部分に、何か書いてある。
今までは何も書かれていなかったのに。
『卑怯な手』…
そう、卑怯な手。れっきとした正式武装。
ただし禁止武装指定されていて、そのあまりの凶悪さのために、武装の内部に強制停止装置の装備が義務づけられている、あの「卑怯な手」。
その起動装置も、れっきとした武装として用意されていて、「禁呪符」っていうのだけど、手に装備する100Crの安物で、コイツが放つ特殊電波を作動させれば、攻撃した瞬間に禁止武装に自爆装置が働くわけ。
こういうルールがあるから、禁止武装なんて使う人はいない。使うと分かってさえいれば、対策は簡単だから。
でも、装備していないと、意味なんてまるで無い。
で、ま、当然、んなもん持ってない。
だって、だって、だってぇ、武装の交換は認められていないんでしょ?
ギルティ、1回戦から、そんなもの持ってなかったじゃないのさぁ?!
え?うそでしょ?ありえないわ?!
「いくみぃ、あ、あれって…」
パパの悲鳴に近い声。まだ現実を把握できていないけど、身体はもうわかっている、ような声。
あたしも、そんな現実は見たくない。ありえないありえないありえないーとぶつぶつ唱えて、現実逃避したい。
ちょっと待って一体どうやって持ち込んだのよ、絶対ありえないでしょ??
「姫様っ!」
「分かってる!」
多分、すごく、とても分かってる。
頭はためらっていても、身体はためらってなんかない。
自分のものではないように、自動であたしの手足がドライブギアやフットペダルを操作して、ギルティの機体の頭部目がけて大剣を振り下ろした。
分かってる。
ギルティがそうなる事を全部計算した上で、デスサイズの柄の部分をあたしに斬らせて、武装を“分離”させたことも。
だから、あたしの馬鹿でかいグレートソードが振り下ろされるその瞬間、観客の目には“ただの棒っきれ”にしか見えない、元はデスサイズの柄で受け止められているように“見える”ことも。
当然、Sweet Bombが完全に硬直したことも。
だけど、空中に跳ね上げられたデスサイズの鎌の部分がさー、回転しながら落ちてきて、ギルティのもう片方の伸ばした手にスポッと収まるのは、さすがにやりすぎじゃないの?!
無茶苦茶、カッコイイじゃないのさ。
…受け損なって、腕ごと斬れてしまえばよかったのにぃ!
罠なんだから、何も無いわけなんてない。
罠なんだから、そう簡単にはバレないように、何重にも工夫して隠しますよ。
罠だと知ってて、分かってて突っ込んできたんでしょ?
まあ、そうなるように、巧みに誘導したけどね。
いやいや、相手は野獣、というより、化け物。
勝ったと思わず、油断せずに仕留めましょう。