表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sweet Bomb  作者: 白河夜舟
7.卑怯上等っ!
57/75

49.どこの鬼が出てきたのかしらね?

 1時間で新しい機体を試合前調整しといてね、って。

 ホント、鬼ですね。

 いえまあ、本来はグランザールに搭乗るはずだったわけで。

 でもなぁ、フィンファンネル、全滅だしねぇ。

 こういうの、「渡りに船」って言うんでしょ?

 まあ、あたしのパイロットレベル(評判)がどうみられるかなぁ、と、ちょっとは気になるけど、ま、大丈夫でしょ?そもそもあんなハメ技、あたしにしかできないしねー

 (げん)さんのメカニックレベル(評判)は、試合(ドーリング)自体は成立しているので、しかも一応は勝利なので、なんの問題もないわね。

 その(げん)さんは、正面のサブモニターの奥で、機体の各パーツの微調整(アジャスティング)にいそしんでいる。

 インカムであたしたちの声や歌は聞こえてると思うんだけど、それどころじゃないらしい。

 ま、そーだよね。

 少しは構ってくれないかなぁとか思っちゃだめだよね。そっとしておくのが、(げん)さんへの愛だと思うわよね。どうも、忙しそうにしてる人を見ると、ついつい構いたくなっちゃうのよね。

 あたしはなにやってんのかって?

 忙しいとか言ってる割に、なんだか暇そうにみえるって?

 ん、まあ、単調な反復運動をSweet Bombのコクピット内でやってるだけよ。

 ほら、単調な運動してると、だんだん飽きてこない?

 歌の一つでも歌いたくなるでしょ?

 ドライブギアの微調整、フットペダルやクラッチの踏み込み、パワーペダルのスライド具合とか、そんな感じ。

 ほんっと、一年ぶりなもんで、あちこちの動きが微妙に合ってない。おっかしーなー、あたし以外誰も搭乗()ってないんでしょ?

 ま、誰も整備していない、ということにもなるからね。ゴメンねグランザール。

 で、あたしの大事なCPU(グランザール)は、あたしの意志を組んで、過激セッティングな操縦のニュアンスを再学習してくれている。

 メインモニターに仮想対戦相手(ペルソナ)を用意して、あたしがどう反応するかに合わせて、最適な仕方でドライブギアやペダルが動かせるように、合わせ(アジャストし)てくれる。

 でもねえ、調整用(テストモード)だからしょうがないけど、なんかもう、(ザコ)すぎて飽きてくる。

 まあ、無茶苦茶強い(変な)の出されると、こっちも本気(マジ)になっちゃうから、それじゃ調整(はなし)になんないのはわかってますって。

 そ、こういうかゆい所に手が届くみたいに調整(サポート)してくれるのは、まさに職人技(CPU)よねえ。

 ホント、大好きよグランザール(あたしの騎士様)

 でも、CPU(グランザール)にできるのは、あくまで“数字(データ)”だけ。機体の各箇所(パーツ)にその数字(データ)を落とし込むのは、(げん)さんのお仕事でーす。

 …いきなり新しい機体(Sweet Bomb)寄こされて、1時間で仕上げろって、どこの鬼が出てきたのかしらね?

 あたしのせいじゃないもんね。運営本部(オバカの集まり)か、TⅠLT(パパの仇)か、ツマラナイ試合を立て続けに観せられてお怒りの(かわいそうな)観客か、しょうじょうじの(陰謀が大好きな)たぬき(オーナー)か、ほかになにかあるかな、まあその辺のせいにでもしといてよ。あたしに八つ当たりだけはやめてよね。あたしはせーじゅんなじょしこーせいだからねー

 そんな感じで、あたしの相手をCPUグランザールにさせている間に。

 パパには大事なお仕事をやって貰っている。

 TⅠLTが、なんの見返りもなくSweet Bombを手放すはずはない。

 絶対、どこかに罠を仕込んでいるはず。

 機体か、CPUか、武装か、オーナー…は、さすがにないか。源さんもありえない。

 運営の(組み合わせ)は、十分すぎる位に仕掛けてるしなぁ。もう無いでしょ?

 あたしが分かっててハマってあげてる“ハメ技”、Sweet() Bomb()に、何かどこか絶対に仕掛けが施されてるはずなんだけどなぁ。

 どこを探しても、見当たらないみたい。

 操縦や機体管理はともかく、こういう細かい所は、パパの得意分野じゃないのかしら?

 卑怯上等、見破って倍返し!なんてうまい話はさすがにないものだわね。


(いく)ちゃん、いいかい?」

「どうぞー」

「できる限りの調整(アジャスティング)はした。こいつに組み込まれているCPU、ものすごく優秀だなぁ」

「おいおい、あっしよりもかい?!」

 そこのおっさん、すかさず割り込んでこない。今大事なところなの。

「どれくらい廻してもいい?」

「目いっぱい。壊すつもりでヤッテいいぞ」

 ひゅー!

 あの慎重派の(げん)さんが、そんなこと言うだなんて。

「こいつを組み立てたメカニックは、わしよりはるかに上の技術者だ。ただ、普通のパイロットじゃ手に負えんわな」

 あーうん。知ってる。

 あたしが前に所属していたチーム“TⅠLT”の中でも、Sweet Bombを搭乗()りこなせた人はいなかった。あたし以外は。

 さっきの試合だって、CPUに対人プログラム組み込んだだけでも十分に“リザーバー”できるだけのことは、あると思う。これに腕のいいパイロットが搭乗()っていたらと思うと、ゾッとするわ。

「でも、(いく)ちゃんなら、難なく搭乗()りこなせるんだ、ろ?」

「まーねー」

 元々の主人(あるじ)だったしね。

 もう、そのネタはパパにバレてもいいしね。だってCPUは“グランザール”だし。

 ってか、バレてるんだよね?

 パパ、なんにも言ってこないんだけどなぁ。

 ま、聞かれない事に(寝た子を)わざわざ答える(起こす)必要もないしねぇ。

「じゃあ、大船に乗った気持ちで、試合を観させてもらうよ」

「うん。楽しみにしてて」


 そ。この時までは、あたしも(げん)さんも、多分パパもオーナーも。

 油断はしてないけど、まあ、負けることは考えていなかったのよね。


 全部、手のひら。思い通りに罠に嵌ってくれてる。

 罠だと分かってる。でも大したことないんでしょ?


 まるで、猟師と野獣の駆け引きですねぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ