46.いまさら何よ。遅すぎるのよ!
とにかく、勝てた。
とにかく、生き延びた。
らしくない闘い方でも、なんでもいい。
なのに、なんでこの親父は、いまさら、の~天気に出てこれるんだろ…?
「いくみぃ!」
いまさら何よ。遅すぎるのよ!
「そんなツレナイ顔すんなよぉ!」
あたしがどんだけ苦労したと思ってんのよコノ馬鹿親父っ!
「姫様、申し訳ございません。この侵入者を排除できません」
いいのよグランザール。相手は腐っても元人間。コンピューターには無理なのよ。
あたしが観ているモニターに、パパは現れることが出来る、らしい。
で、乗っ取った、って言い方は変よね。元々あたしのものであるSweet Bombに降伏させて、なんとか決勝に進むことが出来たわ。
観客からは、わけのわからない、しかも対戦相手同士が抱き合ってコクピットを乗っ取られて試合終了という、派手さのかけらもない終わり方に違和感を感じているみたいなんだけど。
知らないわよそんなの。フィンファンネル全滅しちゃったんだから、それでカンベンしてよ、もう。こっちは大損なのよ。
そもそも、子供でもお年寄りでも、いっそ犬でもいいから、最低パイロットはいないと規定違反じゃないの?どーなってんのよ!
で、もっとわけわかんないのはパパの方よ。いまさらのこのこあらわれて「いくみぃ」なんて呼ばれちゃったって、どう返事すればいいのさ、もうっ!
~ ・ ~
「オーナー、最初から知ってたわね?」
あたしは、鬼の形相で狸を睨みつける。
「い、いや、あの、その、つまりだな…」
オーナールームのソファーの後ろで怯える小動物。
ソファー越しにゆっくり追い回すあたしと距離を保つように、ソファーの周りを周回するオーナー。
距離保ってぐるぐる周回ればハメられるってもんじゃないのよ。
あたしは人間。おバカなCPUと一緒にしないで。
「あたし言ったわよね。まともじゃない機体で勝ち抜けるほど甘い大会じゃないって」
「そ、そうかな?そんな風には言ってないのでわ」
「言ったっ!」
「いや、あの、その…」
ああんもう、埒が明かないわね。ダッシュしてとっ捕まえちゃおか。
いっそ飛びつこうとしたとき、オーナー用の緊急回線のコールが鳴った。
オーナーと顔を見合わせる。
でてもいい?
ああんもういいわよ。
アイコンタクトして、オーナーが回線を繋ぐ。
んげ、ギルティ・ランスだ。
「アズラエル、オーナー様と一緒にいるのですね。この度は勝利、おめでとうございます」
なによイヤラシイ。相変わらず声だけはいいけど、あんたがオーナーとつるんで陰謀巡らしてるの、知ってんだからね。
知ってて乗っかってやってるだけなんだからねっ。
にしても、今回は厳しい、キビシかったんだけど、ネ!
「今回のリザーバーの件は、オーナー様には伝えていなかったんですよ。どうぞ、彼を責めないであげてください」
ふん、どうだか?
オーナー、知らないふりしてあんな反則ぶつけてきたって方が信じられるわ。
「本当はうちの2st.パイロットのディランが搭乗るはずだったのですが、手違いでできなくなりまして。大会へは、そのように登録したのですよ」
あーやっぱりね。パイロット不在は、そういうことだったのね。
あのビームセイバー使い、ディランっていうんだ。
「自分の機体で闘いなさいよ。そういうもんでしょ、ドーリングは」
「うちのチームとしましても、いつまでもアズラエルの機体を保管して置くわけにも行きませんので」
まあ、そりゃそうだけど。普通に処分でいいじゃない?
あーん、そうもいかないか。搭乗れさえすれば、使えるものね。
「こちらも、何かと不手際がありましたことですし、オーナー様にSweet Bombを引き取って頂けないか、という相談の緊急回線接続でした」
へー。悪くはないけど、まあ決めるのはオーナーね。
オーナーが、じっとあたしの顔を見る。
どうする?
わるくはないんじゃない?
アイコンタクトして、オーナーが頷く。
こらこら、条件とか、お値段とか、色々あるでしょ?
そういうの得意なんじゃなかったの?
「ただし、条件がありまして」
ほら来た。
ギルティはなぜか得意げに、少し顔を紅潮させて話し出す。
「決勝では、Sweet Bombを使って頂きたいのですよ」
そう来たか。
また、オーナーがあたしを見る。
アイコンタクトはいいわよ、もう。
「大会本部や、トーナメント規定はどうなってんのよ」
「その辺は、大丈夫です。私も、準決勝は不戦勝扱いですので、観客が不審がっています。今一度盛り上がるためにも、ぜひ」
そんな期待を込めてあたしを観ないで、ギルティ。
あんたと仲良くアイコンタクトなんて、絶対にゴメンなの。
「乗るのは構わないわ。機体の料金は?」
「ただで構いません。アズラエルしか搭乗れないですし」
へえ、気前が良すぎるわね。
「裏があるのね?」
「無いですよ。決勝戦で、わたしが、派手に誘爆させてあげるのですから、代金は頂かなくて良いのです」
そこまでして、あたしに1st.ドーラーを奪われた昔の軋轢を乗り越えたいのね?
「随分と大きく出たわね」
「はい。今のうちに、遺言の準備をお勧めします」
「そっちがね」
あたしとギルティ・ランスの間に、アイコンタクトが生じた。
肝心な時に使い物にならないパパが宿る“グランザール”に搭乗る位なら。
昔から慣れ親しんだ“Sweet Bomb”と、あたしのやりたいことをきちんとかなえてくれる“CPUグランザール”の方がはるかにいい。
源さんには、また無茶なお願いしちゃうけど、なんとかしてくれるわよね?
「では、1時間後、決勝戦でお会いしましょう」
紅潮した頬を鎮めるように、事務的な口調でギルティは回線を切った。
怒りは、オーナーへ。
と思ったら、黒幕登場。
ギルティは、郁美が負けるとは全く思っていません。
そして、全て自分の手の内、予定通りに進んでいることを確信しています。