50.しょーもない連中だもんね
例によって長い説明。
どうしても、この辺は文字数が多くなり、しかもいい所でカットできないですね。
読者を優先させると、端折るかオールカットでも良いのですが。
本作はマッチメーカーの世界観紹介作品でもあるので、「書きたい」所ではあります。
元のゲームも、セッティングには時間を掛けますが、試合自体はコンピューター判定任せになるので、それほど時間は掛かりません。モニターに現れるテキストを眺めている間に試合終了、なんです。
ん?ゲーム説明自体が、すでに長いゾ?
文句は多い観客たちだけど、嫌気がさして帰ろうという人は誰もいない。
なんだかんだいって、安全なところから命のやり取りを観るのが大好きな、しょーもない連中だもんね。
ま、あたしも似たよな口なんで、責めるつもりもない。
建前は“仕方なく” 闘ってるけど。
実の所“好きで”闘ってるんだよね。
ま、無駄に殺したいわけじゃないのは、昔っからだけど。
相手がドジって死んじゃう分には、しょーがないんじゃないの?
ただ。
パパがそっち側だったっていうのが誤算というか、知らなかったというか。
で、パパのヘビー級の機体を止められるのが、あたしのSweet Bombしかなかったんだから、マッチングさせるのは当たり前でしょ?というTⅠLTのコンピューターの馬鹿さ加減にムカついているだけの話。
で。
八つ当たりの相手としては、ちょっと方向違いなんだけど。
名目上、建前としては“TⅠLT代表”のギルティ・ランスと闘えるのは、罠と知って飛び込む価値がないわけじゃない。
大体、実の所、彼があたしと“好きで闘いたい”んだから、別にいいんじゃないの?
間違って殺しちゃうかもしれないけど、それはあんたのドジのせい。
あたしに無謀に挑んできたあんたのドジのせいよ。
そこんとこーよろしくねっと。
「いくみぃ。怖い顔してるぞ」
あらやだわパパ。
女優としたことが、こんなことじゃイケナイわね。
「姫様。相手の分析が完了致しました」
「ん。報告して」
努めて平静なふりを装いつつ、顔を整える。
あたしに心があるように、パパにも心があるんだから。
怖すぎる娘とか思われないようにはしとかないとね。
ま、正直、パパとの試合は、あたしのドーリングの中でもかなり面白かった。上位3番目の中に入る位。さすが、お互い連勝中同士の、闘うことが好きでたまらない同士の試合だった。
あの時のパパの相手は、ギルティにはまず務まらなかったでしょう。
1st.の、エースのあたしにしか、務まらなかったわ。
その彼の機体のことを、CPUグランザールが冷静な声で報告してくる。
「相手の機体は“death coward”、通称 “死神”です」
うん、知ってる。
あたしにつけられたあだ名とは別の意味で、対戦相手から恐れられていたからね。
実際、死神をモチーフにしたデザインだし、見た目も実力も正に“死神”そのものだったわ。
「サイズはミドル級。武装は両手持ちのデスサイズ、腕装備はホークマスターとコールドクロー。肩装備はキラーボイスとビームコーティング施工のマントです」
一応確認した分析動画と同じ。っていうか、同じじゃないと困る。大会規定で、連戦形式だから機体や武装の交換は認められていないしね。
むしろ、あたしがなんでSweet Bombへの乗り換えが認められているのよ?
ま、実際に「乗り換えた」んだから、いいのか。
リザーバーの機体なんだから、いいことにされたのかもね?
んで、肩装備の、超音波で相手の動きを封じるキラーボイスは中距離で。
腕につけた、超接近戦用で相手の動きを封じつつ致命傷を与える、コールドクロー。
この辺の装備で相手の動きを封じ込めて。
両手持ちのデスサイズで、じわじわといたぶるように相手の機体を切り刻むのが、ギルティのやり口。
デスサイズは相手の盾回避率がすごく高いので、ハマるとものすごく強い。
しかも攻撃が命中すると、突き刺しと切り裂きの両方の判定が発生する優れもの。
武器の形状から、盾の上か横から相手に突き刺し、そのまま引くと相手の機体を切り裂いていく、というわけね。
しかも実体武装なので、故障は絶対しない。
でもねーこの武器、故障はしないけど、“破損”は普通にするでしょ?だって柄が細いもん。
あたしがスカウトされて入ったTⅠLTで、彼と模擬試合やった時、ご自慢のデスサイズを叩き折って降伏に追い込んだこと、よく覚えているわ。
ま、普通の相手なら、そんな闘い方はしないから、そのまま使っているんだろうけど。
1、2回戦も危なげなく対戦相手を切り刻んでいたけど。
あたし相手に、まだそれ使うの?
まーいーけど?
で。
もう一方の肩には、装甲は薄いけどビームコーティングが施されているマント。
色はいかにも死神っぽい、黒。改造していて、マントというよりローブって感じ。
マントは、身代わり効果もあるので、割と使いやすい武器。盾のように装甲で防ぐことはできなくても、相手の攻撃をそらす効果はある。
んー100%防げるわけじゃないけど、何回かは使える“的”(1度だけ物理攻撃を絶対に防げる。10cr)みたいなもんかなぁ。
んで、腕には、炎をまとう鷹型のメカを操るホークマスター。
こっちは保険みたいなものかしら?自分の武装は中近距離向けになっているので、逃げに徹する相手への攻撃手段を持っておいている、という感じだと思う。
ん-、機体も武装も、ちょっと中途半端。正直、よく決勝戦まで生き残れたわねぇ、って感じ。
ま、それいうならあたしだって、あのグランザールで準決勝まで来ちゃってるしね。エンジンと武装はすごく良かったけどね。
そうよね。TⅠLTだもんね。これ位、当たり前にできるからね。
ギルティは初、中級の、いかにもチート使ってますな、勢いついてるチームの心と機体を刈り取る「死神」として。
あたしは、成長しきったヘビー級のチートマシンに「死を告げる天使」として。
役割分担して、やってきた。
だから、ギルティがミドル級の機体を使うのは当然なの。
相手がまだ、ヘビー級の機体を買えるまで勝ち進んでいないから。
そういうクラスに参加するのに、自分だけヘビー級に搭乗るわけにもいかないから。
そういうことなんだからさー
だからさー模擬戦であたしが勝っちゃったって事をいつまでも逆恨みしたってしょうがないじゃない?
あたし、普通にあんたより強いし。
そもそも、Sweet Bombに組み込まれたCPU“グランザール”の「忠誠の試練」を乗り越えたのはあたししかいなかったんだから、重量違いだとか言わないでよね。
誰も乗りこなせないようなもん造っといて、あたしのことをスカウトしておいて、負けたからって逆恨みじゃーとか、ホント、知らないわよっ!
いちおー手加減はしたのよ?
先輩なんだし。
模擬戦なんだし。
だから、武器折った位で済ませてるでしょ?
えらいでしょ?
本気出してないのよ?
あんたの、勝つためには何でもやる精神だけは尊敬してるけど、ちょっと、相手が悪すぎるんじゃないの?
やだなぁ、スカウトしてきたとはいえ、マッチメーカーに関しては全くのド素人に手加減されて武器破壊で済ませられ、エースの座も奪われてザコ専門にさせられるとか。
甘んじて受け入れる、なんてできないのですが、面と向かって言い逆らうのもカッコワルイ。
受け入れるフリ、をして、忍従の日々を送ってきたのです。
いつか、絶対に復讐してやる、その時まで。