38.コブとポンスケ
親には親の事情というものがありまして。
でも、そういうことに興味を持ちだす子供のことを、親は割と嬉しく思うもののようです。
ん~ぶちまけちゃったかなぁ。でもねえ、オーナーとパパが揃っているときにこそ、その辺の裏事情は知っておきたいのよね。
「ブラックマーケット関連か、シンジケート関連か、軍関係か、その全部か、他にもあるの?」
「ハハ、なんだいそれ?あっしとオーナーは学生時代からの付き合いで、ポンスケは昔から頭が良かったからなぁ。難しいことは、あっしにはわからんよ?」
学生時代?
まあ、パパにもそういう時期があったのは頭では分かるけど、心ではわかんないわ。
それにしても、ポンスケ?
「やかましいわ、コブのくせに!」
珍しくオーナーが声を張り上げた。
コブ?
「なんだよポンスケ、折角ほめてやってんのに。お前昔から素直じゃないよなぁ」
「その呼び方は止めろと言ってんだろが、コブのくせに!」
なによ、コブって?
「いいだろ別に。かわいいだろポンスケ」
「かわいくないわっ!」
ああ、学生時代のあだ名なのね。
ポンスケ…オーナー、昔から狸顔だったのね。
んじゃ、コブもあだ名。コブ、コブ、コブ…とり?
小太り、かぁ…
まあ、昔のあだ名を言われたくない気持ち、わからなくもないかな。
あたしの昔のドーラーとしてのあだ名も。
あたしの体型の遺伝的な原因としてのあだ名も。
顔とか体型とかさぁ、そういうのイジクルの、やめなさいよもう。
って、あたしも結構ヤッテんのか。
ッテ、あたしはいいのよ、青春真っただ中のジョシコーセーなんだからっ!
むさいおっさん3匹に囲まれて大事な試合に行かなきゃならないこっちの気持ちにもなってミロってーの。
ま、源さんだけは大好きだから許してあげるけどねー
にしても、イケメン成分が足りないわ足りないのよ。
そんなあたしの気持ちも知らずに、ポンスケとコブは仲良さげに昔話の花を咲かせている。
どうも、うちの母ちゃんも含めて同学年同級生だったらしくて、卒業後も付き合いは続いていたらしい。
パパと母ちゃんが、狸に結婚報告にいったら、ポンと結婚資金を出してくれたのが自慢なんだかなんだとか。若い頃の狸、結構羽振りが良かったみたいね。
で、あたしが生まれてしばらくして、オーナーがパパに、ドーラーにならないか、と誘ったのね?
闇事情関係、裏事情関係は、あんま関係ないらしい。
じゃあ、なんでまた、こんな危ない職業を選んだのよ?
聞いてみたら、お前はまだ知らなくていいとかなんとかごにょごにょ言ってたけど。
単純に生活費が足りなくてローンも返せなくなってた、という話らしい。
…はぁ。
大の大人が夫婦してなにやってんのよ。
母ちゃんはどこまで知ってんの?と念のため聞いてみたら、全く知らない、うまく隠し通したのだと、パパとオーナーは自慢げに声を揃えてのたもうた。
別業種で働いていることにするという、あたしとおんなじワンパターンで最強な隠蔽術か。
ま、だまされやすいお調子者、という所も夫婦そろっておんなじか。
んで、あたしもその辺の血筋をしっかりと引いているのかもね…
あだ名で呼び合う仲の良さ。ついでに同学年同級生、男子二人女子一人。
青春ですなぁ。
青春はいいんだけど、生活費に困って泣きつかれたので、チョイとアブナイお仕事だけど、ヤッテみる?みたいな話で、おーい青春はドコいったんだー
世の中、そんなもんです。