45.あ、風が気持ちいい
ちょいと長いですが、勢いというか、もうこれはカットできないです。
作者も長いブランクから勢いで書き上げているので、もうこれはカットできないんです。
機体の周りを周回させていたフィンファンネルたちを、Sweet Bombの周囲に、大きな一列の円を描くように周回させる。
距離は当然、ヤツの大剣がギリギリ届かない距離で。
そして、こちらからは撃たないディフェンシブモードのままでね。
Sweet Bombは足を止め、大剣の先を地面に降ろした。
この辺の対応は、プログラムされてるみたいね。
まあ、ありがちな作戦だしね。
んで、近寄ってきたらバッサリ、なのね?
同時に撃ってきたら、どうするんだろ。シールドで受け止めつつ、射撃時の硬直時間のスキをついて何機か同時に叩き斬る、ってところかな?
フィンファンネル、火力自体はそんなに強くないし、Sweet Bomb本体はビームコーティング加工の装甲を何枚か施していたはず。
いいわよね重量級。上乗せ装甲だって積載るもんね。
いいのよ捕まえさえすれば。穴開けて内部から壊せばいいんだし。
だいたい、装甲なんて射撃に対する備えでしかないんだから。(いや、そんなことないけど、強がりたいのよっ!)
んで、どうやって懐に飛び込もうかしらね。
うかつに飛び込むと、待ってましたとばかりに一刀両断だわよね。
フィンファンネルの周回に、上下運動も加えてみる。波のように、上に、下に動かしながら周回させてみる。
足が完全に止まってくれたのは、正直助かるわ。
いつ斬り込まれるか、内心ヒヤヒヤしてたしね。
観客のザワザワなんか完全無視で、あたしのグランザール様にも上下運動に参加してもらう。顔を上、下、右、左に動かしながら、伸長、屈伸を繰り返しつつ、右手も左手もパラパラを振り付けながら、フィンファンネルで囲われた周回の柵のさらに外側をゆっくり回り始める。
Sweet Bombはあくまでもこちらを向いている。その場で、あたしの動きを追いながら旋回している。
訳の分からないあたしとファンネルたちの死のダンスに、魅入られているかのように。
そしてあたしの左手は、キーボードの叩きすぎで、もう死にそうに痛い。
ホントに、パパ、起きてよぉ!
パイロットスーツの内部処理が追い付かない位、全身から、特に脇の下から汗が滴って気持ち悪い。
いいダイエットになるわ、これ。
二度とやりたくないけどね。
ファンネルたちに、いよいよ円の内部、外部への運動を加えさせる。
Sweet Bombにすこぉし、近づけさせ、すぐに外に出す。
周回しながら、円を縮めたり広げたりさせてみる。
あたしの本体も、その収縮に合わせて近寄ったり、すぐに離れたりしてみる。
反応は?
ん、手ごたえあり。
Sweet Bombの腕や足が、近寄るたびにビクビク震えている。
プログラムされた間合いの、その距離を踏み越えたら自動で斬り付けるのね。
そして、自分で動いて、自分の間合いを確保するようなことはできないのね。
出来るのは、ゆっくり近づく事位で、後はたぶん、逃げたらファイヤーバードアタックのブーストを使って追いかけるのね。
今のあたしの機体も、難しいことはできないんだけど、近づく事位なら何とかなる。
精密に動かせるのはCPUの干渉を受けないフィンファンネルで、Sweet Bombの厚い装甲やシールドを貫けるほどの火力は、正直言って無い。
このまま時間切れ狙いも、有りかなぁとか思うけど。
ハメられそうなら、ハメるだけよね。
フィンファンネルを、急にランダム運動させて、向き合うSweet Bombの背中の方から一斉に突っ込ませる。
待ってましたとばかりに、恐ろしいスピードでSweet Bombが振り向き、ファンネルたちを容赦なく斬り払っていく。
あたしのグランザールは、爆散していくファンネルたちの輝きの中を、ゆっくりと、そう、ゆっくりと、ゆっくり、近寄っていく。
一気に飛び出さない。歩いて、ゆっくり、あくまでもゆっくり。
いつ振り向かれるか。
いつあの恐ろしい速さの斬撃が飛んでくるか。
この距離だと、もうかわせない。バッサリ斬られておしまい。
ヘルメットの中の空調が間に合わない位、あたしの汗と体温で曇ってきている。
全身から噴き出す汗で、スゴク気持ち悪い。
大丈夫、このハメ技で合ってるはず。
だって、あたし“絶対無敵”だもの。
すっごく長い時間が過ぎたように思ってたけど。
気が付くと目の前に、懐かしいSweet Bombの背中がある。
あたしの機体の約3倍の大きさ。まるで、小さな子供が親の背中というか、お尻の辺りにしがみつく感じかな。
今、気が付いた、みたいに、Sweet Bombが振り向く。
斬る相手がいなくなったのね?
あーあ、フィンファンネル全滅じゃない。
まったくもー、補充効かないのよー
攻撃は、しない。
両手のフィールドパンチAPの力場スイッチを切って、Sweet Bombの大剣を持った腕の中をくぐるように、巨体にしがみついてよじ登っていく。
攻撃じゃない。
だから、反応できない。
人間ならありえないんだけど、なんたってCPU。
オバカだもんね。
まあ、怖いといえば怖くないわけじゃないけど。
ファンネルやあたしの行動への反応から、多分、これが正解の“ハメ技”ね。
硬直したSweet Bombの胴体まで、あたしのグランザールをよじ登らせた。
恋人が抱き合うように、というよりは、子供が親に抱えられてるみたいね。
緊急脱出レバーを引き、あたしはグランザールを出る。
そのまま、Sweet Bombの胴体の…確かこの辺に認証パネル開封口が…あったわ。
ヘルメットのバイザーを100%クリアにしたけど、汗と体温で曇ってて、ちゃんと見えなさそうね。
バイザーごと外す。
あ、風が気持ちいい。
瞳孔認証、完了。
生体認証、完了。
コクピットシートが開き、あたしはなつかしいSweet Bombのコクピットに入った。
思った通り、パイロットはいない。無人で動いている。
機体を操作しているのは…
「ただいま、“グランザール”」
「お帰りなさいませ、姫様っ」
声紋認証、完了。
あたしは、久方ぶりに、CPU“グランザール”の主人に、戻ってきた。
郁美がようやく、Sweet Bombに戻ってきました。
作者がようやく、物書き業に戻ってきました。