5.今すぐにカラダで判らせてあげるわ
資金が多いと、やりたいように機体を設計できますね。
公式の試合では資金は公正に管理されますが、裏の試合ですと色々と抜け穴があるようです。
超高粒子バリアーに被われた、3キロ四方に渡る平面の闘技場。
その中央に、あたしは機体を進める。
待つまでもなく、派手なカクテルライトに包まれて、あたしのお相手が現れた。
うわぁ、こいつはまた、カネかかってそうな機体だわ。
機体はヘビー級のハイパワー対応バージョン。あたしのグランザール様とは、自転車とトラック位に体格差がありすぎ。
当然、エンジンは規格目一杯のを積んでるんでしょうね。あたしのグランザール様みたいに、最低規格の安物エンジンで動いているのとはわけが違いそう。
両手にはウィールユニットという、いわば手に車輪を取り付けた装備。両足にはブースターを履いて、機動力を最優先させているってか。
通称“四つ足”。アニマルスタイル、ね。
両手が使えない以上は、接近戦なんか絶対やらない。
当然、両肩には遠距離用射撃装備が積んであるのよね。
遠距離専門の射撃武器の雄、相手の攻撃が届かない射程外から重力コーティングしたエネルギー弾を連射する恐るべき武装、瞬光弾速射砲。
サイコミュ搭載の遠隔誘導攻撃装置、8機のファンネルを同時に操り、各々が発生させるフィールドバリヤーで機体をガードし、敵がどこにいようとも追尾してビームの雨を降らせるベストセラー武装、フィンファンネル。
右腕には、ロケット、ミサイル、グレネードなどを完全に自動迎撃する信頼性の高い速射砲、ファランクス。
機体を保護し、接近戦の場合には頼もしい剣の形態に変化する、収束したビームの楯、ビームセイバーシールドLを反対の腕に装備している。
強そう。
上手そう。
豊富な資金をどこに使えば良いのか、しっかりと理解している。
マッチメーカーに有効な武装をよーく判っていて、正統派の遠距離系機体として闘ってきたことがよく判るわ。
ただ。
あたしの事は、なんにも判っていないみたいね。
今頃、こっちの貧弱な機体や武装の情報を見て、どんな顔をしているのかしらん。
「いくみぃ…」
不安を通り越して、青ざめきっているパパの顔。
「アハ、なんて顔してんのよ。それより、アイツの首賞金、一体幾ら位になるのかしらね?」
「おーい、まだ勝ってもいないのに、そんな狸の皮算用はだなぁ」
「どして?相手の機体価値が高ければ高いほど、大会本部から支給される首賞金も高くなるのよ?それに、こんな安い機体で機体価格差をものともしないで勝てる機体を作ったという事で、源さんの評判も一気に上がるし」
あたしにとっては、ありがたい事この上ない話。
なんたって、一試合で借金を1万cr以上返せちゃうんだから。
むしろ、カワイソウなのは相手チームの方よ。万が一あたしに勝っても、機体価値による首賞金は全くつかないのよ?
全く、パイロットレベルも考慮して欲しいものだわ。あたしに勝つって、大変な事なんだけどね。
「だっていくみぃ、やられちゃったら、賞金もなにもないんだし…」
「んもう、パパまでそんな事言って。たしかに向こうは遠距離で無類の強さを発揮するでしょうね。でも、いつも通り捕まえてしまえば、こっちは接近戦のスペシャリストなのよ?」
「そんな事言ったってだなぁ…」
「シッ、始まるわよ」
試合前に、お互いに名乗りあうのがルール。
騎士道的な決闘のルール、というよりは、観客へのサービスリップって奴で、各パイロットはそれぞれ、自分の決めゼリフを宣言するのよ。もちろん黙っていてもいいけど。
「キサマの命運もこれまでだ!」
あたしのお相手のパイロットは、その辺の機微がよく分かってるみたいで、なかなか挑発的なセリフを言ってくれる。
「あたしのグランザール様は、絶対無敵なのよっ!」
あたしもお返しの決めゼリフ。
ウフッ、今すぐにカラダで判らせてあげるわ。
遠距離系の機体は、無傷で勝ちやすいので人気があります。
特に瞬光弾速射砲は、命中しなくてもフラッシュ効果で相手のカメラを一時的に見えなくさせることが期待できます。