34.シャワー浴びて、着替えといで
新章開始。
5.鉄拳無双は、半分位は当時、書いていたものがありました。
6章からは、最初から書き上げています。
未完の作品を完結させたい思いで書きました。お楽しみ頂けると幸いです。
ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐く。
2回、3回、同じ動作を繰り返す。
気が行き巡ってきたのを感じてから、右正拳を放つ。
拳を引く動作に合わせて、左下からアッパー気味に掌底。
左肩もそのまま入れて、右足を踏み込んでショルダータックル。
受け止めて貰えるなら、流れのままに組み打ちを掛ける。
かわすために下がるなら、もう一歩踏み込んで右から派生技。
相手のカウンターは…
「まだやってんの?もーかえろー」
かわいい声で、我に返る。
みーよに頼んで貸し切りにして貰った、学校の武道場。
もう2時間過ぎちゃったんだ。
集中し過ぎて気が付かなかった。
「もー、汗でびしょびしょだよ?シャワー浴びて、着替えといで」
「はーい」
道着なんてもんは着ない。
あたしには似合わないし、そもそも持ってない。
普段から着ていて、動きやすくて、汚れても破けても替えが効く学校の制服が一番いい。
あたし、こんなんだから、理事長との契約で替えの制服は常に準備してもらってるし。
第一、あたしには一番似合ってるし。
「そんなに好きなら、部活入ればいいのに」
「えーそういうのめんどくさい」
正確には、部活の連中ごときじゃあたしの相手なんて、話にもなんない。
一人でイメトレしてた方が何倍もマシ。
時々学校に攻め寄せてくる不良とか半グレとかが束になってかかってきて、どうかなぁ、って感じ。
格闘のプロが武装してきて初めて、ようやく本気ださなきゃレベルのあたしが、こんな真面目に修練する必要あるかなぁ、とは思うんだけど。
自分の身体そのものでイメージしておかないと、ドーリングのとき、グランザールさまがちゃんと反応してくれないんだよね。
普通のドーラーが、単にドライブギアとパワーペダル、クラッチで操縦できてるのは、コンピューターのサポートがあるからこそ。
なんなら、人間は搭乗ってるだけでいいという話さえある。
普通、ならね。
上級のドーラーは、コンピューターに操作を任せたりしない。
自分の身体の感覚をそのまま操作系にリンクさせる。
ドライブギアやペダルなんかは、コンピューターに「このへんを動かすから邪魔しないで」と伝えるようなもの、とあたしは思ってる。
だって、さすがに、コクピットの中で自分の身体を使って暴れるわけにもいかないでしょ?
郁美は、とにかく制服にこだわっています。普段通りの格好で普段通りに動きたいのです。
何なら、ドーリングの時でも制服を着ていたいのですが、さすがにそれは無理ですね。